ex5 おわりのはじまり 

 ⚠️注意喚起


 楓編です。


 一応これが私の中にあった楓の末路です。



 一切のラブコメ要素はございませんので、楓の末路を見たい方だけご覧ください。



 ではどうぞ……






 ――――――




 俺はあの男に全てを奪われ、絶望のどん底まで叩き落とされた。


 高校を辞め、地元を離れ、コンビニで小うるさい店長に怒られながらバイトするだけの日々。上手くいっていたはずの人生だったのに、たった数回の間違いで俺は追い詰められていた。


 井伏は許されてたのに、俺は許されなかった。悪いやつが改心したら皆が手のひらを返すように褒め称えた。アイツがどれだけ喧嘩っぱやくて、女と遊んでいたのか皆知っていたはずなのに丸くなったからって心を許したんだ。


 父さんは俺の事を叱るようになった。それだけじゃない。「なんであんなことをしたんだ」と引っ越した頃はよく詰められた。そんな父さんになんで俺を見捨てなかったのかと聞くと、「お前は本当の母さんが残してくれた繋がりのようなものだから」と涙ながらに言われた。


 俺はその言葉を聞いたときに憤りを感じてしまった。息子だから手を差しのべてくれたのかと思ってたのに、結局は母さんを通してでしか俺の事を見てくれなかったからだ。



「乃愛の幼なじみだから」


「母さんが残した繋がりだから」



 まるで俺には何の価値もないみたいに言ってくる。今まで散々持て囃してきたのはそっちだってのに。





 それから1年くらい経過したある日、俺は父さんと大喧嘩をした。きっかけは父さんからの提案にあった。「高卒認定を取るつもりはないか?」と問われ、バイトの疲れでイライラしていた俺は思わず「辞めさせたのはそっちだろ」と返してしまった。すると父さんは突然怒り出して「自分が何をしたのか分かってないのか!」と怒鳴られてしまった。


 それくらい当然分かってた。けど若気の至りみたいなもんだ。結局はやってないんだし。姫崎の一件に関しては俺は騙された側だ。あんなズルい方法で人をハメた奴が正義面してるのが腹立たしい。

 何も不自由がない暮らしからこんなアパートに引っ越して小さな暮らしをしているのも全部井伏のせいだ。アイツがいなければ今頃俺は乃愛と付き合ったまま、燈や栞達と良い関係を築けていたはずなんだ。


 そんな溜まっていた不平不満が父さんから怒鳴られた時に爆発し、俺は「こうなったのは全部あんたのせいだろ!」と言葉にしてしまった。そしたら父さんは言い返してきそうな素振りを見せたが、反論出来なかったのか「すまん」とだけ呟いて黙った。


 それから父さんから小言を言われることは無くなった。何を話そうにも淡白な返ししか帰ってこない。これはこれでどこか虚しい。だから何度か謝ろうとしたのだが、父さんは聞く耳を持ってくれなかった。



 そんなある日。俺にも転機が訪れた。


 バイトを辞めた秋のこと。俺は父さんに内緒で高校の文化祭に顔を出そうと思った。教師からも「入るな」とは言われていたが、軽く変装すれば心配はないはずだ。問題なんて起こす気はないし、少し乃愛に謝れればそれで良かった。


 それにあれから1年も経っている。井伏だってそろそろボロが出たはずだ。きっと学校から居なくなっているはず。



 そう………思ってた。



「ねえロミオ……愛してる」


「………俺もっ…!?」


 受付は適当な名前を使って通り抜け、なるべく誰にも会わないように乃愛を探した。すぐに気付かれるものかと思ったが意外と誰も俺には気付かず、和気あいあいとした文化祭を送っていた。俺も今ごろは皆と笑っていたのかと思うと胸が痛む。


 そして乃愛のクラスは演劇をするのだということを知った。時間も丁度良く、暗い場所だからより一層気付かれないだろう。そう思い俺は急いで体育館へと向かうことにした。



 だがそこで目にしたのは信じられない光景だった。


 主演の1人が乃愛であることはいい。でも……なんでその相手が井伏なんだ。しかもラブロマンスって………何の冗談だ。その事実だけでも俺はどうにかなりそうだったのに………最後の最後にふたりは突然キスをし始めてしまった。遠目だから本当にしているかなんて分からないが、そんなことはどうでもいい。乃愛は俺とキスする時は乗り気じゃなかったのに、例えフリだとしてもするなんて意味が分からない。



 まさか………いや、まさかそんなはず……


 あの乃愛が…………井伏なんかと……




 キリキリと脳が軋むような音をたてているのが自分でも分かる。だがまだ信じられない。信じたくない。


 俺はどうにか話を聞こうと体育館の周りで乃愛達のクラスが出てくるのを待った。しばらくすると乃愛と井伏が体育館から出てきてふたりで話しながらどこかへと向かっていた。

 あんな乃愛の笑顔なんて久しぶりに見た気がする。もしかしたらもうあの日の事なんて忘れているかも。そうだ。乃愛は関係ない。桜ならまだしも、乃愛は―――



「こぉらぁぁぁあ!!!」


「ガフッ……!!」


 俺がふたりの後を追おうとすると、どこからともなく猛スピードで桜が突っ込んでいった。1年前よりも身長も体つきも大人びているように見える。


「なーにしてるんですかぁ!!!」


「俺に言うなよ!乃愛に言え!」


「あー桜にも効いちゃったかー。ごめんねー」


「ボクも怒ってますよ?」


「……………あ、ホントに?」


「なんなら私達もだ。なぁ七海?」


「うん。これは当分接触禁止まであるね」


「そんなぁ!許してよぉ!」



 次々に零央の周りには女子が集まっていった。燈や栞に七海まで。俺の周りにいたはずの皆が揃いも揃って井伏とあんなに仲良さそうに話している。


 周囲の生徒達も「はいはいいつものね」みたいな目線で見ている。


 俺がいたはず輪の中心には井伏がいて、俺はこんな日陰で見ているだけ。



 おかしいだろ。



 常識的に5股はおかしいだろ。なんでそれで許されてんだよ。意味が分かんねぇよ。



 俺とお前で何が違うってんだよ。




 クソが…………!




 俺は気づけば乃愛達に向かって歩みを進めていた。俺が目を覚まさせてやらねぇと。きっと騙されてる。そうだここまではお膳立てだ。そうに違いない。



「ねえ……もしかして宮野くん?」


 突然後ろから声をかけられた。ここまで誰からにも声なんてかけられなかったのに、しかも名前まで当てられた。かわいい女の声で、俺は声のした方へと振り返った。


「えっと……そうだけど………」


「やっぱり!やっと会えた!」


 女子は俺に抱きついてきた。制服はうちのものだし、リボンの色からして今の3年生…つまり同い年だ。


「急に転校なんてしたからずっと探してたんだよ。どうしたの?まさか戻ってくるの?ホントに?だとしたら嬉しいな」


「え、いや……戻ってくるわけじゃ…」


 見覚えがない。かわいい女子には大抵声をかけたが、一度話しただけの女子なんて沢山いる。しかも1年は会ってないわけだし……覚えているわけがない。

 その女子は一度俺から離れると、矢継ぎ早に言葉を投げ掛けてきた。


「そっか。じゃあこの後予定とかある?ないんだったらさ、うち来ない?一人暮らしだから大丈夫だよ。なんなら泊まって行ってよ。」


「え……いいの?」


「うんもちろん。久しぶりに会えたんだからさ、話したいことも沢山あるんだよ」


「じゃ、じゃあ………」


 抱きついてくるし、一人暮らしの家にあげてくれるし、こんなに好意を寄せてくれているということは………流石にそういうことだ。



 やっと俺にもツキが回ってきた。そう思うとソワソワしている気持ちが抑えられない。乃愛達のことは後でいい。ここから俺の幸せな人生がまた始ま――――









「…………………っ?……んん!?」


「あ、起きた?おはよう宮野くん」


 目を覚ました。だが瞼はとっくに開けているはずなのに視界は暗いままだ。口にも何かをハメられていてうまく喋ることも出来ない。手足も何かで縛られていて、身動きも取れずに椅子に座らされている。


「ごめんね。酷いことして。あ、安心して。ここは私の部屋だから。でもあんまり大きな声は出さないでよ?近所迷惑になっちゃうから」


 淡々と状況を語られる。聞こえてくる声はさっき会った女子の声だ。だが不思議とさっきよりも恐怖を感じる。同じトーンのはずなのに可愛げなんて一切ない。


「ねえ宮野くん。私ね、ずっと前から宮野くんの事が好きだったの。幼稚園の頃からずっと。それなのに君の周りにはずっとあのデブがいてさ、宮野くんが嫌がってるのに付きまとっててさ。ホント嫌になっちゃうよね」


 意味不明な事を話しながら何か作業をしている音も聞こえてくる。そして自分が今服を着ていないことにも気づいた。全裸で椅子にくくりつけられて、その周りを女子が何かしながらクルクルと回っている。


「きっと転校したのもアイツのせいなんだよね。アイツが井伏と一緒に企んで何かしたんだよね。可哀想な宮野くん。辛かったよね。でも大丈夫。私が側にいてあげるからね」


 女子はそう言いながら目隠しを外した。少しぼやけている視界をなんとかハッキリさせていくと、目の前には全裸の女子が立っていた。


 ……だけならまだ良かったのだが、その体のあちらこちらには刃物でつけたような傷が大量にあった。


「そんな見ないでよ恥ずかしいなぁ……」


 顔を赤らめて恥ずかしそうに体をクネクネさせている女。だがそんな姿を見ても興奮なんて全く出来ない。俺は必死に自分のスマホを探した。なんとか逃げないと。そう本能が呼び掛けている。

 すると女子はいきなり不満そうな顔つきになり、俺の思考でも読んだかのように俺のスマホを取り出した。


「これ?あ、もしかしてお父さん?安心してよ連絡はしておいたから。『生涯を共に暮らす相手を見つけました。もう大丈夫です』ってね。ダメだよロックを誕生日にしちゃ。私以外だと悪用されちゃうよ?」


 本当に理解が及ばない。というより意味を理解したくない。こんな状況にいる理由を知りたくない。


「んんっ…………んー………」


 俺は懇願するように首を振った。絶対にヤバイ奴だ。下手したら殺される。死にたくない。まだやり残したことは沢山あるんだ。


「…………そうだね。宮野くんも待ちきれないよね。それに口につけたまんまじゃ私の告白に答えられないよね。ごめん気が利かなくて」


 女子は俺の口に着けていた謎の器具を外すと、何かを待ち望んでいるような顔で微笑んできた。


「はい。返事を聞かせて」


 俺は恐怖のあまりに吐き気に襲われながらも、この場を乗りきるための答えを捻り出した。


「付き合うっ…………付き合うから……だから…………自由にしてくれないか……?」


「え、ダメ」


 女子はそう言うといきなり俺の頬をビンタしてきた。そしてビンタした頬を擦りながらまたしても不気味な笑みを浮かべた。


「自由にしたら宮野くん……いや、楓はすぐに他の女の子に手を出そうとするでしょ?ダメだよもう絶対に。私の彼氏なんだから」


「そんなことしないって…………絶対に…浮気とかしないから…………」


「………そんなに浮気したいの?」


「だからそんなんじゃないって………ただちょっと…………」


「そっか。ごめんセックスしたいんだよね。そうだよね。ごめんごめん」



 ダメだ話が通じねぇ。こんな状況で告白とかセックスとかイカれてるとしか考えられない。


「……………どうしたの?元気ないの?」


 女子は俺の股間を見つめながらそう呟いた。こんな状況で元気になれる奴なんているわけないだろふざけんな。

 だがこんなことを口にしては本当に殺されるかもしれないと感じた俺は、なんとか嘘で乗りきることにした。


「そ、そうなんだよ。いや、朝に一発ヌイててさ、そういうことなんだよ」


「うんうん。なるほどね。心配しないで。私得意だから」


「…………は?得意?」


「うん。本でいっぱい勉強したんだよ?例えばこれはね、おちんちんに入れる針みたいなやつ。気持ちいいらしいよ」


「………………ちょっと待て」


「大丈夫安心して。何事も挑戦だから」


「そういう問題じゃっ……ぅむ!?」


 俺が叫ぼうとすると、女子は再び俺の口に何かを嵌め込んできた。そして女子は脅すかのような目で俺の事を睨んで話を続けた。


「近所迷惑になるって言ったよね?それに彼氏なんだから彼女の言うことは聞いてよ。もし大家さんに怒られたらその時は一緒に死のうね」


「んんっ……!!」


「うるさいなぁ………」


 2回、3回とビンタされる。そしてまたしても叩かれた頬を優しく擦られながら、女子は甘く囁いてきた。


「大丈夫怖がらないで。私に任せて。こういうのは慣れだから」





「一緒に気持ち良くなろう?」






      ~Bad End~


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