第81話 楽しい楽しい文化祭 その1

 ―文化祭開始 零央side―


 文化祭。

 この高校の文化祭は10月25日と26日の2日間に分けて行われ、学校外からも多くの方が訪れる。


 そんな文化祭では生徒会は基本的に自由行動を取って良いことになっている。もちろん軽い見回りをしつつという形ではあるが。

 というわけで文化祭の初日でもある10月25日金曜日。俺は自分のクラスの準備をせっせと手伝っていた。


 七海お手製のボロボロの白衣を身に付け、懐かしい銀色のウィッグをつける。人でも殺したことあるんじゃないかって目付きにし、なるべく恐怖心を煽る表情を作って七海に見せに行くことにした。


「どうだ?」


「ヒッ……びっくりしたぁ…そういえば前はそのくらい怖い顔してたね…………」


「………適材適所ってやつだな」


 その表情を見せると七海は一瞬ビクッと体を震わせ、俺であることを確認して安堵していた。七海ですらこれなら俺を知らない人なら無双出来るだろう。


 そして七海も七海で懐かしい風貌になっている。服装自体はナース服のような仕上がりなのだが、目の辺りまで隠れる重苦しいウィッグをつけており、最近の美人オーラは完全に消え去っている。それでも胸元の破壊力は隠しきれてないが。


「…流石は七海。似合ってるよ」


「ぅへへ……そういう零央くんも…」



「はいはいイチャイチャしてないで働いてくださーい」


 俺と七海が話していると、血まみれの患者衣を来た姫崎が手を動かすようにと注意をしにきた。


「イブくんは力持ちなんだから仕事は沢山あるよ。ななっちはみんなの着替え手伝ってあげて。さっき呼んでたよ」


「え、ホントに?ごめんすぐ行く!」


 言伝を聞いた七海は急いで女子が着替えている教室へと向かった。俺も姫崎の言う通りに出来る仕事を手伝おうとすると、急に脇腹をつつかれた。


「なんだよ」


「そっちは決めたの?」


「……元々決めてたみたいなもんだよ」


「………モテ男は違いますなぁ」


 姫崎は若干嫌味を含んだ言い方をしつつ、何かを誤魔化すように近くにあった小道具の箱を抱えようとした。少し重そうな箱ということもあり手伝おうとすると、俺よりも先に姫崎に手が差し伸べられた。


「僕が持つよ」


「ぇ…………あ、うん……」


 颯爽と現れた好本は軽々と箱を持ち運ぶと、テキパキと仕事をこなし始めた。

 そんな好本の様子を見ながらポケーっとしてる姫崎にお返しと言わんばかりに尋ねた。


「そっちは決めたのか?」


「……………最初から決まってるし。後はあっちからだし」


「じゃあ問題はないな。変に拗れんなよ」


「…………うっさ」


 明らかに照れている姫崎は俺の脛を軽く蹴り、好本の仕事を手伝いに向かった。流石にその間に挟まるほど空気が読めない訳ではないので、他の困っているクラスメイトの仕事を手伝うことにしたのだった。





 ―怖いものは怖い 桜side―



 文化祭初日の開始早々。私は栞さんを連れて零央先輩達のクラスの前へとやってきていた。


「だいじょうぶ…………ダイジョウブ……」


「そんなに怖いならやめておいた方がいいと思うぞ?」


「こ、ここここここわくないです!!」


「………そうか」


 零央先輩達のクラスの出し物はお化け屋敷。乃愛さんからシフトを教わり、遊びに来てあげたというわけだ。もちろん私のクラスも喫茶店だから燈との壮絶なシフト争いがあったけど…昔からじゃんけんは強いんです私。じゃんけんは。

 といっても1人で来るのも怖い。友達を誘ったら零央先輩の事で茶化されるのは確定してる。乃愛さんはお仕事で時間帯的に忙しい。というわけで栞さんになんとかお願いしてついてきてもらった。今は栞さんの手をめいっぱい握りながら順番を待っているところだ。


「はーいそれでは次の方~」


「はい。よし行こうか桜ちゃん」


「は、離さないでくださいよ!?ずっと握っててくださいよ!?」


「分かってる。安心してくれ」


 受付の人に呼ばれ、私たちはふたりで中に入った。中は狭い道を歩くみたいな構造になっていて、壁はダンボールとかで仕切られている。多分迷路ってことなんだろうけど……なんか変な機械の音が聞こえてくるし………うめき声も……………


「しおりさん。はやく。はやくいきましょ」


「待ってくれ。一応謎解きはしないと」


 栞さんは受付の人から貰ってた紙とダンボールの壁にかかれてる暗号みたいなものを照らし合わせながら律儀に謎解きをしていた。


「ふむ……こっちだな」


「はやくっ!はやくっ!」


 栞さんを急かしながら次々に進んでいく。間違った道を選んだらどうなるかなんて考えたくない。この際零央先輩に会えなくてもいい!後で写真でも見せて貰えばいい!怖すぎ―――



「ワッッ!!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」



 突然背後から大声で驚かされた。その瞬間に正常な判断なんて出来なくなって、私は全力の叫びをあげながらその場から逃げるように出口へと向かって走り出した。



「七海。私は間違ってないはずだが?」


「…………乃愛ちゃんに脅かすように言われてたんです。信じてください」


「はぁ………後で何か奢ってあげるんだぞ」


「はい…」





 脅かされた私は死に物狂いで急ぎ、謎解きなんて無視して進み続けた。幸い二択に成功し続けて今のところは安全。このまま最後まで突っ切ろうと次のチェックポイントを抜けると……


「…………あれ」


 行き止まりだった。てことは間違えたのかな。でも脅かされない。分かんないけどとりあえず一旦戻って



「いらっしゃい」


「ヒョッ…………」


 私が戻ろうと振り返ると目の前に人が立っていた。この図体でどこに隠れていたのだろう。顔はハッキリと見えないけどとても怖い。目は赤いし、手には注射器持ってるし。


「これはこれは。君は良い実験体になりそうだ。出来れば抵抗しないでくれると助かるのだが―――」


「ごめんなさぁぁぁぁぁい!!!!」


 私はあまりの怖さに全力の謝罪をしながらその人の間をすり抜けるように逃げ、またしてもがむしゃらに迷路を走り抜けた。

 気づいた頃には廊下に出ており、ぜーはーと息を切らしながら半泣きになっていた。


「………楽しめたかい?」


「二度と来ません!!!!!」


 遅れて出てきた栞さんからイジワルを言われて、私は思わず大声で返してしまった。


 ちなみに後から聞いた話だけど、私の絶叫のおかげでお化け屋敷はすごく繁盛したらしい。


 ちっとも嬉しくない。





 ―みんなの生徒会長 乃愛side―



「お姉さんありがとう!!」


「どういたしまして。もうはぐれちゃダメだよ」


「うん!!!」


 お昼前。迷子の子供の世話を生徒会室でしていた。すぐに保護者の方が迎えに来てくれて、とても感謝してくれた。


 それにしても生徒会長というのは疲れる立場だ。今回の文化祭の準備で身をもって実感することになった。栞先輩からも何度手助けされたことか。



 グゥ~…………



「…………お腹空いたな」


 開始からまだ何も食べれてない。何かを食べようとする度に目の前で問題が起こる。いい加減何か口にいれないと体力が持ちそうにない。そう思っていると生徒会室の扉が勝手に開いた。


「お、いた」


「乃愛ちゃんお疲れ様~」


 手に色々な料理を持った零央くんと七海ちゃんがやってきて、私の机の上に持っていた料理を並べ始めた。焼きそばにクレープにたこ焼きに………どれもこれも良い匂いがしてくる。


「ありがとう……どうしたのこれ?」


「俺達がクラスのシフト上がってさ、乃愛を探してたらそれぞれのクラスの奴から声かけられたんだよ」


「『私達の生徒会長に渡して~!』ってね」


「………………そっかぁ」


 みんな優しい。思わず泣きそうになっちゃった。嬉しいなんてもんじゃない。


「………それじゃあ私はこれで~」


 私が嬉しさで感極まっていると、七海ちゃんがそそくさと生徒会室から出ていこうとした。理由は大体分かる。でも……


「ねえ七海ちゃん。一緒に食べない?」


「え、いいの?」


「うん。だって友達じゃん?」


「っ………うん!」


 七海ちゃんは嬉しそうに零央くんの席に座った。すると今度は零央くんが気まずそうに生徒会室から逃げようとし始めた。


「それじゃあ俺はこの辺で………」


「いやいやなんで。零央くんも居てよ。なんなら私に食べさせてよ。疲れてるんだよ」


「いいんだよ配慮せずに私達の間に挟まっても。ふたりとも零央くんの彼女なんだから」


「「ねー」」


「…………じゃあお言葉に甘えて」



 そうして私達は3人で早めの昼食を取ることにした。お化け屋敷で桜が絶叫しまくった話とか、好本君と姫崎さんがなんだか良い感じな話とか、零央くん目当てで最後の謎解きをわざと間違える人が多発したとか………他愛もない話でひたすらに盛り上がったのだった。

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