クリスマスは皆で過ごしたい その2

「クリスマスだよ!人生ゲーム大会!」


「「いぇーい!」」


 久しぶりに全員が部屋に集まり、宅配で頼んだピザやチキンが届いたタイミングで乃愛が高らかにそう宣言した。それに合わせて燈と七海が元気に返事をし、クリスマスパーティーが開始されたのだった。


「ルールは簡単!私達6人で人生ゲームをします!銀行役は零央くん!もちろん1位には御美があります!張り切っていきましょう!」


 御褒美があると宣言された瞬間、全員がこちらに視線を向けた。そんなこと聞かされていなかったのだが6人分の期待の眼差しを俺は耐えることは出来なかった。



 そんなこんなでスタートした人生ゲーム大会。食べたり飲んだりしながら和気あいあいと進行していき、気づいた頃には社会人になろうとしていた。


「職業とか選べるんですね~。ボクはどうしよっかな~」


 最初に辿り着いたのは燈。職業カードを選択する地点で条件を見比べながら考え、「やっぱりこれかな!」とアスリートのカードを選んだ。


「ボクといえば!アスリートですよね!」


 そんな燈の次に到着したのは栞。だが栞は悩むことなくとあるカードを手に取った。


「まぁこれだろう」


「警察官……栞ちゃんらしいね」


「あぁ。私の幼い頃からの夢で、憧れだからな」


 ゲームとは言っても真剣に取り組んでいる栞は警察官のカードをじっくりと眺めてどこか嬉しそうに微笑んでいた。


「じゃあ次は私かな……何にしよう…」


 続いて七海。沢山の選択肢を見比べ、しばらく悩んでいたのだが、気になるカードを見つけたようでサッと手を伸ばした。


「最近の人生ゲームは配信者なんてあるんだね。理論値的には成功すれば収入も悪くなさそうだし……うん。これにしよっかな」


 なんだかんだそれぞれに合った職業を選んでいく。そんな流れのようなものが出来上がっていたタイミングで次に止まったのは桜。桜からは将来について聞いたことがなく、皆が何を選ぶのかと注目してしまっていた。


「………………これかな」


「コック?なんで?」


 桜は少しだけ悩んだ末にコックのカードを手に取った。そんな桜へと燈が選んだ理由を尋ねた。しかし桜は「適当。いいでしょ別に」と冷たく返した。その返事に燈は不服そうにしていたが、そう返した後に桜が俺の方をチラリと見て、照れくさそうにしたのを俺は見逃さなかった。


「次は私だね~。ま、私も決まってるけど!」


 乃愛の番になり、待ってましたと言わんばかりに教師のカードに手を伸ばした。この流れで決まっていると宣言したということは教師になるつもりなのだろうか。初耳だ。


「将来は教師を目指すのか?」


「うん。言ってなかったけど……子供とかは好きだしさ。教えるのも好きだし、向いてるかなって」


 そんないつの間にか将来の夢発表会になってしまった流れに誰よりも悩んでいる人物が1人。最後に残ってしまった薫である。長年専業主婦として過ごしてきた薫は頭を抱えてしまっていた。栞や乃愛が「気にしなくていいですよ」とは声をかけるものの何か納得がいかないのか会社員を取ろうとしては諦めてを繰り返していた。


「っ…ねぇ零央くん……笑わないわよね?」


「笑うわけないだろ」


「じゃ、じゃあ……」


 恥ずかしそうに薫が手を伸ばしたのはアイドルのカード。それを自分の手元に置いた薫は顔から火が出そうなくらいに赤くなり、ボソボソと呟き始めた。


「……………昔は……そのっ…憧れてたというか……ね?時代的に……ね?」


「そんなに照れるなら取らないでよ……なんか私まで恥ずかしいじゃん……」


 こうして各々が職業カードを選び終え、順調にゲームは進行していった。職業のランクアップや多数のイベントで一喜一憂しながら遊んでいると、桜がとあるマスに止まりポツリと呟いた。


「あ、結婚………」


「ほほう!!桜さん!誰と結婚するのかな??教えて教えて!桜が結婚した相手は誰なのかなぁ???」


「うわうざ……なに急に」


 結婚というワードを口にした桜に燈が畳み掛ける。それを見ていた全員が「いつものね」と理解して燈を注意する準備をしていると桜は俺の方をまっすぐ指差して答えた。


「そんなの零央さんに決まってるじゃん」


「うぇっ………」


「はぅっ!!?」


 珍しい桜の台詞に聞いた本人である燈が顔を真っ赤にして言葉を失ってしまい、何故か七海が胸を抑えて大袈裟なリアクションで床に倒れた。


「あっぶなぁ……尊すぎてキュン死するかと思ったぁ………」


「もう七海さんまで………てなわけで零央さん。はい」


「………なんでしょう」


 いつになく冷静な桜に手招きをされる。俺がとりあえずとぼけてみると、桜は呆れた顔で手招きの意味を教えてくれた。


「結婚するんだから。必要じゃん。プロポーズ」


「マジすか……」


「マジ。ほら早く。ゲーム進まないから」


 いつもの仕返しのつもりか逃がしてくれる気配のない桜。俺は腹を括り、皆からの注目の視線が向けられる中で桜の要望に答えることにした。


「俺と結婚してください」


「…………っん。零央さんが言うなら。仕方ないかなっ。ぅん」


「次!!!次は私が結婚する!!!」


「いやっ!ボクです!!!」


「あぁぁぁぁ供給過多で死ぬぅぅ……」


「仮にも自分の彼氏だぞ七海……まぁ分からんでもないが」


「桜がっ………お嫁さんにっ………」


 桜へのプロポーズを見た反応はそれぞれで、燈と乃愛は更にやる気をだし、七海はより悶えてのたうち回った。栞はそんな七海を心配しつつ俺に視線を送ってきて、薫はゲームだというのに娘の結婚に感動してしまっていた。


 その後、結局全員が結婚マスに止まったおかけで、俺はその度に各々へプロポーズをすることになったのだった。そして結婚したということは………


「…………子供が産まれたらしい」


「ぬわぁぁぁ栞さんに負けたぁ!」


 出産マスを最初に踏んだ栞が幸せそうな表情でそう呟き、近くまで迫っていた乃愛が目茶苦茶悔しそうな叫び声をあげた。理由はどうであれ人生ゲームをここまで楽しんでいるのは凄い。


「ふふっ。楽しみだな」


「「「「「「!!!?!?」」」」」」


 恍惚とした表情でお腹をさすり、そう呟く栞。そのあまりにも意味深な言動に俺達全員が驚き、彼女達は一斉に俺の方を振り向いてきた。


「いやいやいやいや!!!無実だ!!!まだなにもしてないって!!!」


 俺は全力で首を横にふって否定し、栞の冗談であると説明する。そんな慌てふためく俺を見て栞は無邪気に笑い、「事実にしてもいいんだぞ?」と意地悪な返しをしてきたのだった。



 そんな心臓に悪いやり取りをそれぞれ子供が産まれる度に行い、いつしか全員がゴールして結果発表へと移っていった。お金を受け取って俺が集計する。今回の人生ゲームの勝者であり最も稼いだのは………


「1位。木下七海」


「え、うそ。ほんとに?やったぁ!」


 2位である栞に差をつけ、1位を取ったのは七海だった。勝因としてはやはり配信者という運ゲー職業を選んだのにも関わらず最大値を引きまくったからだろう。


「え、どうしよ勝てるとか思ってなかった……御褒美何にしよ………」


「………なんでもどうぞ」


 てっきり俺が決めるのかと思っていたのにまさかの要望を答えるタイプだったことに戸惑いつつも、七海なら変なお願いはしてこないだろうと受け入れた。


 のだが……


「………キスしたい」


「……………どうぞ」


 意外と強めの要望を言われたことに驚く。そういえば七海はこういう時にちゃんと見せつけるタイプだった。俺がその要望を聞き入れ両手を広げて七海を待っていると、七海は俺と向き合う形で膝の上に座り、抱きつきながらキスをしてきた。


「はむっ…………ちゅ……ぅ…ん…………零央くん…………好きだよ……」


 抱き合いながらの激しいキスをする。七海は私だけの特権だと言わんばかりに体を擦り付け、今から本番でも始まるんじゃないかというほどに求めてくる。


「ちょ……ストップ!七海さん!やりすぎ!ダメダメダメ!それ以上はマズイです!」


 そんなキスを見せつけられ、我慢できなくなった燈が割り込んできた。七海は少し名残惜しそうにしながらも、焦っている燈に対して勝ち誇った表情で告げた。


「燈ちゃん。今日は私が一番……だよ」


「!!!?」


「まったく…七海は変わりすぎだ」



 こうして人生ゲーム大会は幕を閉じ、とりあえず余っていたピザやチキンを食べながら次は何をするかと話していると俺の膝の上に乗っかったままだった七海が彼女達に視線を送っていた。それに合わせてそれぞれが立ち上がり始め、俺に何も言わずに移動を始めた。


「一応聞くけどどこに?」


「まぁまぁ!零央は座ってて!すぐ戻ってくるから!」


 案の定教えてくれなかったが、大体の想像はつく。なんせ七海の持ってきていたキャリーケースが無い。いつの間にか桜達の部屋に運んでいたようだ。



「急に広く感じるな……」


 さっきまで7人で騒がしかった部屋で1人になり、俺は寂しさを感じながらもゴミを片付けながら彼女達を待つのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る