第11話 秋菜の演技
「ここがスタジオ……」
「どや?中々に広いやろ。ま、あんたが前住んどったとこと比べたら狭いかもしれへんけどな」
葉乃についていき、私はスタジオに入った。……思ってたより中は広かった。まぁ……魔王城程では無いが、ただのスタジオと城を比べるのはな。
「お、来たか花飼。三日月、毎度毎度ありがとうな」
「いえ、これくらいなんてことありませんよ、監督」
この男が……監督と呼ばれる男か。ドラマを作る上で無くてはならない存在。こうして見るとなかなかに威圧感のある男だな。
「……ん?誰だお前」
「あー、監督。こいつはうちの推薦で連れてきた子や。朧役の推薦でな」
「マジか!花飼、見つけてきてくれたのか!」
「演技の方の実力はうちと同じくらいかそれ以上はあるで、うちが保証する」
「お前中々に凄いのな!俺は監督をしている
「春陽秋菜です。よろしくお願いします、充希監督」
「ところで花飼……お前、まだちゃんとした春陽の演技見た事ないんだろ?」
「え?あぁ、確かにちゃんとしたのは見てへんな」
……なんか若干嫌な予感がする。いやまぁ、確かに常日頃演技はしてるからいつでも出来るんだが。確かに、まぁあの演技力の真奈穂が推薦するんだから実力は気になるよな
「俺は今、春陽がどんな演技をするのか興味がある。……三日月、台本二つ持ってきてくれ」
「はい、わかりました!」
そう言って葉乃は台本二つを取りに行き、持ってきて私と真奈穂に渡した。これは……二話の?
「今から撮りはしねぇけど、軽くお前ら二人に演技してもらう。なに、まぁオーディションとでも思ってくれ。といっても、余程酷い演技をしない限りは合格だ。もちろん、台本は見ていいぜ。この短時間で覚えろなんて言うほど鬼畜じゃねぇしな、俺は」
「って訳やから、準備しぃ。演技は楽しむもんやからな。お互い気楽にやろや」
「気楽にねぇ……」
私と真奈穂は、監督の指示に従ってスタジオにある舞台の上に行く。……凄いな、アイドルのステージだけじゃなくてここの舞台でも光を浴びれるのか。
「それじゃあそうだな、五ページ開け。まずは巴と朧の初対面のシーンからだ。よーい……アクション!」
監督が合図してカチンコを鳴らす。……カチンコについては、昨日夏芽に教えて貰ったからわかる。……カチンコが鳴った瞬間、一気に雰囲気が変わった。にしても、少し無理がないか?まだ私はろくに朧の人物像を掴めていないんだぞ。
『あっちゃ~、遅かったか。こんがりバターパン、売り切れちゃったよ。来る途中で見て食べたいと思ったんだけどな~』
なるほど、で次に朧がもし良かったら貰ってくれませんか?といって二人は出会うんだな。ならここはちょっと少し怯えた感じで言ってみるか。
『あ……あの!私ちょっとバターパン買いすぎちゃったので、もし良かったら貰ってくれませんか?』
『え、いいんですか!?』
『はい!というか……私が沢山買いすぎちゃったせいで、あなたが食べられないのはちょっと申し訳ないので……』
「……はいカット!」
「やば……うちが思ってたよりもずっと演技上手いやん、秋菜」
「微塵もキャラクター像とか伝えてないのにこんな上手く演じれるのか……お前、相当やばいな!よし、じゃあ次は感情的になれるかどうかだ。三話の内容になるが……十ページ開け」
「十ページ……あ、あった」
「監督、これはあれか?いじめっ子たちをうちがやればええ感じか?」
「おう、物分りが良くて助かるぜ。それじゃあよーい……アクション!」
再びカチンコが叩かれる。さて、このシーンは朧がいじめられているシーンって認識でいいのだろうか?で、巴の事を悪く言われたからそれに怒るって感じか。うっすらとだが理解出来た。
『やめ……て、ください……』
『やめるわけないでしょ?だってあんたって誰にでもいい顔してるじゃん。それがすごい気に食わないの』
『だからって、だからってなんで……』
『さぁね~。アタシら馬鹿だからさ、これしか手段が思い浮かばなかったわけ。あとはほとんど八つ当たり。あんた知ってる?愛枝がずっとアタシ達のこと睨んでくんの。それもすごい気に入らないから』
『そんな……ひ、ひどい』
『別にあんたが嫌なら愛枝にしてもいいんだよ?あいつもどうせあんたと同じ、誰にでもいい顔してる八方美人なだけだから』
『やめ……て』
『ん?何か言った?』
『……やめてください!!!私にするのはまだ百歩譲って受け入れます。けど、巴ちゃんにやるのはやめてください!!!そんなあなた達の理不尽な都合で、私の友達を傷つけないでください!!!!』
「はいカット。すっげー、鳥肌やばいって」
「びっくりした……これは確かに真奈穂ちゃんも推薦するよ」
「あんた誘っといて正解やったわ。おかげで初めてうちのライバルができた」
「……よし、合格だ。お前がドラマに出てくれて嬉しいよ、春陽。これからよろしく頼む」
「はい、お願いします!」
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