その冒険者パーティは〈アタッカー〉不在だけど最強と呼ばれています。〜バッファーだけの最強パーティの迷宮高速攻略譚。
ななつき
第1話 とある最強パーティ
「なぁ、このパーティーって結局これで良かったのかな?」
一人の男がぼそっと呟く。年齢は実に20歳ほど。黒髪に黒目の素朴な見た目の男だ。だが年齢の割に鍛え抜かれた肉体は、そんじょそこらの〈剣士〉と間違われそうなほど。
「何言ってんの、【キノシタ】?このパーティーでここまで来ちゃったんだし、間違ってないんじゃね?」
返すのは、これまた鍛え抜かれた肉体を持つ女。
年齢も男とさほど変わら無いように見受けられる。金髪をポニーテールにして、年頃の女の子らしくオシャレな髪飾りをつけている。瞳は緑色でダンジョンの暗い雰囲気を寄せ付けない神秘さを出していた。
特筆すべきは、手に持っているのが杖だと言うこと。
「そうですよ、【キノシタ】さんはいつもそんな事言ってますね。はぁ全く……確かに最初の方によくギルドの人から『そんなパーティー構成で大丈夫なのか!』なんて言われましたけど……あいつら私達が成果出しすぎて何も言わなくなったじゃないですか。」
トンガリハットに小柄な見た目の少女も同じように返す。
年齢も少し二人に比べると幼く見える。見えるだけではある。その眼光はまるで狩人のようであった。白色の髪の毛は短く、そして瞳はやけに真っ赤だった。
彼女の腰には、似合わぬ剣をぶら下げており、その使い古された様相からそれが飾りでは無いことを醸し出していた。
「クハハッ、【キノシタ】ァ!そりゃあ当然だろォ?……アタシらはこのパーティ構成だからここまで来れたんだ。もしこのパーティー以外ならここまで来れてねぇよ!」
最後の一人、赤髪の女が豪快に言葉を紡ぐ。
筋肉を見せびらかす彼女は、傍から見れば重戦士のようにすら見えるだろう。
年齢は26歳。少し歳の割に老けて見えるとか言われて悲しいとこの前語っていた。
……そうだよなぁ。確かに。ここまで来ちゃったもんなぁ。
俺はそう言うと目の前にそびえ立つ巨大な門を見つめる。
「んじゃあさっさと終わらせて帰りますか!さすがに苦戦すると思うから皆、気を引き締めろよ!!」
「あいよ」「言われるまでも」「おう!」
そう言うと俺は前人未到のボス部屋の扉を開けるのであった。
◇◇◇◇
俺は【キノシタ・ソウイチ】。まあ漢字にすると【木下 創一】だな。
俺は元々大学生だったのさ。だがある日どうやら異世界に転移したようでね。
ちなみにその事に気がついたのは、このパーティーを結成する直前の話。
この世界は実はゲームの世界だという事にその時気が付いた。まあ薄々何となく思っていた節があったんだけどね。
──この世界は【フォーチュン・ファンタジー】と呼ばれるゲームの世界。
このゲームの特徴としては、四人一組のパーティで何処までも続く迷宮を探索するRPGという事。まあよくあるRPGみたいな感じだよ。
ただそのゲーム自体に転移したわけではなそうなのがこの話のキモだ。
というのも、ゲームの世界観を受け継いだだけの異世界って言うべき感じがとても強いのだ。
まずターン制RPGからアクション系に変わっている。これが最大の違い。
おかげでバフデバフはリアルタイム参照になり、攻撃もスキルを使ったり魔法を唱えながら戦うことになって……まああのゲームやってた身からすると少々違和感が凄かった。
次にパーティ。この世界では何故か四人じゃないとパーティとして成り立たないと言うのがある。五人にしようとしても、何故か出来ないのだ。
まあ元々ゲームの性質上仕方ない事ではあるけど、そこは律儀なんだなぁとは思ったよ俺も。
で次が迷宮。まあダンジョン?どっちでもいいけど。
ゲームではいくつかのパターンのダンジョンを使い回し……コホン、再利用してダンジョンが生成されていたが。
今回のダンジョンはどうやら固定されているようだ。一応変遷期という状態になった時のみダンジョンの構造が変化するらしい。
つまり頻度が下がったので、攻略しやすくなったという事。
それ以外は特に変化は無かったかな?あ、ちなみに敵は魔物と呼ばれるよくある奴らで、まーグロテスクな見た目からカッケー奴らまで千差万別。
あまりに振れ幅がデカすぎて当時ゲームやってた時はどっちかに揃えろよ!
とは思ったけど。
ただ別に愛着が湧きそうな見た目では無いので、心置き無くぶっ潰せるんだけどな。
◇
「来たぞ今回のボスは……げっ、〈タクティカル・スパイダー〉かよっ!」
「蜘蛛ぉ!?えぇ嘘私嫌いなんだけどっ!」
「虫嫌い。さっさと潰そ?」
「ちょっ、アタシに近寄んな!!」
どうやら今回のボスは〈タクティカル・スパイダー〉のようだ。
このボスはゲームにおいて中層にて姿を現すボスの一角で特徴は────めっちゃ子分を出してくる。
「っ!そっちに結構行ったぞ!そっちは各自対処してくれ!」
俺は割と雑な判断を彼女らに押し付け、自分の役割を開始する。
「スキル〈ブースト・フィールド〉!!それから、スキル〈スロウ・フィールド〉!そんでもって、スキル〈ヒーリング・フィールド〉!!!」
3つの領域が展開される。俺のスキルはどれも〈フィールド〉と呼ばれる特殊な効果の発動する空間を生成するもの。
基本的にフィールドを広げればMP……魔力消費が激しくなってしまう代わりにより高いスキル効果を受けれるスキルだ。
「行くぞ三人!各々バフ準備できたな!……突撃ぃいいい!!」
〈ブースト〉により身体強化と魔力強化と身体強度が上昇。さらに〈スロウ〉の効果で敵は速度が低下し、回避しずらくなった。さらに〈ヒーリング〉の効果で継続回復もできる。
ならばあとは────殴り合い。だけだろう?
俺は肩にかけていた槍を取り出して、蜘蛛目掛けて突っ込んでいく。
当然反撃を食らって肩に激痛が走るが。
──〈トライ・カウンター・シールド〉発動──
どうやら味方の掛けてくれたシールドバフによる反撃が自動で発動したようだ。蜘蛛の脚がぶちぶちっと消し飛ぶ。
部位欠損ダメージが入ったのか、蜘蛛はうめきながら後退しようとする。しかし。
「逃がすかぁ!オラァ!!」
──〈トライ・エクストラ・アタック〉発動─
三本の追撃が蜘蛛を襲う。それは俺が振る槍に追従し、次々と身体を穿つ。
『グガギァァァァァァァァア!!!!!』
それでも、すぐに反撃をするべく〈タクティカル・スパイダー〉は口から大量の蜘蛛の糸を放つ。あれは魔物のスキル〈スパイダーネット・ブレス〉だろう。当たれば拘束状態になり、身動きを取れなくされる面倒な技だ。
だけど弱点が無いわけじゃない。むしろ弱点しかない。
俺は何も考えることなく、槍をさらに振るう。
槍先が先程と同じように〈タクティカル・スパイダー〉を狙う。必然的に目の前には蜘蛛の糸が差し迫るが……。
──〈フレイム・エンチャント〉発動──
槍から炎が吹き出す。それは蜘蛛の糸を焼き切り、そのまま顔面を刺しうがつ。
『グガァァァァァァィァァ!!!?!』
さて、これで終わりかな。
俺はくるりときびすを返し背を向ける。
本来魔物に背を向けるのは危ない行為なのだが。
『gagagagagagagagagikagagakamanamagakimaka──────クキャッ?!』
〈タクティカル・スパイダー〉はそこで力尽きたようだ。霧散したその亡骸からはたくさんのアイテムがドロップして床に転がる。
「ふう。何とかなったね……いやぁナイス!流石は我がパーティだ!それぞれ各個撃破しっかりと出来たね!」
そう言って俺はほかの三人を眺める。
三人はそれぞれ倒した〈タクティカル・スパイダー〉からドロップ品を掻き集めていた。
──そう。このタクティカルスパイダーという魔物、HPが一定値まで行くと突然子分がボスと同じ強さになると言う特徴があるのだ。
本来なら速度を低下させられ、さらにザコ敵による面倒な追撃が起きて、挙句頑張ってボスを削るとボスが増殖する。─いやクソボスだと思うよ?
うん。ただね……このパーティーにとっては、大したことがないんだよねぇ。
俺は三人の仲間【アイナ】【ナハト】【グラム】を見つめる。
やっぱりこのパーティー、最強だよなぁ。……まあそりゃそっか。
──全員最強クラスのバッファーだもんなぁ。
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