第3話 とあるクラス格差

「くあぁぁっっ!サイコーだよぉ!!マジで!!」

「それは良かったです。ただ今度こそ、飲みすぎないでくださいね。」

「わかったわかった!……ん〜!疲れた体に染み渡るこのお酒の旨みっ!あーアタシはこれの為に生きてる、そうだ絶対そうなんだ!!」


 うーんやっぱり酒カスなのでは?。と言う目で見始めた【ナハト】。その透き通った目で見られているのに、気にせず酒を美味そうに飲む【グラム】。

 その二人の掛け合いを微笑みながら眺める【アイナ】。


 あの後暫くして換金が済んだので、そのお金を使ってご飯を食べているところなのだが。

 いやほんと、微笑ましい光景だよなぁ……と俺は三人の様子を見ながら思った。

 ──迷宮には死が蔓延る。そんな死の恐怖で満たされている空間から出たのなら、好きなだけ生を謳歌するべきだろう。


 酒場のテラス席から眺める夜の迷宮都市は、人々の活気を養分にして光り輝いていた。

 ──ふと隣の席の親子連れの冒険者の子供の話が俺たちの耳に入る。


「〜〜ご馳走様でした!……そういえばお姉ちゃん、もうすぐ10才だよね!ね、そしたらどんなクラスになるのかなぁ?」

「そうだよ!私明後日10才!でもやっぱりが一番良いよね!はちょっと痛そうだし、なんかむさくるしそうだし……あ、でもはちょっとやってみたいかもっ!」

「お姉ちゃんが?!よく言うよ。家ではいっつもゴロゴロしてサポートされる側のくせに!」

「お父さん、この弟投げ飛ばしていい?」

「「やめなさい!!」」


 微笑ましい会話。そう、はずの会話なのだが。

 その言葉を聞いていた俺たちの表情はあまり良いものでは無かった。


 彼らが出ていったあと、【アイナ】がぼそり、とぼやく。


「───さっきの子たちの会話……出なかったね。の選択肢。」

「………………うん」

「だな。…………酒が不味くなる、この話は無しにしようぜ。そんな事よりこの金で次は何する?」

「そうね、温泉にでも行くのはどうかしら?久しぶりに温まりたい気分だし。」

「銭湯、いい案。賛成。」

「んじゃこの後銭湯行くか!いいよな?【キノシタ】?……まあアンタはひとりになるけどな!」


 俺は構わないよ。とだけ伝えながら、改めてこの世界のを受け止めるのだった。


 ◇◇◇


 ゲーム〈フォーチュン・ファンタジー〉の人間にはそれぞれ役職クラスと呼ばれる、その後の人生を決める運命のようなものがある。


【アタッカー】【タンク】【サポーター】【バッファー】。

 この四役職……これが10歳になった時、自動的に付与されるのだ。


 この中で最も当たりだと世間で言われているのが、【アタッカー】……つまりパーティーの最大火力にして、切り札である役職。

 古来よりこの世界のどんな物語においても、名を残した人物はほぼ全てこの【アタッカー】だった。

 そしてこの役職になった人はとにかく花形と呼ばれ、持て囃されるのだ。


 次に【サポーター】。この役職はヒーラーや、蘇生、解毒治癒やバリア付与などの技能に特化している役職だ。

 パーティーに絶対一人いる。そう呼ばれるまでに必須職であり、基本的に女性人気の高い役職だ。

 実際【聖女】や【姫騎士】みたいな名前で呼ばれたり、【聖騎士】とか言うかっこいい呼び名で呼ばれる事もある。


 そして【タンク】。頑強な盾や武器を構えて敵の注意を引き付け、アタッカーやサポーターを護る鉄壁の守護者。

 アタッカーが輝く為にストレスを減らす役目があり、それ故に縁の下の力持ちと呼ばれる程だ。

 鍛え抜いた肉体が必須であり、それ故に男性人気の高い役職でもある。


 ………………そして最後に。

 で、と呼ばれているのが────【バッファー】なのだ。


 おかしくねぇか?と普通なら思うだろう。実際俺もこの世界に来てそう思った。

 どのゲームにおいても、バッファーってのは必須なはず。メインアタッカーを強化するバフ役、パーティー全体の火力の底上げ、耐久の底上げ。回復能力の底上げ。

 どこをとっても強力と言えるはずなのに、なぜこの世界では人気がないのか。


 ────簡単な話だ。って事だ。


 ◇◇◇


「そりゃ確かに、バッファー入れるよりもう一人アタッカーいた方が簡単に敵は死ぬだろうさ……でもそれはあくまでも……の話だろ……。」

 俺は一人貸切状態の風呂で空を眺めながらつぶやく。


 ───この世界では【バッファー】には入る枠が無い。それは確かにゲーム〈フォーチュン・ファンタジー〉でも最初の方に起きた話だった。

 ただあのゲームは、階が進む事に敵の強さと硬さが尋常じゃなくなって、最終的にバッファー三人、サポ一人が最適解とか言われるほどにバッファーゲーになってたはずなんだがなぁ。


 まあ仕方ないよなぁ。うん。

 俺は温泉の水に顔をゆっくりと埋める。


 ……しかしまさかだったよな。

 俺はこの世界と言うか、の開始位置について何も知らなかったんだ。

 と言うのは、あのゲーム基本的に迷宮内部から毎回スタートするから、てっきり迷宮しか存在しない世界なんだと勝手に思ってたんだけど……。


 まあ冷静に考えりゃんなわけないよな。そりゃ迷宮の上に……そしてこの世界ではまだしか経ってないんだものな。


 そう、バッファーってのは必須キャラなのだ。言い方を変えると、低難易度においては全く必要が無いって訳。

 そしてこの世界の迷宮ってのはだってことらしいのがな。


 ……迷宮がメインの世界だったのなら確かにバッファーは必須だと気がつくだろう。でもこの世界はの方が長く存在しており、それに伴いバッファーの必要性がほとんど無い時代が長く続いていたのがな。──そりゃ格差も生まれる訳だよ。


 あ、ちなみに大地の方の敵は迷宮一階層のボスと同じかそれ以下ね。まじで弱い、バフかけなくてもふつーにボコボコに出来るぐらい。


 ……いかんそろそろ出ないとな。あいつらの呼ぶ声が聞こえるしな。


 ◇


「随分のんびり入ってましたね、【キノシタ】さん。」

「悪かったな、ちょっと思い出に浸ってたんだ……。」

「──思い出?でも確かに、【キノシタ】の目、初めて会った時と同じ死んだ魚の目してる。」

「ホントじゃねーか?!……どした?【キノシタ】?」

「…………なんでも無い、ただ少しだけこの世界の面倒くささを噛み締めていたところだ。」

「そうなんですか?……そういえば死んだ魚の目と言えば……先程食べた料理のお魚、実に美味しかったですね!」

「私魚苦手だったから食べなかった、でも目だけは見てた。」

「────そういや【キノシタ】?気になったんだけどよ、あん時なんでしてたんだ?」


 あの時、あぁ。の事か。

「そうだな今なら話してもいいだろう。少しだけ長くなる。……家に帰ってからにしよう。それの方が多分いいからね。」

「──酒のつまみはいるか?」


 俺は苦笑しつつ、いらないと思うよ。とだけ伝えつつ帰路に着くのであった。


 ◇◇◇


「早く早く!気になるんだよ!!」

「そうですね、あの時なんで死んだ魚の目してたのかとっても私も気になるわ!」

「楽しみ。うん。」


「───んじゃあ、話すとするか。」


 ここより始まるのは、

 自分達を勇者だと勘違いした愚かな者たちの末路である。














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