ex0 救えなかったヒロイン達 後編

『僕らの隣に座っていた天使』



「離れろよバカ女」


「なんでっ………何があっても一緒に居てくれるって約束したじゃないですか……!」


「稼げない女に付き合ってるほど俺も暇じゃないんだよ!」


 とあるマンションの一室でとある女が男に縋るように抱きつき懇願していた。対する男は女の懇願に聞く耳を持たずに強引に引き剥がして蹴り飛ばした。


 原因は1年前のある日。当時の超人気配信者だった女は配信画面に彼氏からのメッセージが写り混んでしまうというミスを起こした。彼氏なんていない。なんなら男性と付き合ったことすらないという触れ込みで活動し、沢山の甘い蜜を啜ってきた彼女にとってその一度のミスは取り返しのつかないものであった。

 それから女は失敗に失敗を重ね、今では際どい写真を撮って、それなりの高額な値段で売るという活動をしている。1年前の収入に比べれば天と地ほどの差があり、だからこそ女は今まさに男に切り捨てられようとしているのだった。


「来月にはっ……来月には沢山入ってきますから!」


「おせぇんだよ来月とかよ。お前がいつまでたっても裸は嫌だとか言うからだろうが」


「でも…………でもっ……」


「…………そうだ。良いこと思い付いた」


「っ!なんでも!なんでもしますから!」


 一度は捨てようとしていた男は女の胸部を見てあることを思い付き、女に告げるのだった。完全に後がなくなっていた女はそれを驚くほどすんなりと受け入れることになるのだった。





「え……………木下?」


「あっ、もしかして好本くん?うわ久しぶり!2年の時以来かな?え、てかこういうとこ来るんだ!意外かも!」


 その日。ある男が興味本位で足を運んだ店に、男のかつての同級生であり初恋の相手がいた。見間違えるわけがない。連絡をとらなくなってからも彼女の配信を追い続け、事件の後も応援していたのだから。


「なんで…………こんなとこに……」


「……………はいじゃあ時間計りまーす」


「っ…!ちょっ……困ってるなら僕が助けに――」


「えっとさ。ここに何しにきたわけ?こんなとこで今更カッコつけないでよ」


 女はどこか冷えきった目で男を見つめ、今日も仕事に精を出していた。しかしその対価は女に入るわけではなく、そのほとんどがここを紹介した男が女と遊ぶための資金になるのだった。



 ――――――


『おにいちゃんといっしょ』




 いたい。



 なんで。



 たたかないで。



 こわい。



 ひりひりする。



 やだ。



 いたい。



 だれか。




 やだ。





 たすけて。







「ねえ桜。何かあったの?」


 放課後。燈に心配された。最近はちゃんと話してない。でも理由がある。


「なにもないよ」


「……嘘じゃん。元気ないじゃん。ボクで良ければ話くらい聞くよ?」


「………………うるさい」


「桜!」


 燈は私の右手首を掴んで止めようとしてきた。けどその瞬間、私はすぐにその手を振り払った。


「やめてってば!さわんないで!」


「っ………………」


 触られなくない。思い出すから。忘れられる間は忘れていたい。記憶から消したい。でも消せない。だって無駄だから。


「迎えに来たぞ桜」


「……ありがとうおにいちゃん」


 廊下から聞こえてくる声に答える。なるべく笑顔で。だってだいすきなおにいちゃんだもん。たいせつなかぞくで、こいびとだもん。


「……ちょっと先輩。桜の様子が明らかにおかしいですって」


「そうか?まぁだとしても燈には関係ないだろ?俺達兄妹の問題だもんな?」


「うん」


 燈は何も言い返せず、歯軋りしていた。私はおにいちゃんに手を引かれ、教室を出る間際。燈の方を見て、告げた。


「だいじょうぶだから。心配しないで」



 これは私達兄妹の話だ。燈や零央先輩達はこの関係に何も言えない。だってわたしはつらくないもん。わたしはこんなにもしあわせだもん。




 ね。おにいちゃん。



 ―――――――


『身も心も犯されて』




 捨てられた。



 零央くんがどっかに行った。



 あんなに愛してくれたのに。



 あんなに尽くしたのに。



 前よりも痩せたじゃん。



 呼ばれたらいつだって会いにいったじゃん。



 料理だって作ってあげたじゃん。



 身の回りのことはしてあげたじゃん。



 ちょっと他の女の子に会って欲しくないって言っただけじゃん。私が会いたい時には会いに来てってお願いしただけじゃん。私のメッセージには一分以内に返してって約束したじゃん。結婚まで考えてたじゃん。私になら刺されてもいいっていったじゃん。なのになんで。なんでいなくなるの。重い女でもいいって零央くんが言ったんじゃん。ぶん殴ってまで楓から私を奪ってくれたじゃん。



 この子はどうするの。



 産まないとか考えられないよ。



 私は零央くんと一緒ならどこまでも行けたのに。学校くらい辞めたのに。



 なんで私を置いてっちゃうの。



 ねぇなんで。



 教えてよ零央くん。



 私になら殺されてもいいんでしょ。



 もう私は君がいなきゃ生きられないんだよ。



 帰ってきてよ零央くん。



 いつまでも、この子と待ってるから。



 ―――――――



 後書き。



 バッドエンド集はこんな感じでございます。


 いやぁ……本編では皆が幸せになれてよかったよかったですねぇ……


 今回のバッドエンド集は私の頭の中にあった設定の部分に近いです。それをわざわざ文字に起こした理由は………たまには鬱要素のある展開も書きたくなったからですね。でも辛い。





 さてさて!流石にこの辛い話で終わらせませんとも!色々してたらこの時期でしたね!書くにはもってこいのタイミング!



 次回!幸せたっぷりクリスマスパーティー!


 なんとかっ……当日に間に合わせます!



 ではまた。クリスマスに。

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