ex2 その後の彼女達 その2

 ―オタクとギャルと―


「お疲れさまー!」


「おっつかれー!」


 とある夏のある日。私達ふたりは少しお高めの焼き肉店の個室で今回のイベントの打ち上げをしていた。


「楽しかったね!ことちゃんと来られて本当に良かった!」


「ウチも!ななっちの衣装着れてマジ上がったわ!」


 高校を卒業してからは一般として参加していたんだけど、今年は琴ちゃんのお誘いで久しぶりにコスプレイヤーとして参加することになった。数年前に初めて参加した日は暑さで倒れそうになってたけど、今回はなんとか乗り切ることが出来た。


 私達はお酒を飲みながら戦利品や今回のイベントについてひたすらに語り合うことにした。


「やっぱ琴ちゃんってスゴいよね。めっちゃ人集まってたし」


「まぁ?有名コスプレイヤー様なんで?演じるのは得意なんで?」


「でたそれ。実際有名だから何も言えないんだけど」


「そういうななっちこそ。ななっちのコスプレしてる人沢山いたじゃん。この有名人め!」


「まぁ?ノリに乗ってる有名配信者なんで?」


 私のコスプレといっても本当の私って訳じゃない。バーチャルの方のコスプレだ。皆可愛かったなぁ……すっごい変な気分だったけど。

 そうしてふたりで盛り上がりつつ、お酒が良い感じに回っていた私は琴ちゃんの気になる話題に踏み込んだ。


「…で、そろそろプロポーズくらいされた?」


「まっさかぁ!あっちまだ大学生だよ?少なくとも就職してからじゃないとむーりー」


「えーいいじゃん琴ちゃん稼いでるんだからぁ!」


「いやいやヒモとかありえんし。まぁてつがどうしてもって言うなら養ってあげるけど!」


「ひゅーひゅー!」


 お酒が回りまくって謎のテンションになっている私達。私が今までのお返しに茶化していると、反撃と言わんばかりに琴ちゃんが質問してきた。


「てかそっちはどうなのさ。色々とややこしいでしょ?」


「ふっふっふ……実はね…………!」


 私はコスプレの為に外していたある物を鞄から取り出すと、左手の薬指にはめた。


「婚約指輪貰ってます!」


「うっわマジ!?やるじゃんイブ君!」


「ふふん!!」


 見せびらかすように左手を掲げ、胸を張る。当然あまり高いものでもないが私にとっては最高に嬉しいのだ。



 その後も私達ふたりが盛り上がっていると、個室の扉がノックされ、ようやく男勢が合流してきた。


「おっす姫崎。なんか久しぶりだな」


「おひさー!相変わらず顔怖いねぇ!」


「…………飲みすぎだろ」


 バイト終わりの零央くんが琴ちゃんにダル絡みされている隣で、少し不機嫌な顔をしていた好本くんに私は微笑みながら手を振った。


「おひさ。元気してた?」


「…………うん。そっちこそ元気そうで何よりだよ」


 私達が軽い挨拶を交わしていると、完全に酔っている琴ちゃんは好本くんをおもいっきり抱き締めた。


「うわきぃ……まだ未練あるとか言うなよぉ……」


「大丈夫だから。ほら水飲んで琴音」


「口移しがいい~」


「しないよ………」


「ラブラブだねぇ……」


「……そうだな」


 やっと今日の飲み会のメンバーが揃ったので私達は改めて乾杯し、久しぶりの再会を祝ったのだった。



 ―小さい頃からの夢―



「お疲れ安達ちゃん」


「あ、店長。お疲れ様です」


 ある日のバイト終わり。私がシフト表を書いていると配達から帰ってきた店長から声をかけられた。店長はシフト表をびっしり埋めている私の様子を見て少し心配そうに尋ねてきた。


「ほんっと頑張るねぇ………やっぱりデート代とか?」


「セクハラですよ。そして違います」


「これもセクハラになるのはおじさんにとっては難しいな……」


「そんなんだから娘さんにも距離とられるんですよ?」


「ヴッ……相変わらず手厳しい…………」


 言い過ぎたのかちゃんとショックを受けている店長に謝りつつ、私はバイトに入る理由を答えることにした。


「貯金ですよ貯金。それにお母さんの事もあるし。自分でやれることはやらないとって」


「立派だねぇ。そんな安達ちゃんが今年で辞めると思うと………またうちから有望株が抜けてく……おじさん悲しい…………」


 店長がまたおじさん臭い言動を取り始めた。それに何か勘違いしてるようなので私は店長に来年からの話をすることにした。


「私はここ辞めませんよ?むしろ時給増やして貰いたいんですけど」


「え…………?ホントに?」


「はい。そもそも大学行かないんで。主婦になろうかなって。だから来年からはパートとして雇ってくれますか?」


「俺としては嬉しいんだけど………良いのそれで?」


 店長の言いたいことは分かる。家庭の事とか色んな複雑な話をまとめて聞いているのだろう。もちろん大学にも行ってみたかったけど、それよりも私には大事な大事な夢があった。幼い頃からの大事な夢。


「大丈夫です。それが私の夢でしたから」


「そっかぁ………うん。なら来年からの件も考えておくよ。店としても安達ちゃんみたいなかわいい看板娘が居てくれた方が嬉しいからね」


「……ありがとうございます」


 私は店長に深々と頭を下げて感謝し、帰り際に「さっきのもセクハラですよ」と冗談を言い残してから退勤したのだった。

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