第4話 【過去話】とある出会い。

 ────これは俺が【アイナ】や【ナハト】や【グラム】と出会う三年程前の話。


 ◇◇◇◇◇



「ねぇ!ここってもしかして〈フォーチュン・ファンタジー〉の世界じゃない?!」


 目の前にいた女子高生と思わしき人がそうつぶやくと、俺の隣にいた高校生の男の子も同じように。


「え?マジじゃんやっべぇ?!コレってあのよく小説とかで見る異世界転移って奴?!」


 そう叫んだ。

 俺は隣でおどおど、としている幼なじみに声をかける。


「──大丈夫か?【あかね】?……。」

「う、うん。大丈夫……だと思う。……【創一】も大丈夫?……それにここって……。」


 良かった、普通に変わらないようだ。


「多分だけどゲーム〈フォーチュン・ファンタジー〉の中じゃないか?……見たことある街並みだしさ。」

「げ、ゲームの世界?うそぉ……これが異世界転移って奴なのかなぁ……。ちょっと嬉しいけどね、だってあのゲームの中に入ってみたいって何度も思ったもん。」


 どうやら少しづつ何時もの彼女の様子を取り戻しだしたようだ。

 俺はとりあえず、この場にいたほかの人の名前や自分の役職を確かめることにしたんだ。


 ◇◇


「俺は【木下 創一】だ。一応大学生一年生……まあどこの大学とかは個人情報の観点から言わないで置いとくけど。」

「で、私は【立花 あかね】そこの創ちゃん……【創一】くんの幼なじみなの。勿論私も大学生だよ!んふー!」

「鼻息荒く他者にマウントをとるな、あかね。」

「いいじゃん!だってどう見てもこの二人より年上だよ私!えへへ!」


 二人はちょっとあっけに取られていたが、すぐに気を取り直して。


「俺は【山田 海斗】カイトって呼んでくれよ!……高校二年生!まーちょっと学校で色々あったからこっちに逃げてこれたのはでかいっす!よろしく!」

「えっとアタシは【花道 雪音】ユキって呼んで欲しいな!特にカイト君!……うん、私の大好きなタイプの顔をしてるんだよね!あ、勿論高校二年生なのです!」


 どうやら二人ともかなりコミュ力の高い奴と言う印象。

「で、多分だけど共通点が……このゲームを知っているって事かな?」


 俺はそう尋ねる。と言うのはどうやらこの二人がすぐにこの世界がゲームの世界だと気がついていたからだ。

 勿論二人もすぐにその通り、と答えてくれた。

 まああかねも同じようにゲームにのめり込んだ奴だからそこは聞かなくていいか。


「で、みんなどの役職だった?俺は【バッファー】だったけど。」

「キノシタさん?でいいんすよね?でもなるべく近くありたいし、ソウイチで良いっすか?俺は【アタッカー】っす!」


 ソウイチか、まあ別に良いけどね。なんというかこの子すっごい知り合いの子供にそっくりなんだよなぁ。いやね、大学生になってからちょっとだけ価値観が大人寄りになったせいかもしれないけどね。

 ──ってか【アタッカー】か。


「んじゃあ、カイト君に全部攻撃バフかければ問題無さそうだね。言っとくが俺はガンガン前線推し進めるタイプだ、覚悟しろよ〜?」

「上等っす!」


「えっと私は、……【バッファー】だった!ふふん、創ちゃんと同じだ!えへへへ!いやぁーついてる。ね!」


 バフ二人か。まあこのゲームバッファー最強ゲーだからな。多くても問題無いか。


「じゃあアタシね。アタシは【サポーター】だったよ!……まさかのサポーターかぁ……。でも推しを助けられるってポジだし案外好きかも!」

「推し……推しって俺の事っすか?」

「そう!今から君はアタシの推し!そう決めたッ!」


 なんというか、押しの強い女の子だ事。だが悪い雰囲気ではなさそうで一安心と言ったところかな。

 にしても、ここはどこの宿なのだろうか。


 俺たちはとりあえず外に出て、自分たちが今どこにいるのかを確かめるべく街の人に声をかけたのだった。


 ◇◇


「すっみませーん。そこのリンゴ屋さん!ちょい良いっすか?……ここって何処の街だったりとかって教えて貰えないっすかね?──ちょっとさっき頭打ってから記憶があやふやで……。」

「おお大丈夫か坊主?!……傷薬とかってい

 るか?いるなら何個か譲ってやるぞ?」

「サンキューっす!でも大丈夫そうっす!……で、ここは何処っすか?」

「ここ?ここは…………だ。」


 ◇◇◇


「───街の人から教えてもらった情報っすけど、ここはどうやらっていう街らしいっす。……そんな街、ゲームに出てきたっけ?」

「えぇ?!知らないよ!おっかしいなぁ……アタシこのゲームかなりやり込んでたから街の名前ぐらいすぐにピン、とくるはずなんだけどなぁ……?」


 俺はアルビオンと言う名前をこのゲームで聞いたことがあるかをあかねに尋ねる。

 すると──。


「ソウイチ、聞いたことがある……でも……。」

「え?知ってるのかあかね?……でもって……どういう事だ?」

「────ここはの名前だと思う。確かどっかのNPCが懐かしそうに語ってたのを覚えてる。」


 あったとされる……街?……つまりは……。


「───まだこの世界にって事か?!おいおいじゃあ俺たちは何の為にこの世界に呼び出されたんだよ?!」


「うっせえぞガキ共!お喋りならあそこの酒場でやれ!道端で話すんな!邪魔だ!!」

「す、すいません!」


 俺たちはひとまず酒場の方に歩き始めた。その間、自分たちが何を持っているのかなどを確認すると……小銭がちゃんとアイテムポーチの中に入っていた。

 あとは武器も一応あった。


 ◇◇◇


「───酷いものを見たね。」


 俺はちょっと目を覆った後そうつぶやく。ほかの三人も結構えぐめのものを見たせいで放心していた。


「人が人を殴る音があんなにリアルで……しかも平気で剣で腹を切り裂いてたよ?!どうなってるのこの世界っ!」


 来る途中、無銭飲食の浮浪者を衛兵が、殺している場面に遭遇したのだ。

 その際、衛兵が言っていた言葉が妙に頭に残ったのだが。


「──くたばれバッファーごときハズレやろうが。って言っていたけど、どういうことなんだろうか?」


 分からん、けど何となくだがこの世界は……ゲームの頃より治安とか色々な面が悪くなっている可能性が高い。そう思った。


 とりあえず店の人としっかり会話も出来たし、何よりちゃんとお金は払えることが判明したのが何気にでかい。


「それにしても、凄いねコミュ力。カイト君流石に驚きだよあたしは!……おかげで色んな情報知れたもんね。」

「だな。」

「凄いね。ソウイチももっとコミュ力つけてほらほら!!」

「照れるって止めてくださいっすよ!」


 にしてもだ。俺は冷えたお茶を飲みながらカイト君が仕入れてくれた情報を整理する。

 ───迷宮はまだ発見されていないらしく、冒険者たちはみんな【大地】と呼ばれる場所で魔物を倒して金を稼いで居るらしい。

 いやほんと、同じゲームなのかと疑いたくなるレベルで知らない情報しか出てこない。


 あかねは趣味としてNPCの会話を暗記したり、文献をがんがんに読んでうんちくを語ってくるタイプだからか、あの内容ね!それってこの内容ってこと?と言っていたが。


 俺にはさーっぱりなんもわからん。まあ兎にも角にも、明日はその【大地】とやらで魔物との戦いをやってみて……だなぁ。


「────ちなみにひとつ聞くが、この中に運動系の部活とかやってた人居るか?」

「───私はライトノベル研究会、運動なんてやりたくもないに決まってるでしょ?」

「知ってる。他には?」


「アタシは帰宅部!まあ実際は漫画研究部所属何ですけどね!」

「え?奇遇っすね!俺も帰宅部っす!」


 なるほど。つまり誰一人として戦闘センスがありそうな人は居ないと言うことね。

 ちなみに俺は筋トレが趣味なだけのただのオタク。まあ部活もサークルも入っていない訳だ。


 ……やばくね?





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