出発
「私は今、ヴィタの隣にいるんだ」
少し早く目が覚めたユリアは軽く背伸びをする。そして自分の居場所を確認していた。
使えるようになった魔法は決して多くない。
でも大丈夫。ヴィタが一緒にいる、と自分を奮い立たせた。
ヴィタは遅く起きてきてユリアに後ろから抱きつく。
「ひゃっ」と彼女は情けない声が出て恥ずかしくなってしまった。
◇
「とりあえず、情報を集めなきゃね」
ヴィタの提案で彼女たちは第ニ領を目指すことにした。
前線があるため情報が入ってきやすいためそこで遊び人について調査する、という作戦だ。
第二領には砂漠の広がる第四領を通って行く必要がある。
「行ってきます」
荷物の準備をし、二人は誰もいない部屋にお辞儀をし、扉をしめた。
◇
そこに、エルフの子供がやってきた。
「お姉ちゃん、行っちゃうの?」
「また来るから、その時までいい子にしてるんだよ」
別れの挨拶をするユリア。
「いってらっしゃい、貧乳」
その子の口から、信じられない言葉が飛び出す。 無垢って怖い。
うるせーけっこうあるわい、と彼女は心の中で異議を唱えた。
お世話になった樹木の間から漏れる木漏れ日が二人に降り注ぐ。
ふと気になることがあり、ユリアは尋ねた。
「おばあちゃんには挨拶しなくていいの?」
「大丈夫、あの人多分あと30年は生きるわ」
ヴィタの根拠のない自信に家族の距離感を感じて、ユリアはどこか温かい気持ちになる。
準備はできている。
縦に伸びる各領地を横切るため、そこまでは日時はかからないが、念の為寝袋と数日分の食料、地図と回復薬、それから着替えが入ったリュックを背負い、
「じゃあ、行こう!」
ヴィタが景気良く言って、二人はエルフの街を後にした。
◇
第六領から第四領までは街がなく、ひたすらに森が続く。
彼女たちは砂漠に入る前の体力があるうちに、魔法について本で学ぶことにした。
前を歩くユリアが茂みをかき分け、その後ろに着いたヴィタが本を持って音読する。
「魔法は大きく三種類に別れ、精製魔法、補助魔法、回復魔法があります、だってさ。
私が得意なのは、どっちかって言ったら補助魔法かな」
例えば魔素を身にまとい鎧として使用したり、剣を覆って切れ味を高めたりするものがある。
へぇと気の抜けたユリアの相槌が返る。
「また、精製魔法は使用者にとって得意なものが別れます。
自分が得意な分野を見つけ、探求していくことで魔法を極めることができるでしょう、だって」
それって丸投げじゃん、とユリアは思った。
「……まぁこれは想像力しだいってとこかな、ちょっと魔法で防壁作ってみて」
ヴィタの提案に彼女は歩くことをやめて杖をローブから取り出す。
ここには木々がたくさんある。
木々の間、葉っぱの周囲、樹木の割れ目、色々な場所に魔法の元が溢れている。
それらを使う。
“壁よ”と唱えた彼女の目の前に木が何重にも組み重なって出来た一枚の壁が現れた。
〈重木壁〉である。
「いいね」
笑みをこぼすヴィタの右の拳に体内から魔素が集められていく。
右腕を覆うほどの魔力。
彼女は地面にそれをたたきつける。
次の瞬間、足元の大地が隆起し始めた。
地面は姿を変え、大蛇のように這う土の生き物となった〈多土蛇〉が襲いかかる。
「死ぬって、それは!!」
ユリアの抵抗の声も虚しく、〈重木壁〉は地面から噛み砕かれ砕け散ってしまった。
「まだまだね、訓練しながら行こうか」
ヴィタが言い、少し回り道をしながら進むことになった。
森は訓練には最適だった。
人があまり入ってこない、ということもあり、多くの触手を持つ歩く植物の魔物や、体格が変化し通常より大きな体格と、より鋭い牙や爪をもつ獣などの縄張りになっていた。
〈魔刃〉を用いてそれらを倒しながら進む中で、
例えば木をムチのように操り対象を捕獲したり、強力な花粉を作り出し、対象を麻痺させたりする魔法をユリアは新しく覚える。
そうして魔法の扱いに慣れていった。
第六領が終わりを迎え、第四領に二人が足を踏み入れた時、ユリアの称号が『魔女見習い』から『魔女』へと変化する。
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