ーー「ジーニィの追憶」


ーーこれはまだ、ユリア達が旅立ってからそう時間が経ってない頃のお話。




 私は賢者ジーニィ。

 勇者のパーティの一員で、今は東部の海に面する街にメーダという、何本もの触手を持った海の魔物が現れたと聞きその足を運んでいた。


「ユリア、お疲れ様。もう魔物は全部倒したから、先にみんな帰ってていいですよ」


 海岸の砂砂浜に上がってきたメーダを倒し、その後始末として私だけ残った。

 といっても、やることは魔物の体が粒子となって分散していく姿を見守るだけなのだけれど。


 ユリアは強い。

 いつ、どんな時でも疲れを見せず彼女は戦った。

 対して私は体力に自身がなくて、すぐに疲れてしまう。まぁ昔から運動は苦手だったし、どちらかといえば本を読んでいる方が楽しかったという子供だった。


「やっと終わった」

 メーダは一個体では弱いが、群れでこの街に現れた。

 今、目の前で消滅していった個体で最後だろう。

 これで、帰れる。

 そう思った私は宿への道を帰り始めた。


 海辺の街と言うこともあって、海風を防ぐ白い石壁に囲まれた家が立ち並び、道もそう広くはない。

 路地を進む途中の庭で海産物が天日干しされている様子を見るとお腹も空いてくる。

 日は沈みかけ、後はもう宿で寝るだけだ。

 私は帰る足を早めた。


  ◇


 私はパーティで宿に泊まる際、よく女戦士「オルガ」と部屋を共にした。

 これは二人一緒がいいとか、ユリアだけ別にしているとかそういうことではない。

 宿代を節約するためだ。


 元々は四部屋借りていたのだけれど、私とオルガは気が合っていたのか、いつからか特に気にすることなく、一緒の部屋を取るようになっていた。

 彼女も気にしていないだろう。


 ただ、夜の営みだけは別で彼女は気を使い、それを行う際は私が眠るのを見計らって目をつけていた男の部屋に夜這いをしにいく。

 少し申し訳なくなるが毎日のことはない。

 そして今日も彼女は私を置いて、どこかの男の部屋へと向かっていった。


  ◇


 その日、中々寝付けなかった。

 なぜだろう。

 瞼を閉じ、戦いのことやパーティのことを考える。

 私たちはそこそこ成長し、力も付いてきているように思える。

 しかし、どこか不安なのだ。

 時々、影のようなものを感じることがあった。


「ふぅ……」


 そこにオルガが帰ってきた。

 行為の後なのだろう、紫の長い髪は乱れ、肌着は汗で体にこびりついているようで腹が見えてしまっている。

 下半身に身に付けているのは下着だけだ。

 そのあらわになった太ももから汗をしたらせてひたひたと部屋に入ってくる。


「オルガ、帰ってきたの?」


 私が尋ねると、彼女は少し驚いたようで、「あら、起こしてしまったかしら」と言った。


「うぅん起きてたの。なんだか眠れなくて」


 彼女は肌着を脱ぎ、体の汗を拭う。

 よく見ると戦いでついたと思われる細かな傷が目に入り、そして、大きい胸に赤い、強く吸われた後のようなものが見えて私は恥ずかしくなり顔を背けてしまう。



「どうしたの?」


 オルガは私が顔を背け、背を見せたことに気がついたらしい。

 こちらへと近づいてくる。

 そして、私の耳元でこう囁いた。


「眠れないなら、私が一緒に寝てあげようか……?」


 行為の後の汗と彼女の体臭が混ざった匂いが私の鼻につき、普段とは違う大人の雰囲気に胸がざらつき始める。


「はぁ……子供じゃないですから」


 そう言って振り向くと、そこには私のベッドへと両手をついて前屈みになり、大きな乳房を垂らしてこちらを覗き込むオルガがいた。


 左手で長い髪を耳にかけて、「そう……」と続ける彼女の赤みのかかった頬、艶のある大きい唇、そして、そのふっくらな女性の裸体を間近で見て、私の中の何かが音を立てて壊れた。




 私は起き上がり、彼女の体に抱きついた。

 柔らかい肌と汗が私の顔に当たる、でもそんなこと気にならない。

 胸に顔を埋め、彼女を思い切りベッドへと押し倒す。


 腕を伸ばして仰向けになるオルガの上に馬乗りになってしまった。

 胸が重力によってその重みに垂えられずに潰れている。


 この体を全て私のものにしたい、という欲求に逆らうことができない、なぜ……。

 一瞬驚いた彼女の口の横からよだれが垂れてツーーっと顔の皮膚の上を這う。

 彼女はそれを指で拭いながら舌で舐め、指全体を咥えてチュパッと音を立てて、口を開いた。


「どうしたの? まさか……私とシたいの?」


 シたい。

 私の体の一部、いや溶け合ってなくなってしまいたい。

 私のどこからこの欲求が出てくるのかわからない。戦いの中で不安を感じたのだろうか。


 彼女の横に伸ばした腕を私は押さえつけると、その乳房にむしゃぶりついた。

 舌で首を転がし、思うがまま、我を忘れて吸い付く。


「もっと、優しくして……」


 オルガは辛そうに吐息混じりで呟くけど、私には関係ない。

 この体もさっきまで知らない男にこうされていたのかと思うと吐き気がしてくる。


 顔を上げてオルガの顔をよく見る。

 その大きな目のぽってりとした涙袋、細くて高い鼻、そしてその厚い唇、柔らかそうな頬、目の下のほくろ、全て私のものにしたい。


 彼女の口元へと私は顔を近づけ、口付けをした。

 愛おしい。

 涙が出そうになる。


「ハァ……ハァ……」

 もう一度、口付けをする。

 今度は、彼女の唇をむさぼるように舌と私の唇で挟み込む。

 よだれとよだれの混ざる匂いが私の欲を駆り立てる。


 どうして、こんなーー。



 気がつけば私は涙を流していた。

 オルガの腕に伸びていた私の手を彼女は掴み、指を絡ませ合う。

 そして起き上がると彼女は何も言わずに私の頭を撫でて優しい、けれど深いキスをしてくれた。


 嬉しいーー。

 それ以外考えることができない。

 私がしてしまったことを彼女は受け入れてくれた。

 


 彼女の腕に従ってそっとローブを脱いだ。

 私も彼女が唯一身に付けていた、赤いのか黒いのかわからないショーツを脱がす。


 これからもっと一つになれるんだ、と思うと胸の高鳴りを感じる。



 交互に下着を脱がし合った。

 私のはもうビチョビチョで、彼女はその陰部に触れていた部分に気がついて、クスクスと笑い出す。


 そして、オルガとお互い裸のままギュッと抱きしめ合う。


 肌で感じる彼女の熱、心臓の鼓動、耳元で聞こえる吐息、全てが今から私のものとなって、溶け合うーー。

 

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