Evo Doll

釣ール

主と形/Necro Doll・出会ってきたクソヤロー達、別れた後の自由

 一期一会いちごいちえ

 生きていれば必ず出会いと別れがやってくる。


 もうお腹いっぱいってくらい人間関係で嫌な目にあっておとしいれたいくらいに嫌気がさすのに。


「二十一歳の考え方じゃないか。」


 歩いた数だけクソヤローに出会った。

 性別年齢問わず。

 もはや理想の人間なんか探す必要がないくらい。

 それでもバレンタインデーやクリスマスになんらかのブツは欲しいくらいには人間としての感性は残してるんだぜ?


「ネクろう。お前の操者そうしゃになって伝統芸能からオリジナリティ出すの随分苦労したよなあ?

 」


「ハイ。リュウハヲヤタラワケタガルマジメサトミンドノワルサハニホンナラデハノモノト、セカイナラデハノモノガアッテ、人類ヲアヤツッテシマッタ方ガヨイカモトカンガエテマス。」


 いい育ち方だ。

 もちろんこんな会話はあらゆる意味でオフレコ限定だ。

 AI機能も使いこなせばいい暇つぶしになる。


 蒼恍健あおいほのお

 二〇二四年で二十一。

 人形操者と名がつくパフォーマー。

 そして、ネクろう

「男性名ニシテクダサイ。」

 と要求されたからこいつの名前は古く赤黒いドレスに身を包んだフランス人形なのに男っぽい名前…男性名詞にした。


 いちいち生意気だが人間関係で狂った二十歳前半男性と新旧技術が和洋合わさった人形のコンビはお似合いかもしれないと恍健は思ってしまった。


 もう仕事や趣味でネクろうと付き合うのはやめよう。


 まずは恍健とネク郎の半生を語るとするか。

 その方が死ぬ前に爪痕を残せる。

 それか解脱げだつして消える時に最後っ屁が出来る。


 世間や政治、人間関係に塗られた『幸せ』を願い信じ続ける頭の悪い加害者たちに復讐意味でも。

 恍健は自分達を犠牲に笑顔を作る連中とは明確に生活を切り分け、それでも悩み葛藤し生きることを目標に抗うことを決めた。


 



 蒼恍健あおいほのお、人に散る。


 小学生の頃から人間不信で友人と呼べる人間も少なかった。

 インターネットもまだまだアングラでどっぷりと浸かる。

 それでも歳上がインターネットのネタを喋るのを見ると嫌気がさし、かといって家庭環境も親のネグレクトが酷くて居場所もなかった。


 それでも動画制作や文章練習を行っていて、一人でいる時間を自分なりに大切にしていた。


 気を張っていたからすぐ喧嘩となり、腕っ節も強くなっていくがなるべく暴力は使わないように変わっていく。


 高校を卒業して人形操者となり、流派がいくつかわかれていて簡単そうな方へ入門。


 最初は自分の好きな人形は選べず、不気味な日本人形で練習をしていた。


 それから本番で才能を開花させた後にネクろうと出会う。

 日本人形を手放し、流派から破門になって最初は涙したが日本人形の不気味さよりもフランス人形の年季の入り方がよりホラー感が増してどうしても

 操りたかった。


 ネクろうは最初から人と喋れる。

 カタコトだったがAI機能を搭載して喋らせた。

 今では唯一無二のパートナーだ。


 だからこそ思う。

 人間に操られる器じゃないと。


 いつかネクろうは自分を殺すかもしれない。

 その時のため、恍健は体を鍛えていた。



 ネクろう潜在能力。


 ネクろうは男性名。

 本来の私は活発な女の子。


 それも昔の話ではあるものの、人間関係で嫌な記憶しかない人形で持ち主からぞんざいに扱われたら何度も呪った。


 自立し、ポルターガイストまで起こして。


 持ち主は何度も変わり、共通として「お前は怖い」といいながら。


 でも蒼恍健あおいほのおは違った。

 最初は私を道具みたいに扱ったのにポルターガイストを起こしたら大変気に入ってAI機能でより人語(※日本語)を喋れるようにさせられた。


 普段から誰かといる時は人形と喋ってる不思議くんにならないような取りつくろい方なのに本当は私と喋りたいなんて本当に生きづらそうで、多様性を鼻で笑ってる。


 それにもう私との過ごした時間も飽きてきていそうだった。


 せめて彼も人間とそれなりな関係を結べるようになれば。


 話してくれるのは嬉しいし、もう誰も呪わなくてすむけれど。


 私は一度彼へ話しかけることにした。

 きっと別れる時だと。



 闘争の果て


 今日もノンアルコールを沢山飲んで酔った気でいる。

 長生きするつもりはないが早死はやじにしたくもないから。


 そろそろか。


「ネクろうか。

 話ってなんだ…っておい!」



 ネク郎はいきなり自立して、刃物で攻撃してきた。


 いつか俺が飽きた時に攻撃される。

 恍健には分かっていた。


 だが…だが!


 格闘技術で避け、ネク郎の行動を先読みし動くとポルターガイストでドラム缶を飛ばされ反撃される。


「ネク郎。

 一度離れたいなら構わない。

 戦いは俺の負けだ。」


 するとAI機能を利用しいつもはカタコトだったネク郎は流暢な言葉で話してきた。


「恍健。

 私はもう一人で生きていける。

 メンテナンスしてくれる例のおじさんにも理解があるから簡単。

 それと恍健。

 人間不信だからって全て諦めてない?

 今度は私があなたを調教してあげる。」


「人間関係についてお前に何がわかる!」


「あんな経験を強制するわけじゃない。

 せめて上辺だけなんとかなればいつか再開した時に何も飽きずにすむ。

 どうせ人間関係はさけられない。

 そこを対処してあなたが一人自由になれれば私とまた話せる。


 だからあんたと戦う!」



「おい!理屈が…理屈が分からねえよこのクソ人形!」


 恍健はなんで喧嘩別れじゃなくて勝手に向こうが別れを切り出すんだよと悔しくて涙が流れ、二人で取っ組み合いになり、ポルターガイストと格闘技術で空き地まで移動しながら攻撃しあった。


 何度もやり取りが終わり、二人の中で覚悟を決めた。

 そして黙ったまま関係を一旦終わらせる。



 数年が経過し、まだ人間関係と社会に揉まれて疲れただけの恍健。


 ネク郎はまだ戻ってこない。

 いや、永遠に戻ってこないかもしれない。


 苦い共存が始まる。

 恍健は人形操者としてちゃんとネク郎と向き合えたのか自信がなくなった。


 それなのにストレスのたまる人間関係なんて送れっかよ!


 するとカフェで一人スマホをいじっていると一人女性が現れた。


「ネク郎!」


 と声を上げるとその女性は驚いていた。

 正気に戻り、気をつかいながら話していく。


 少しだけネク郎に似た海外の人。

 確かに次にネク郎に会う時はこうやって社交性を磨いた方がいいかもしれない。


 そしてもう会えないかもと宙ぶらりんな関係へ変化していった。


 さよならはお互い言ってないからそれぞれの道を歩くことになるのだから。

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