ex1 その後の彼女達 その1

 ―学園の王子様―


 とある日のとある教室で、入学したての1年生男子2人が放課後だと言うのに帰らずに話し合っていた。


「お前はどっち派だよ」


「もちろん安達副会長に決まってんだろ。この前すれ違った時にめっちゃ良い匂いしたし。目合ったし。笑ってくれたし」


「なに童貞みたいなこと言ってんだよ」


「悪いな童貞で。そういうお前はどうせ会長なんだろ?」


「当たり前だろ?生徒会長でありながら陸上部の副部長。しかも去年はインターハイにも出たんだぞ?カッコよすぎるだろ」


「そりゃカッコいいのは認めるけどよ…完璧すぎて近寄り難いっていうか……」


「まぁ………それはそうだな」


 男子達はその後も生徒会長と副会長について語り合っていた。そしてあーだこーだと盛り上がっていると、ふたりしか居なかったはずの教室に1人の来客がやってきた。


「どした1年生ズ。まだ帰らないの?」


 その来客は女子にしては背が高く、髪も短い。スカートから覗かせる逞しい脚や健康的な小麦色の肌は彼らには光輝いて見えた。


 そう。その来客こそ現生徒会会長世良燈その人だったのである。


「あっ……いや…………な、なぁ?」


「そ、そそそそう!はい!もう帰りますから!」


 突然の世良の登場に焦る男子達。そんなふたりを見て世良は賑やかに微笑みながら教室の中へと入ってきて話しかけた。


「もしかして恋バナかぁ?いいね青春だねぇ」


「あ、あはは………」


 距離感をガン無視して詰めてくる世良に男子達は苦笑いすることしか出来なかった。それもそのはず。普段は生徒会長として凛々しくカッコいい姿しか見せてこなかった相手が急に友達みたいなテンションでうざ絡みしてきたのだ。男子達の心臓はとんでもない勢いで鳴り響くことになった。


「ちゃんと良い恋愛しなよー?後悔しても知らないからなー?」


「わ、分かってますよ……あはは………」


「そう?なら良いんだけど……あっ!!」


 世良はチラリと時計を見て「やばっ!」と焦ると、顔が真っ赤になっている男子達に向けて「気をつけて帰りなよ!」と手を振って急ぐように教室から出ていった。


 取り残されたふたりは一度冷静になると、顔を見合わせて溜め息をついた。


「やっべぇ……何も上手い返し出来なかった………」


「俺なんて顔が良すぎて直視すら出来なかったぞ……いいなぁ3年の同級生は…隣にあんな人居たら勘違いするって………」


「「………………」」



 男子達はしばらく互いに考え込むと、口には出さなかったが同じ結論に至ることになった。


((生徒会入ろ……))


 この後、生徒会に仮入部することになったふたりだったが、会長と副会長が大学生の強面彼氏が居ることを知って脳が破壊されることになるのだが……それはまた別のお話。



 ―完璧ではなくなった少女―



「しーおりーん。一緒に帰ろー」


「うん。いいよ」


 高校を卒業後、大学に入学した私はまさしく順風満帆な日々を送っていた。3年生の最初までは高校卒業してすぐに警察官を目指したかったのだが、両親からの説得や零央達との生活も考えて一旦は大学に進学することにしたのだ。

 今では大学に通えて良かったと思っている。親しい友人も沢山出来て、サークルにも入って、高校の時は行ったことがなかった友人同士のカラオケや外食なんかを楽しんでいた。


 そんなある日。友人達と大学の最寄り駅に向かって歩いていると、皆で飲みに行かないかと誘われることになった。


「あー……今日はごめん。彼とご飯食べに行く約束してて………」


 普段ならOKするのだが、今日は先約があった。私が深々と頭を下げると、友人達はニヤニヤしながら小突いてきた。


「ほんっと熱々だねぇ……高校の頃から付き合ってんでしょ?冷めないの?」


「冷めるわけないよ。だって愛ってそういうもんじゃない?」


「「「うわぁ……」」」


「???」


 友人達は揃って私から離れるように後ずさった。そしてそのままコソコソ話を始めたのでいつものようにその間に割り込んだ。


「なになに。また変なこと言った?」


「変なことってか……よくシラフでそんなこと言えるよねぇって」

「それなー」

「今夜は酒が進みそうですなぁ!」


 ふざけながら盛り上がっている友人達。私はそんな友人達を茶化すようにアドバイスをしてあげた。


「皆も早く彼氏作りなよ。幸せだよ?」


「「「そんな出会いあるかぁ!!!」」」


「ふふっ……ごめんってば」


 私が怒ってしまった友人達に向けて満面の笑みを浮かべると、駅に着くまでの間ずっっと私と彼との馴れ初めを弄られることになるのだった。

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