第7話 君、演技上手だね


校長が曲をかける。曲は、今私が練習してる『Twinkle star』という曲だ。そして曲が始まるとともに私は踊りだす。


「……おお、すごいね!まだ練習してから一週間もないんでしょ?」

「うん。かなり期待できるでしょ?」

「そうだね。いやぁ、今年の二年生はすごい子が多いねぇ」

「あっすごいよ秋菜!私が指摘したところ、ちゃんとよくなってる!」


ここ一週間でダンスというものの素晴らしさ、気持ちよさを知った。ここはもっと早く、ここはもうちょっとシャキッと、とか夏芽が指摘してくれたところを直せば、自分でもものすごくしっくり来てどんどん楽しくなっていく。あの美しい光を浴びながら、こんな気持ちいいことをして、沢山の歓声が浴びせられる。アイドルとは、ダンスとは、なんてすばらしいものなのだろう。


「はいフィニッシュ!凄かったよ、秋菜!まだちょっとダメな部分もあったけど……初めて一週間でここまでできるのは本当にすごいと思うよ!」

「いやぁ、僕の四季学園で、秋菜ちゃんがどんなふうに成長していくのか楽しみだ。あ、そうそう。制服とかの関係で入学するのは一週間後だよ」

「うん、わかった!ありがとう!」


それから少し話をして、校長は帰っていった。


そしてその後もレッスンを続けていき、一週間後。確か……五月八日。今私は、制服を着て、カバンをもって、玄関に立っている。

初めての学校……かなりわくわくするな。それと、二週間ほど過ごしててわかったことがあるのだが……私、相当人間としての生活を楽しんでるな。ドキドキもする、ワクワクもする。それからしょんぼりもするしニコニコっと笑う。いや、あの何もかもが醜い魔界を知っていれば、当然の事か。


「さ、秋菜、行こっか。大丈夫?緊張とかしてない?」

「うん!ていうかむしろ、わくわくしてる!」

「そっか、なら大丈夫だね!」


それからどれほど経ったかわからないが、夏芽と話してゆっくり歩いていたら学校に着いた。まず私は、校長室?という場所でこの学校のルール等を聞いて、朝のほーむるーむ?というのが始まるのを待っていた。


「えっと……君が秋菜ちゃんでよかったかしら?」

「あ、はい。春陽秋菜です」

「私は君が入る二年A組の担任をしている南桃華みなみももかよ、よろしくね。南先生でいいわ。よし、じゃあ早速クラスに案内するから、ついてきてね」


校長室で待っていると、やがて眼鏡……だったかをかけた茶髪の女が私を迎えに来た。なるほど、この人が先生か。それでは、本人の希望に添えて南先生と呼ばせてもらおう。南先生についていくと、『2A』とかかれた……なんというんだったか、教室?という場所に着いた。先に南先生が入っていき、なんかよくわからない号令?とやらを済ませて、南先生は手を叩いた。


「みんな、もうクラスが変わって一ヶ月くらい経過するけど新しいクラスには慣れたかしら?……いや、前置きはいいわね。単刀直入に言うわ。このクラスに転校生が来ます。さ、入って頂戴」


南先生に言われて私も教室へと入っていく。……おぉ、これが学校というものなのか。ざっと……四十人程か。が同じアイドル志望……思いのほか上手くやって行けそうな気がするな。


「今日から新しくみんなと一緒にアイドルを目指す、春陽秋菜ちゃんよ。秋菜ちゃん、自己紹介できるかしら?」

「春陽秋菜です。よろしくお願いします」


何を言えばいいかわからなかったので、昨日夏芽が教えてくれた通りに自己紹介を済ませた。一応これでも拍手は貰えるものなんだな。


「空いてる席……そうねぇ。真菜穂ちゃん、手を挙げて」


南先生がそう言うと、後ろの方から手が上がってきた。


「秋菜ちゃんはあの子の後ろの席ね。よし……それじゃあ今日の連絡をするわね」


先生に言われた通りに、手を挙げた子の後ろの席に座る。すると、さっそく話しかけられた。


「初めまして。うちは花飼真菜穂はながいまなほ。確か……春陽秋菜であってたやんな?」

「うん、会ってるよ。よろしくね、真菜穂ちゃん」

「あぁ、せや。今日、学校終わったら何か予定は?」

「え?ないけど」

「ならええな。今日学校終わったらうちについてきてくれや。うちが色々教えたる」

「うん、わかった。真菜穂ちゃん、ありがとう!」


真菜穂、何か狙っているな?この私に対して何かを狙うとは面白い。のっかってあげようじゃないか。


それから授業は教師の指示だとか、真菜穂に聞くだとかして乗り切り、学校を終えた。そして話してた通り、真菜穂についていき、私は誰もいない空き教室に着いた。……なんだ?何が目的だ?


「さて、早く帰りたいだろうに呼び止めてゴメンな。それで本題やけど……君、かなり演技上手やなぁ」

「え、演技?特に私は何も……」

「いや、演じとるな。……うちは、長い間ってか今も演劇が趣味でな。もうやかるんよ、ってもんがな。秋菜、君は自己紹介の時からずっとそういう目をしとったんよ?気づいてないかもしれへんけどな」


なるほど。もう私が演じてることに気が付かれたのか。まぁ、変に抵抗しても無駄だしな。ならば、もう正直に答えるとしよう。


「ふふ……はははっ。見事だ、見事だよ真菜穂。君が言ってる通り、私はずっと演じ続けてる」

「おぉ、自分潔いなぁ。そういう子、うちは好きやで。んで……うちの勘が当たってるなら、君は他の人間とは違う雰囲気がする。折角やし、答えてくれへん?もちろん、このことは誰にも言ったりせぇへんから」

「役者というものはすごいな。まさかそこまで見抜かれていたなんて。今からするのは馬鹿げた話だが……信じてくれるか?」

「うちから聞いたんや。疑ったりはせんよ」


なんだろうな。この腹の底が見抜かれている感じは。……とりあえず真菜穂に私が魔王をしていたことを伝えてしまった。


「ほう……別世界で魔王をしていて、ここに転生をしたと。そんな漫画みたいな出来事もあるんやなぁ。それで魔王サマ?あんた、ほんとは何歳なんや?」

「……呼ぶなら秋菜と呼べ。今の私は魔王ではないただのアイドル志望だ。それで……前世の私が何歳か、だったな。確か……そう、四百歳だ」

「おぉ!かなり歳いってるやんけ!ほんまおもろいなぁ。秋菜、うちは君の事気に入ったで。わからんことあったら聞いてな。うちのわかることならなんでも答えたるよ」

「そう言ってもらえると助かるな。あぁ、そういえば夏芽と帰ろうって話をしてたんだった。じゃあな、真菜穂。これからよろしく頼むぞ」

「おう、気ぃ付けて帰りや」


話してると変な気分になるが……存外悪いやつではなさそうだな。

さて、真菜穂にはばれてしまったが……夏芽にばれてないだけまだましか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る