ヴィタ
私は退屈だった。
年齢は百を超えた時に数える事をやめた。
ダークエルフっていうのは寿命が長いらしい。
六領の役人にも飽きてきた。
そんな時だ、新しい勇者が生まれたと知ったのは。
子供だった頃、勇者の絵本を読んだ。
そこに描かれている勇者は兜を被り、鎧を着て剣を持ち、易々と魔物を倒していく。
かっこいい。惹かれた。
この人みたいになりたい、友達になりたい!
と思い、絵本を隅々まで読んだ事を覚えている。
二十歳で成人し、しばらく経った時、当時の魔王が勇者に倒された。
魔族の多くは悲しんだが、私は勇者を一目見たかった。
近くに行って、
魔族にも勇者を応援している者がいるよ! と伝えたかった。
でも、その時の私は若くて、それは叶わなかった。
魔族の復興のため、魔法を学習し始めた。
戦うことはないし、食べていくのにはちょうどいい。
ダークエルフの私には魔法に関する素養が多くあった。
私が匂いで魔素を嗅ぎ分けることができるということを知ったのもこの時期だ。
そのうち長い時間が流れる。
勇者を好きだったことも忘れかけ、ただ毎日をなんとなく過ごす。
六領は平和だ。
人間が訪れることはほとんどない。
そのうち、勇者に会いたい!
その望みも忘れかけていた。
ある日、周りのエルフの世間話が耳に入ってくる。 なんでも新しい勇者が産まれたらしい。
しかも女の子で、光の剣技を使うらしい。
え、なにそれ、すごくかっこいいじゃん。
興味を持った私は役人をやめ、その勇者を調べ始めた。
空から彼女をみかけた時は信じられなかった。
遠くはあるが、目の前にいる。
明らかにチャンスだった。
だけど、話を聞いて失望した。
人間の愚かさに。
元勇者である目の前の人物を助けたかったし、私がなんとかしてやりたいと思った。
それで出たセリフが
「魔女になってみない?」だった。
自分でもバカみたいな提案だと思う。
でも、今目の前にいる人物ははそれを信じ、受け入れてくれた。
どんどん魔法を覚えていく。
すごい、さすが元勇者、と思うが、
反面不安になる。
彼女は明るく、弱さをあまり見せない。
本当は誰よりも悔しいはずなのに。
私が不要になったら、彼女は私を置いて、どこかへ行ってしまうのではないか?
そしたら、私はーー。
ーー「私、決めたよ。遊び人を見つけに行く。
ヴィタ、最後までついてきてくれる?」
もちろんだ。当たり前に決まってるじゃない。
出発の前の日、二人で同じベッドに寝ながらここで一生暮らせたら、と考えた。ダメだ。
その幻想は、私の目の前で、夜露となった。
ユリアという一人の人間の勇姿を、私は見守ることにした。
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