クリスマスは皆で過ごしたい その1
12月25日水曜日。冬休みだからと惰眠を貪っていたのにも関わらず、喧しいチャイムの連打で起こされることになった。
こんなにもうるさいというのに隣の燈は気持ち良さそうに眠っており、そんな燈を起こさないようにと気をつけながらチャイムを鳴らしている犯人の元へと向かった。
「んだよ朝から……」
「朝じゃない!もう昼!良いから入れて!寒いの!」
「ごめんね零央くん……桜ってば昨日からずっと待ちきれなかったみたいで…」
「お母さん!余計なこと言わないで!」
いつも以上に良く吠える桜はズカズカと部屋へと上がり、まだ寝ていた燈から毛布を剥ぎ取った。
「はやく起きろこのバカ!」
「ぅっ…………さむぅ…返してよ零央……」
「寒いなら服着ろ!」
「なに…………桜ぁ?なんだよもう…うるさいなぁ……この際桜で良いや……」
「へ?ちょっ……!?」
寝ぼけているのか燈は桜ごと毛布を取り返し、そのまま桜と共に毛布に包まれた。
「ふへへ……桜もこもこ~あったか~い。ほら零央の匂いだぞ~好きだろ~」
「やめっ……やめろぉ!なんでそんなの燈越しに嗅がせられなきゃいけないの!」
「なにしてんだお前ら……」
突然始まった2人のイチャイチャを見ながら溜め息をついた。そもそもどうして燈が俺の部屋にいるのかというと、文化祭の約束だったクリスマスイブを2人で過ごしたからだ。昨日の夜に燈から「性の6時間ってのがあるらしいね!」と誘われ、その言葉の意味通りにヤることヤった後というわけだ。
「いいなぁ桜ってば……」
「……薫?」
「ハッ!!?いや違うのよ!?これは燈ちゃんに抱かれてる桜が良いって言ったんじゃなくて!零央くんの匂いを――」
「よし分かったそれ以上は大丈夫」
娘の前で良からぬことを口走ろうとした薫を止め、俺は燈に捕まっていた桜を救出してやることにした。
「ほれ燈。とっとと起きろ。あと桜を離してやれ」
「もぅちょっとぉ………」
「あのなぁ……ん?」
珍しく起きようとしない燈になんとか桜だけでも助けようと考えていたのだが、俺は桜が大人しくなっていたことに気づいて桜の顔を覗き込んでみた。
「ぅあ………………んっ……ふへ……」
「…………薫。そっちの部屋で皆を待とうか。2人の邪魔しちゃ悪い」
「そうね。そうしましょうか」
「ハッ!!?」
燈に抱きしめられ、すっかり出来上がっていた桜の為にと薫に提案すると、桜はパッと起き上がり迫真の叫び声をあげた。
「ちっがーーーーーう!!!!」
「もー桜のせいで目が覚めちゃったじゃん」
「私のせいじゃない!そもそも昼だし!遅くまで起きてるからだよ!」
「はっはーん?桜ってばもしかして聞いてたのかな~?」
「いや!?聞いてないけど!!!?」
なんとも分かりやすい桜の反応から聞かれていたことを察した。一応声や音はお互いに気を遣っていたはずなのだが……
「ごめんね燈ちゃん。桜ってばずっと壁に耳を当ててさ……やめなさいって注意したんだけど……」
「お母さん!?」
「桜ってばえっち~」
身内からの裏切りに桜は動揺し、更に燈からの追撃もあってブンブンと腕を振り回して怒りだした。流石に可哀想に感じた胡座をかいていた自身の太ももの辺りを叩き、桜に手招きした。
「ほい」
「っ…………もぅ!仕方ないなぁ!」
怒っていたはずの桜の顔は一瞬で和らぎ、ニヤニヤを抑えきれないといった顔ですぐに股の上に座った。当然のように燈から「ズルい!」と吠えられたが「昨日たくさん楽しんだでしょ」と満面の笑みの桜に説得させられてしまうのだった。
「おっと…悪い。皆を迎えに行ってくるわ」
その後、4人でのんびりと過ごしていると栞からメッセージが届いた。もうすぐ駅に到着するということで俺は防寒対策をきっちり施してから駅へと向かうことにした。
駅に辿り着くと少し前に電車が来ていたようで、駅前で栞と七海。それに加えて乃愛が3人で話をしていた。
「すまん。待たせた」
「まったくだ。乃愛の方が早かったぞ」
「ふふん。ま、私の方が家から近いんだけどね」
「わ、私は全然気にしてないよ零央くん!」
「うわぉちゃっかり抜け駆け。やるようになったね七海ちゃんも」
「……まだかまだかと私よりもソワソワしていたのは誰だろうなぁ?」
「それはその……ね!」
今日という日の特別感からかいつにも増して元気な3人。立ち話もなんだからと俺の家に向かって歩きだす前に俺は七海が持参していたキャリーケースに視線を落とした。
「それなんだ?俺が持とうか?」
「えっいやっ……!大丈夫!私の私物だから!」
「でも持ってきたってことは今日用の何かだろ?なら俺が代わりに――」
「零央。七海がいいと言っているんだ。過保護すぎても良くないぞ」
「そうそう。そんなに優しさを見せたいなら10分前には駅に着いておかないと」
「…………すいません」
栞と乃愛からも止められ、より一層中身が気になってきたが恐らくはサプライズ的なことだろうと察した俺は出来るだけ気遣いながらアパートへと戻るのだった。
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