第5話 春陽夏芽と春陽冬華


ん?冬華姉?いや、とりあえずまずはこの人が誰か、とかも気になるし少し聞いてみるか。


「……おねえちゃん、この人は誰?」

「この人はね、トウカって言って、私がアイドルを目指すきっかけになった人で、凄い有名な人なんだよ」

「そっか」

「急に秋菜にこんな話をするのも気が引けるけど……ちょっと、大事な話していいかな」

「うん、いいよ。だって、私はお姉ちゃんの妹なんだよ?」

「ふふっ、そう言ってくれて嬉しいよ。……秋菜、少し待ってて」


そう言うと夏芽は上の階にあがっていき、手紙を持って降りてきた。……なんだ?この手紙。『大好きな夏芽へ』って書いてあるが……


「さ、それじゃ話そっか。あのね、秋菜……本当は、私もあなたと同じで拾われた人間なんだ」

「え?お姉ちゃんも?」

「うん。三歳くらいかな、私は、親に捨てられたの。理由は今でも分からない。……それで、行く宛てもなかったから小さな体で泣きながら色々歩いてたんだ」


夏芽は捨てられたのか。それも、三歳で。そうだよな、日本も住んでるものからすれば大国だ。どこかでそういうことが起きてたって何ら不思議なことでは無い、か。


「そして、そんな私を見つけて、拾ってくれた人がいたんだ。それが、この人。トウカこと、春陽冬華。私のお姉ちゃんだから……一応秋菜のお姉ちゃんでもある人だよ」


……なるほど、似たような感じなのか。つまり、昔に冬華が夏芽を助けていなければ私もあのまま野垂れ死んでいた可能性が高いと。


「それから、冬華姉は私をここまで育ててくれたの。色々なことを教えてくれた。礼儀だとか、物だとか、アイドルについての色々だとか。……でも、冬華姉は突然消えちゃったんだ。こんな手紙を残してね」


と言って、夏芽は手紙を取りだす。思っているよりも、ずっと手紙は長かった。二枚ほどあった。そんな長い手紙には、こう綴られていた。


『夏芽へ。起きたら私がいなくてびっくりしちゃったかな?ごめんね、急に黙っていなくなって。お姉ちゃんね、夏芽には話せないんだけど色々あってさ、ちょっと疲れちゃったんだ。だから……ちょっと旅行に行ってくるよ。ながいながーい旅行にね。私、最低だよね、夏芽の事情を知っておきながら、自分の気持ちを優先して夏芽から離れちゃうなんてさ。恨んでもいいよ。っていうか、恨んで欲しいかも。そして、お詫びにもなりやしないけど、私の部屋に貯蓄してたお金があるから、それは全部夏芽のものにして使っていいよ。あとね。おかしなこと言うけど、私はちゃんと夏芽の事を見てるからね。夏芽、大好きだよ。最後になるけど。もし、夏芽がアイドルになれたなら、あの輝くステージでずっと待ってるね。そして、二人で一緒に踊ろう。 冬華より』


「結局ね、私は冬華姉を恨む事はできなかったよ。むしろ、どんどん私の憧れになっていった。だから、アイドルになったその先で冬華姉と会えることを信じて、私はアイドルをしたい」

「教えてくれてありがとう、お姉ちゃん。私も、アイドルになる!アイドルになって、それで……冬華お姉ちゃんを驚かせるの!」

「!……ふふっ。そう言ってくれて嬉しいよ、秋菜。じゃあこれから二人で頑張ろっか!」

「うん!」

「……あ!ごめん!もうオムライスできてた!すぐに用意するね!待ってて!」


夏芽の話を聞いてまた、私も心を揺さぶられた。私も……私も、本気でアイドルを目指す。それで、初めましてだけど……トウカを驚かしてやる。でももし、願いが叶うなら……私と、夏芽と、冬華の三人でアイドルしたいな。

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