第82話 楽しい楽しい文化祭 その2

 ―かわいくてカッコいい 七海side―


 生徒会室で乃愛ちゃんと過ごした後、私と零央くんはふたりで1年生のとあるクラスへと脚を運んでいた。


「いらっしゃいませ!2名様ですね!あちらのお席にどーぞー!」


 メイド服の生徒に案内された席へとふたりで座る。私がずっとにやけて教室中を眺めていると、零央くんがなんだか気恥ずかしそうに尋ねてきた。


「…なんでこんな衣装のレベル高いんだよ」


「なんででしょう!」


「………マジ?」


「これがマジなんだよねぇ!」


 信じられないといった表情の零央くんに対して私は自信たっぷりに胸を張った。


「何を隠そうこのクラスの衣装も私が監修しております!燈ちゃん達に頼まれてね!……まぁほんの少しだけど」


「マジかよ……やっぱお前スゴいな」


「でっしょう!」


 零央くんに尊敬の眼差しを向けられ、ついついテンションが上がってしまう。お祭りという雰囲気も相まって私も普段より舞い上がってるんだろう。そうして私たちが談笑していると、ぎこちない歩きで桜ちゃんが私たちの元へとやってきた。


「ご、ごご注文はお決まり、ですか……?」


 メイド姿の桜ちゃんはとっっっても可愛くて、今すぐにでも写真に納めたかった。でもいつもよりも顔が真っ赤で、体も声も小刻みに震えている。頑張ってるのを茶化すのも悪いし、手早く注文してあげよう。


「私は……コーヒーで。零央くんは?」


「俺もそれで。あ、砂糖ください」


「かしっ…かしこまりました………」


 注文は済ませたはずなのだが、桜ちゃんはその場から動かなかった。それにチラチラと零央くんを見ており、なんだかモジモジとしていた。


 桜ちゃんのその様子を零央くんもすぐに気づいて、優しい顔で桜ちゃんに声をかけた。


「すっごい似合ってる。かわいい」


「っ…………ふ、ふーん?」


「うんうん。とってもかわいいよ桜ちゃん」


「んふっ……ふへへ…………」


 私達に褒められた桜ちゃんはニヤニヤと緩んでいた頬を伝票で隠すと、満足そうに裏へと戻っていった。


「かぁわいい………でへへ……」


「ヨダレ出てんぞ」


「おっといけない………」


 仮にも彼氏の前だと言うのにみっともない顔をさらけ出してしまった。まぁ零央くんにはもっと恥ずかしい姿を見せてるわけだけど。


「お待たせしました」


 その後も零央くんとハンガン3期について話していると、執事服を着た燈ちゃんがコーヒーを運んできてくれた。いつもよりも落ち着いていて、キリッとしている。やっぱりこう見ると凄くカッコいい。


「ありがとうございます~……」


 私の前にコーヒーを置くと、燈ちゃんは急に私に顔を近づけてきて、わざとらしい甘ったるい声で語りかけてきた。


「お客様とてもかわいいですね………どうですかこの後。一緒に回りませんか?」


「ほ…ぇ…………」


 うっっわ顔良っ!!!!強っっ!!!!!前にもこんなことあったけど!!零央くんに負けず劣らずのイケメンだ!!!


「何してんだお前らは……」


 私達のイチャイチャを見ていた零央くんが溜め息混じりにそう呟くと、燈ちゃんはすぐにいつものテンションになって私から離れた。


「ちょっとやってみたかったんです!七海センパイはカッコいいボクの事好きみたいなんで!というわけでどうですか零央センパイ!似合ってますか??」


「すっごい似合ってるけど……そっちで良かったのか?」


「はい!これもボクらしさだと思うことにしました!」


「…………そうか」


 自信たっぷりに答える燈ちゃんを見て零央くんはどこか嬉しそうに微笑んでいた。それを見てたら私もなんだか嬉しくなって、燈ちゃんに声をかけた。


「今度のコスプレイベントなんだけどさ…」


「おいこら止まれオタク」


「ボクはいいですよ!カッコいいのでもかわいいのでも着こなしてみせます!」


「ちょっと燈!いつまで話してるの!ズル……じゃなくて早く手伝ってよ!!」


 私達が3人で盛り上がっていると、どこからともなく桜ちゃんが飛んできて名残惜しそうな燈ちゃんを連行していったのだった。




 ―大切な順番 栞side―



「おや?」


 初日が終わろうとしていた文化祭の最中。宛もなく彷徨いていると、とある部室の前で立ち止まって悩んでいた乃愛を発見した。


「どうしたんだ?」


「んー………あ、栞先輩…いやですね。これ見てください」


「…………なるほどな」


 乃愛が指し示した先を見ると、そこには「占いの館」と書かれた看板が立て掛けてあった。


「友達から紹介されたんですけど……結構信憑性があるみたいらしいんです」


「まぁ占いなんてそんなものだろう」


「………でも聞きたくないですか?」


「何をだ?」


「子供の事とか」


「…………………いや?」


 あまりに突然な乃愛の言葉に一瞬思考が固まったものの、すぐに首を横に振った。乃愛と話していると凄まじいパワーワードが口から飛び出てくることが多い。


 それに子供なんて……………私は別に……



「私は気になるんですよね。男の子なのかとか女の子なのかとか………最初は誰になるのかとか……」


「……………順番なんて些細な問題だろう」


「男子にとっては意外とそうじゃないらしいですよ。だから今度こそ一番最初になりたいなって思うわけです」


「ふーーーーん……………」



 バカらしい事を大真面目に悩んでいる乃愛を見ながら、私も少し考えてみることにした。


 まぁ私としてはそんな順番なんて拘らないが……学生妊娠になるような事は零央はしないだろうし、となれば必然的に最初に孕まされるのは社会に出るのが一番早い年上の私ということに………


「……栞先輩って意外とムッツリですよね」


「なっ……!?」


「だって顔、火照ってますよ」


 将来について考え込んでいると、乃愛から顔の赤さを指摘されてしまった。自分でも漸くその事に気づいた私はなんとか取り繕おうと必死に弁明した。


「ほ、火照ってないが!?私が零央との情事を想像して顔を赤らめるなどあり得るわけがないだろう!?ただちょっと将来の事について考えていただけなのだが!?」


「……やっと栞先輩の弱点が分かりました」


「う、うううるさい!考えてないったら考えてない!!」


 乃愛にからかわれ、更に恥ずかしくなった逃げるようにその場を後にした…のだが何故か乃愛が後ろから着いてきて、しつこく絡まれ続けた。


「もっと交流を深めましょうよ。これから末長い関係になるんですから」


「け、結構だ!」


「そんなこと言わずに~デートしましょ~」


「ぐぬぬ…………」


 折角ここまで乃愛には先輩らしい威厳を示してきたというのに……このままでは全員からそういう目で見られて………


「栞先輩」


「……なんだ」


「きっと先輩は私達のお手本になるような良いお母さんになりますよ」


「……………っ……ありがとう」


「いえ」


 満面の笑みで目茶苦茶に恥ずかしい事を口にされ、私は歩く速度を落とした。すると私の後ろをついてきていた乃愛はすぐに隣に並んできて私の手を取ると、乃愛のオススメの出店に案内してくれることになったのだった。

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