第二話 異形としての世界。

 此処で言う牢獄とは、巨大化し、曲がりくねった異形と化した外の世界に耐えられず、半ば追われる様に逃げ込んだ者の、最後の避難所としての役目をも負っている。


 そう云った意味で、閉じ込められた、という表現はあながち間違っていない。


 そう言えば、自身の想像した牢獄の外では、外界の恐怖を殊更に強調する象徴として、固く鎖された鉄扉のすぐ外側で蠢く、看守と思しき存在が常に徘徊していた。


 野生動物かと見紛うばかりに筋肉の発達した身体。頭部に鉄の仮面を嵌め込まれ、手足には重しの付いた鎖。ジャラジャラとそれ等を引き摺りながら歩く姿は、傍目には此方の方がむしろ囚人に思えて来る。


 更に、獄舎その物が一つの強大な世界と化していて、その中で様々な異形の者達が蠢いている。


 とは言うものの、結局の所それ等は決して現実の外界を越える事は無い。一人の人間の想像で作られた怪異など、現実の剥き出しの異形に比べれば、さながらお伽話の様に他愛ない物でしかないのだから。


 それに耐えられなかったからこそ、自分は自らをこの架空の牢獄へと追い遣ったのではなかったか。


 悍ましくも怖ろしい異形蠢く外界から逃れ、更に御丁寧にもその象徴の様な看守を据え置いて、恐怖に身を縮込ませながらも、或る意味で安全で平穏なこの牢屋の中で、半ば倒錯した愉悦に耽るのだ。外界から遮断されたこの小さな世界で、この自分だけはまともなのだと、そんな度し難くも悲痛な愉悦に。

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