エピローグ of プロローグ




 ヴィタへ


 お久しぶりです。ユリアです。

 なんだか会いたくなったので手紙を書くことにしました。

 こうして、あなたへの気持ちをまとめたことはないので少し緊張しています。

 

 私はあなたがいなくなってからしばらくの間、何もできませんでした。当たり前ですよね。

 今は第六領のあの部屋に住んでいます。

 ここにいるとあなたと出会った頃を思い出して、時々胸が苦しくなったりするのですが、ボーガンが一緒に来てくれて彼と仲良くやっています。



 あれから、翼は出てきません。

 多分加護を使い切ってしまったみたいです。

 でも、私の中に確かにあなたの匂いが残っているのを感じます。

 きっと私の中から、見守ってくれていると、そう思います。

 

 

 魔王様は最近体が成長しているようで、私より身長が大きくなってしまいました。悔しい。

 時々彼は部屋に足を運び、私の様子を見にきてくれます。魔王なのに優しいです。


 ジーニィとオルガの二人はシンランを連れてまた旅に出たそうです。

 なんでも新しく生まれてくる勇者を探すんだそうです。

 元気そうで何よりです。

 


 私はあなたに会えなければ今頃、魔女になることはなく、どこかで農家でもやって平和に暮らしていたでしょう。

 でも、短い時間だったけど、一緒に過ごした時間が確かに私の中に残って、今でも熱が覚めません。

 その熱が、あなたに会えて本当に良かったと私に思わせるのです。

 ありがとう、大好きなヴィタ。



 a701年 5月 j9日 ユリア



ーーーーーーーーーーーー



 城での戦いの後、すぐにその復興が進められていた。

 戦場が城の外部には広がらなかったことから兵士の大半はその命を失ったが、生き残ったもの達は城の南、第G地区に仮の拠点を置き、王子とその部下達が中心となり城の再建計画を行う。


 今は城の土台と骨組みが作成され、後は石を積み上げるのみだった。



 ジーニィ、オルガ、シンランの三人は初期の復興に少しだけ携わると今は第G地区の東、城の南東である第F地区に来ていた。

 瓦礫は失われてしまったため片付けをする必要はなく、すぐに建築目処が立ち、ここから先は大工達の仕事だと判断したためである。



 第F地区は横に長く、その北はE地区、南はJ地区、その東には海が面している。



 次の勇者を探しに旅に出たはいいものの当てはなく、オルガが海を見たいと言うのでひとまず第F地区の東の果て、海の街「李・ポルシェ」に訪れていた。


 「海に沈む夕陽ってどうしてこんなに綺麗なのかしら……」


 オルガが宿の二階の部屋の窓際に手を付き、体を乗り出して言う。その表情には穏やかな笑みが浮かび、ジーニィも心が安らいだ。


 シンランが二人の部屋へと訪れ、「お酒でもいかがですかな」と提案し、一行は階下の酒場へと降りていった。



 「李・ポルシェ」の北、海辺の洞窟には一匹の魔物が流れ付き、潜み込む。

 その魔物は三つの目を持ち、くすんだ赤色の大きな翼のある鷹の上半身を、下半身の肥大化した筋肉によって立ち上げることができる、鳥魔人「三眼鳥」であった。


 彼は「幸せ」を求めていた。

 人を誘惑し、その意思を操ることができたならーー。

 彼はその目的のために一つの道具を探していた。その名の通りそれは、「幸せの杖」という対象者に望んだ幻覚を見せることができる杖であった。


ーーーーーーーー


 称号機構はイシダが奪った『勇者』の称号が失われたことに気がついた。

 機構がイシダの中の勇者に気がついた理由は彼が素養の代償を克服しその力を掌握したからであった。

 突然変異で生まれた彼が、どういった道を辿るか機構は見守っていたが、その消滅を持って『勇者』が破棄されたことを確認し再び補填を行う。


「もうじき生まれるだろう、次の勇者がーー」


 機構の管理人「ミグラン」は自身の管理する巨大なハートネットワークが表示された巨大な光の投影の前で、そう言った。

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