言葉で伝えなくても
書いてなかったヒロインの追加分です。まずは桜です。
――――――
零央さんと付き合い始めてしばらく経った頃、私はまた零央さんに怒ってしまった。でも今回ばかりは零央さんも悪い。隙あらば私の頭を撫でてくるんだもん。寝てる時とか、お風呂に入ってる時とか、子供扱いしないで欲しい。
「どしたん桜?」
昨日の喧嘩を思い出し、休み時間の教室でふてくされていると友達のカナちゃんが声をかけてくれた。私は机にだらーっと体重を預けながら愚痴を溢すことにした。
「………子供扱いしてくる人ってなんなんだろうね」
「あー……また副会長さんの話ね」
「いや???違うけど???」
零央さんの名前なんて出してないのにカナちゃんは「やれやれ」というリアクションをしながら空いていた隣の席に座り、話を聞いてくれることになった。
「ほら言ってみ。具体的には?」
「………頭撫でてくる」
「うっはぁラブラブだぁ」
「ちょっと茶化さないでよ!私は真剣なの!」
カナちゃんはよく相談に乗ってくれるけどすぐ茶化してくる。そんなカナちゃんに私が怒鳴ってしまうと、カナちゃんは不思議そうな顔で質問をしてきた。
「毎回思うけどさぁ?どこが好きなん?」
「へ???」
「いやほら、桜から聞く副会長さんの話って『あれが嫌だ。これが嫌だ』ばっかりだからさ。そもそも……えっと何股だっけ?4?5?まぁとにかく、なんで付き合ってるんだろーって」
「な、なんでって………」
「燈からはそんな話聞かないしさ、もしかしたら桜には合わない人なんじゃないかなって。何股もしてる人な訳だし、無理して付き合う必要もないと思うよ?」
「いやっ………だって…」
カナちゃんから次々と詰められる。顔は真剣そのもので、心配してくれてるってのが伝わってくる。休学が明けた後も心配してくれたし、本当に優しい娘だ。
でも、だからこそ私の言葉をそのまま受け取ってくれる。最近は零央さんが察してくれてたからちょっと甘えてた。友達にはハッキリ言わないと……
「…………無理してないよ。ちゃんとっ……す、……好き………だし、幸せ……だよ」
なんとか言葉を絞り出す。今の私があるのは零央さん達のおかげと言ってもいい。信頼できる人にはそういうのはちゃんと言っておかないと伝わるわけがない。
でもちゃんと伝えるのは恥ずかしくて、ずっと俯いたままだった。私の想いを聞いたカナちゃんは何にも返してくれなくて、もしかしたら怒ってたりするのかなと顔を上げてみると……
「んふふふふぅ」
「うわきもっ!なにそのニヤケ顔!?」
カナちゃんは本当に気持ち悪いくらいニヤケていて、我慢できなくなったのか変な声も漏れていた。
「んふふふ!大丈夫だよ桜!全部分かってたから!桜ってば顔に全部出てるし!」
「はぁ!!!?」
「何話してるんだいカナっち!」
「おっす燈!もちろん桜の惚気話!」
「えー!惚気話ならボクから聞いてよー!桜じゃつまんないでしょー!」
「それがそうでもなくてぇ!」
「ちょっ……やめやめ!この話終わり!」
燈の乱入のせいで一気に騒がしくなり、これ以上話を広げられる前にと無理矢理話を終わらせるのだった。
その日の夜。零央さんが怒らせたお詫びにってアイスを奢ってくれた。なんだか複雑な気持ちだった私は「いらない」とは言えずに買ってもらい、零央さんの部屋で食べることにした。
怒ったことを謝ることも出来ずにひたすらにカップアイスを食べ進める。零央さんも何も言ってくれない。そろそろ愛想を尽かされたのかもしれない。
頭を撫でられるのだってホントは嬉しい。でもそんな子供みたいな事で嬉しがっちゃいけないって恥ずかしくなって零央さんに怒っちゃって……こんなんじゃ私が好きでも零央さんからは嫌われちゃう…………
「っん…………」
突然頭に大きな手のひらが乗っかった。男の人らしいけど優しい零央さんの手。私は安心しつつも、反射的に睨んでしまった。
「なに……するの………」
「……なんとなく」
「撫でないでって言ったじゃん……」
「………悪い。でも俺が落ち着くんだよ」
そっか。零央さんも落ち着くんだ。なら仕方ない。零央さんが頭撫でるのが好きなんだったら仕方ない。ワガママな彼氏のお願いは聞いてあげなきゃ。
「もぅ………しょうがないなぁ……」
「ありがと」
私は自分自身にすら色んな言い訳をしながら、今日も今日とて大好きな彼氏に甘えてしまうのだった。
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