第5話 【過去話】その音は絶望に変わる
何とかなるもんだなぁ。うん、思いのほか体が強かった。
改めて周囲の状況を振り返る。
【大地】とやらに脚を運んでみたのだが、割とあたり一面に魔物がいた。けどあんまり怖いと言う感想は出てこなかったのがちょっと驚き。
なんつーか、あ〜居るなぁって感覚?元々田舎出身の俺からすると、野生の動物が畑に来た時とあんまし変わらないかな?
何かわからないけど、ふつーに対応出来たのがびっくりって感じだったね。
それに武器を適当にぶんぶんやってるだけで魔物がバカスカ消し飛んでいくし、なんと言うか無双ゲーの主人公気分だったんだよそんときは。
で、ギルドとかいう連中にもめちゃ褒められて……あ〜でも俺とあかねが【バッファー】だとわかった途端掌返してボロくそ言いやがってな。
"出てけ"だの"帰れ"だの言いやがってよォ。腹立つわマジで。俺たちより確実に弱い癖に。
「んでどうするよ〜〜。」
ユキさんの言葉に俺はため息を吐き出しながら、考えを話す。
「なるほど──俺たちで迷宮を見つける手伝いをするんすね?確かにこの世界において、バッファーの地位を高めるにはそれ相応の【コンテンツ】を呼び出さなくちゃならないっすからね!」
本当にこの青年は理解が早くて助かる。まあつまりそういうこと。
役割がない?なら俺たちがその役割を持てる場所を見つけ出してやればいいんだ。
今のこの世界はバッファーってだけでハズレだの、ゴミだの人間じゃないような扱いをされていた。けど、それを辞めさせるには役割を世界に気が付かせさせればいいんだ。
じゃあ何をするか、それはもちろんメインコンテンツを引っ張り出してやりゃ言い訳だ。まあラクショーだと思う。だって俺たちは異世界人でこのゲームをやりこんだプレイヤーだからな!!
◇◇◇◇
────────甘かった。
俺は口元から零れる赤黒い液体を垂らしながら壁にもたれ掛かる。
後悔が頭の中を駆け巡るが、それはどんなに時間が経っても消えることの無い絶望に変わった。
◇◇◇
ここはダンジョンの10階。ゲームの世界では割と経験値を落とす雑魚が大量に出てくるだけのボス階層。
ここまで来るのに一年かかったけど、ギルドにこの迷宮のことを説明して、実際にやってみて……と言う事をやったことを踏まえるとむしろお釣りが来るレベルだろう。
そして俺たちは武器やアイテムを整え、次々と階層を突破して行った。
5階層事にボスが現れて、それをみんなで倒す。
最初のうちは、かなりてこずったけど、それでも次々とらくらく倒せるようになっていた。
「やっぱバッファーがいると楽っすね!しかもここのパーティ二人もいるっすからね!」
「まあ過剰っちゃ過剰よな。まー楽に狩れるなら越したことないよな。」
「─ッスね〜」
「大丈夫?あかねちゃん、ちょっとぉ、そこの男子組〜〜先々行き過ぎだって……ほらあかねちゃん疲れてるじゃん!」
「──大丈夫、だから……ちょっと頑張って走り、すぎただけ……だからっ!」
「基礎体力の低さ、だね。全く一日中ゲームしてるからだぞ?筋トレしろよ筋トレ!」
「──うっさい筋トレバカっ!」
「ったく、ほらそこは崖際だから危ねぇぞ?こっちで休みな?」
まあ確かに、さっき倒したボス〈ハーピー〉は素早かったし何よりがんがんにバフを解除してくるからかけ直しまくらなきゃならんかったしなぁ。
まーキリ良いし、ここら辺で帰って報告するかぁ……。
俺はそう三人に告げて、帰還ポータルを展開する為に後ろを向いた。
───────その時だった。
ぽちょ、ぽちょ。と何かが垂れる音がした。
初めは誰か飲水をこぼしたのかと思った、だけど飲水にしては妙に重く粘っこい音だ。
俺は──、
「誰だよ……水こぼしてるや……つ……は……?」
振り向いた。皆の方を振り向いた。振り向いたんだ、振り向いて────。
そこには誰もいなかった。
◇◇
「あれ?みんなどこに行った?……まさかトイレとか?……にしても急に全員いなくなる事なんてあるか?」
俺は少しだけ不安にかられつつも、ふと視界に入ったものを見て安堵の声を漏らす。
手だった。一瞬見えたのは誰かの手だった。
まああらかた俺の声が聞こえたから位置を教えてくれたんだろう、ぐらいに俺は考えてそっちに走っていった。
─────絵があった。汚らしく、まるで人間以外の何かが真似て描いたような絵があった。
そしてその絵の、絵の具と思わしきものが、そこに落ちていた。
手だった
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