第2話 とある冒険者の叫び。

 俺たちは倒した〈タクティカル・スパイダー〉のドロップ品を掻き集めて、アイテムボックスにしまうと……次のフロアに足を踏み入れたのだが。


「どうする?【キノシタ】……まだ私達行けるけど?」


 俺はこのパーティーのリーダーだ。前世ではリーダーとか言う役職、他人に任せて隅っこでのんびりやっていた俺からすると、少々荷が重いんだけどね。


「そうだな、装備もアイテムもしっかりある。──だが撤退するべきだろう。」


 俺は次のフロアの様子を見た上でそう判断する事にした。

 何故なら俺たちの眼前に拡がっていたのは、深い森だったのだ。

 俺は前世のゲームプレイ時の記憶を引っ張りだしてくる。確かこの森は【悦楽の森】とか言う面倒臭い森だったはずだ。……本当にクソギミックな森だったよな確か。


「何だよ、まだ進めんじゃねぇのか?……ってもリーダーが言うんなら仕方ねぇな。帰るとすっか。」


【グラム】はそう言うと転移アイテムをポーチから取り出して、帰還ポータルを展開しだした。戦闘狂みたいな見た目にしては、驚く程素直な女だよなぁと俺はしみじみ思う。


「貴方のその目からここが厄介な物であることは想像出来る。わかった、撤退の時間だね。」


【ナハト】も同じようにポータルの準備を手伝い始める。すごいな、俺の目からそんな情報を読み取るとか。ってかそんなに俺の目に嫌そうな表情浮かんでたの?


「仕方ないわ。まあボス倒したし、素材も集めたし、やる事やったしさっさと撤退しちゃいましょう!」


【アイナ】も素直にしたがってポータルを準備しだしたのだった。本当にみんな素直で助かる。

 実際この世界を生き抜くには、これぐらいの歩みをする方が良いんだ。……そう、焦らずに進むべきなのだから。


「それじゃあ、戻ったらすぐにギルドに報告からだぞ。飲みに行くのはその後で、分かってるな?【グラム】?」

「はいはいわかってるよ!……な、何だよその信用してなさそうな目……?!」

「貴女そう言って前回もすぐに酒場に直行してたわよね?……あまりに判断が早すぎて止めれなかったんだから!!」

「酒カスにだけはならないように私は気をつける。ん、そうすれば恥ずかしい思いしなくて済む。」


 なんか楽しそうなこと言ってんなぁ。とやっていると、ポータルがしっかりと起動したようで俺たちの周囲の空間が歪み始めた。


 はぁにしてもこのポータル移動、いつまで経っても気持ち悪くて嫌だなぁ。前世の頃から三半規管よわよわ過ぎて、ジェットコースターとか絶対無理なタイプだったもんなぁ俺。


 ◇◇◇◇


「うぇぇぇ…………げほっ……げほ…………まじで転移慣れないっ!!」

「【キノシタ】さん、全く!部屋に転移してくるなり毎回それじゃないですか!……ほらお水ですよ?」

「…………ありがとう……あーやっと、やっと落ち着いてきた……、にしても今回の素材も結構高値で売れそうだな。」

「いや【キノシタ】おめぇ切り替え早すぎんか?いや良いけどよ?……まあ確かにレアドロップもあったしな。」


 え?レアドロ出たの?知らないんだけど……?

 俺が知らんけどその話?という顔をすると、【グラム】は。


「あれ?言ってなかったっけ?ほらこれ〈スパイダー・スカーレットアイ〉だぜ!いやーカッケェ色だよな!マジでよ!」

「言ってない。【グラム】普通に忘れてた。毎回ちゃんと素材とかの情報は皆で共有してと言ってるのに。」

「スマン!忘れてたわ!」


 たはは……すまん。という顔で謝る【グラム】。

 まあ何時も忘れがちだから、気にすることでは無いんだけど、こういうのってまじでたまに危機的状況に繋がる事もあるからなぁ。


「んじゃあそろそろギルド行くか。まあ今回も……言われるかもしれないけど、気にすんなよ。アレはただの嫉妬だからな。」


 そう言って少しだけ声のトーンを俺は落とした。その言葉に三人も同じように下を向き、それからその場を後にするのであった。


 ◇◇


「おいあいつら又戻ってきやがったぞ?」

「チッ、たまたまだろ。どうせ今回は収穫無しとかだろ?」


 冒険者ギルドの扉を開けようとした時、そんな言葉を後ろから誰かに投げかけられたが、無視するようにする。


 カラン。と音がしてギルドの扉を開ける俺。

 冒険者ギルドの中は非常にごった返した人で埋めつくされていた。

 俺は三人に手を離すなよ?と伝えつつカウンターまで歩いていく。


「あ、お帰りなさいませ!冒険者パーティー【キアナーグ】の皆様!……えっと今回は何処まで行かれたんでしたっけ……。」


 受付嬢のお姉さんに俺は今回何処まで行ったか、そしてマップ解放を済ませたことを伝える。

 途端、響き渡る声。


「「「「「はぁぁぁぁあ?!!新マップにたどり着いた?!!」」」」」


「ぼ、ボスの〈タクティカル・スパイダー〉も攻略したのですか?!?!……す、凄いですねおめでとうございます!……ということは次の階層は『第19階層』になるのですね?!……!流石は現、最強パーティの皆様です!!」


「へへん!」

「んふー」

「へっ」

「……」

「あ、あれ?そこまで嬉しそうじゃないですね?」


 不思議そうに尋ねるギルドの受付嬢さん。確かに……その言葉は確かにすごく嬉しいものだ。

 だが。


「────おいおい今回はどんなインチキ技使ったんだァ?!てめぇら?!」


 後ろから現れた男が既にその理由を物語っていた。


「……俺ちはただ、自分たちのやれることをやったから辿り着けただけだ。別にインチキも、裏技も使用していない。」

「あぁ?!その言い方だと他の奴らが自分のやれることやってねぇみたいな言い方だなぁ?……てめぇチョーシ乗ってんじゃねぇぞ?」

「や、やめなさい。ここはギルドです、そして私達冒険者は同じ迷宮の攻略を志すもの達です!いいことじゃないですか!攻略に詰まっていた魔物を、倒してもらったんですよ?次のボスを他の人が先に倒せばいいだけなんですから!」

「───ちっ、冷めたぜ……はぁ。行こうぜ野郎ども。」


 そう言うと、男は担いだ剣の位置を戻しつつ仲間を連れて立ち去って行った。


 はぁぁぁぁあ。めんどくせぇ奴しかいねぇ!!

 この世界、冒険者が思ってたより数倍めんどい奴らばっかなんだよな。

 大して強くないのにプライドだけあって……。


 別に今の男が特段面倒臭いやつなだけでは無い、今の喧嘩、と言うかいちゃもんに止めに入ってくれたのがギルドのお姉さんだけ。という点が余計にこの冒険者たちのひねくれ具合を表していた。


「───あのまま殴られて痛い目見ればよかったのに。」

 そんな声が何処かから聞こえた気がする。

 俺はこの空気があまり好きでは無い、実際パーティーメンバーも同じように気分が悪くなったようで。


「もう行こうぜ?【キノシタ】。あ、レアドロ品の換金だけよろしくな?また今度取りにくっからよ。」

「そうです、さっさと家に帰りましょう。それか酒場にでも行きましょう。ここはあまり居心地が良くないですから。」

「そうね、さっさと行きましょ!」


 俺は引っ張られるように彼女らに連れられてギルドを後にするのであった。


 ◇◇◇


 彼らが立ち去ったあと、冒険者のひとりが叫ぶ。


「クソぉ!なんであいつらはあんなに成果をあげれるんだよ?!おかしいだろ!!あんな───。」


 その言葉に周囲にいた男も、女もそうだ。そうだ!と騒ぎ立てる。

 冒険者たちは別に彼らが成果をあげていることに憤慨しているのでは無い。


 冒険者が怒っている理由はたった一つだけだ。

 それは───。


「────あんな、だけとか言う狂ったパーティーのくせに、組んでる俺たちより強いのが……っ、何より許せねぇんだよォ!!!!!!」


 そう。ただ、それだけの話なのだから。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る