第6話 【過去話最終話】慟哭
頭が痛い。痛い。
目の前にあったそれを俺はただ理解できなかった。
ふと、我に返った途端、猛烈な吐き気に襲われる。
だが、その吐き気が起こる前にさらに見えては行けないものが見えた。
壁に描かれた血と肉の絵。しかしそれはまだ先へと続いていたのだ。
震えながら、俺は一歩一歩進んでゆく。
地獄が待っている、そんな最悪の予感が脳内を駆け巡る。
頼むから、この血肉の主が知り合いでないことを祈って俺は歩く。
────「お、あえ……おえっ……お……おえぇぇっっ……げほ……うっ……あっ……」
歩かなきゃ良かった。見なければよかった。あの場で引き返して帰るべきだった。こんな迷宮に来るんじゃなかった。
───、そこにはよく見た二人があった。
腕をもがれ、脚も無くなり。
顔面には戸惑いと絶望を浮かべたそれは、間違いなく俺の仲間だったものだ。
血溜まりの中に倒れたユキとカイトは、乱雑に……そして無惨に殺されていた。いや、殺された?違うあれは──、
遊ばれたんだ。
◇◇◇
だが、見えない。幼なじみの姿だけが見えないのだ。
───頼む、生きていてくれっ!無事でいてくれっ頼む!!
俺はなにかに取り憑かれたように辺りをぐるぐると探す。そして見つけた。
二人の死体のすぐ側から続く、何かが這ったような跡。
俺はそれを必死に辿り走り出した。
そしてその光景を、一匹の魔物が眺めていることにその時の俺は気が付かなかった。
◇◇◇
「?!あかね、あかねっ!!無事だったのか?!」
あかねは生きていた。崖際、そこまで必死に這いつくばって進んだのだろう。腹から血を流し、頭からもかなりの血が流れていたけれど。
それでも、あかねは生きていた!!
俺は夢中で駆け寄る。ああ、良かった、良かった!アイツだけも生きていてくれるならそれでいい。それでいい、それでいいんだ!
そして────、彼女が何かを叫んだ。
「───来ちゃダメっ!!逃げて!ソウイチッッ!!」
だが、既に走り出した体は止まらない。俺はあかねだけを見て走り出し、そして────、
”ぶちゅん”と言う音が身体を貫いた。
「あ」
あかねは、糸が切れた人形のように崖から落ちていく。
そしてそれに手を差し伸べようと、必死に走った俺の足を────。
ソイツは貫いた。
「え─────」
俺の横、いつの間にか……いたソイツは、悪魔のような見た目をして……そして俺を見て───、
”にたぁ”と笑った。一瞬だけの邂逅、しかし俺はバランスを崩して床に押し付けられる。
それでも、その笑顔は…………頭にこびりついて離れなかった。
◇◇◇◇
その後、ソイツは何故か俺を殺すことは無かった。
後からやってきた冒険者達により、俺は医療を施されて生きながらえた。
「あなたは運がいいんですよ!あんな惨劇の中、生き残ったのですから!」
聖女と呼ばれるサポーターが、そう言ってくれた時も、俺は違う。そう言いたかった。
あれはわざと俺を殺さなかったんだ。
理由、分からない。分かるわけが無い。わかってたまるか。
そして奇妙な事に、彼らの死体だけがなかったというのだ。どこに消えたのか、とこに持ち帰られたのか分からない。ただ、俺はアイツらを葬ってやることすら───許されないのかと。そう絶望した。
◇◇◇
その後、俺を待っていたのは世間からの圧倒的な糾弾だった。
「【バッファー】の癖に、危険なダンジョンに潜ったのがいけなかった!」
「そうだ!【バッファー】ってのはやっぱり役に立たない!」
「ほら見ろ【バッファー】は疫病神なんだ!」
「【バッファー】出ていけ!【バッファー】は社会のゴミだ!」
俺はひたすら責められた。地獄の日々がずっと続いた。
そしてある時、飽きられた。
───いつの間にか俺を糾弾するやつは居なくなり、ただダンジョンに【バッファー】を連れていくのは間違いだ。と言う論調だけが世間には残ったのだった。
◇◇
だが俺は諦めなかった。
俺はひたすら彼らの死骸や、あかねの死体を探し出すことにした。
──せめて同じ日本人として、彼らにちゃんとした埋葬をしてやりたい。
あんな魔物に殺され、遊ばれたままでいいわけが無い。
だから俺はひたすらあの魔物と、あの魔物に奪われた仲間を探すためにダンジョンに潜り続けたんだ。
───狂ってる。ヤツは頭がおかしくなったんだ。
可哀想に、仲間が死んだことで彼は自暴自棄になってしまったんだ。
そんな言葉を言われようとも。俺は探すためにひたすらあの辺を探した。
だけど1人じゃ無理だ、ダンジョンは深くなればなるほど難易度が上がる。
ヤツがどこの魔物なのかは分からない、けれどあの強さ……そして俺が見た事がないと言う点を踏まえるとヤツはかなりの深層から来たのではないか?そう推測できた。
───仲間がいる。絶対に負けない、必ずやつを殺せるだけの強い仲間が。
やつを殺すために何がいる?
──【アタッカー?】ヤツの素早さと狡猾な手口。あれの知能はおそらく高い。そんな奴にただ殴ることしかできない【アタッカー】なんて要らない。
【タンク】?ヤツはタンクを殺さずに機動力の遅さを見抜いて間違いなく仲間から殺しにくる。
【サポーター】?ダメだ。攻撃力が高すぎて間違いなく回復じゃどうしようもない。
あの見た目から聖なる力も意味をなさないだろう。
───そうだ、【バッファー】だ。深層の魔物なら、絶対に【バッファー】だけが頼りになる。
なら集めないと。とびきり強くて、とびきり優秀な、絶対に負けない、死なない、仲間を探すんだ。
──探せ、探せ探せ探せ探せ探せ!!
君か?違う。お前か?違う。お前ならどうだ?違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う────、
……目が曇り、瞳から光が失われても。俺は探し続けた。必要な人を、必要なパーツを。
◇◇◇
「───まあこうして俺は見つけた訳だ。優秀で、頼りになる、必要な人達を……ね。」
俺は目を開けて、今の状況を確認する。
【アイナ】【ナハト】【グラム】は俺に抱きついていた。それが情欲によるものでは無いことぐらい、不器用な俺にだって手に取るようにわかった。
「───なないで……あなたは……死なないで!!」
【アイナ】はそういったきり動かなくなった。
「守る。私はあなたを守るから!」
【ナハト】もそういったきり離れない。
「───絶対見つけ出す。約束だッ!」
【グラム】は力ずよく俺を抱きしめる。まあそれはいいけど少しだけ暑苦しいなぁ。なんて思ったけれど、俺は彼女らの思いを受け止め、そしてただそれを見守ることしか出来なかった。
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