第65話 それぞれとの三連休

 9月14日土曜日。三連休の初日も関わらず俺は家に居た。だが1人でというわけではなく、前日から七海が泊まりに来ていた。


「おい……起きろ七海…………」


「うぅん………もうちょっと……」


 起きる気配のない七海を放置し、とりあえず服を着る。目のやり場に困るので七海にブランケットをかけ、朝御飯の準備に取りかかった。


「…………ぉはよ……」


「おはよう………おい俺のシャツを着るな伸びるだろ」


「いいじゃんちょっとくらい……」


「ったく…………」


 適当に朝飯前を作っていると七海が俺のシャツを着て起きてきた。俺は料理の手を止めると、顔を洗ったり歯磨きをしたりしている無防備な七海の背中に抱きついた。


「…………朝から襲われるぞ」


「…ぁん…………えっち…」


「そっちこそ。履いてないくせによく言うよ」


「ふふ………好きにしていいよ?」






「よぉしパック剥いてくよぉ!」


「おぉー」


 朝っぱらから盛った俺達は何事もなかったかのように朝御飯を食べ、近くのゲーム店にふたりで直行。予約していた今日発売のカードゲームの新段のパックを箱で買い、昼頃に家に戻ってきてから開封することにした。


「………………お、ホイルだ」


「え、ホント!?うわいいなぁいいなぁ!」


「やらねぇぞ。俺の箱から出たんだからな」


「………………これあげる」


「いらねぇ」


「けち……」


 和気あいあいとパック開封をし、早速対戦してみる。カードを組み替えては対戦し、新しいコンボを思いつけば対戦し、時間を忘れてひたすらにカードゲームにのめり込んだ。


 気づけば数時間経っており、晩飯は七海の手作り料理を食べることになった。


「栞ちゃんには敵わないけど……どう?」


「……うん。めっちゃうまい」


「えへへへ……ありがと…」


 そうして風呂に入り、七海を膝の上に乗せてサブスクで映画を見ていると、家のチャイムが鳴った。


「はいはーい」


 上に乗っていた七海が玄関に向かい、チャイムを鳴らした人物を迎え入れた。


「……おかえり栞ちゃん!」


「…………ただいま。なんだ急に」


「えーと…言いたくなっちゃった」


「まぁ分からんでもないが……」


 七海と話しながらリビングにやってくる栞。俺も今の会話を聞いて少し言ってみたくなったので栞に声をかけることにした。


「おかえり、栞」


「っ…………あぁ…ただいま、零央」


 栞は明らかに七海に言われた時よりも照れていた。かくいう俺も恥ずかしくて栞からすぐに目をそらしてしまった。そんな俺達の様子を見ていた七海は俺の背中に抱きつくと、珍しく嫉妬してきた。


「私にも言って」


「……おかえり七海」


「…………うん。ただいま零央くん」


 俺と七海がそのままキスをしようとすると、栞が俺達の間に割り込んできた。


「はい時間切れ。ここからは私の零央だ」


「けち……いいじゃん最後くらい……」


「ダメだ。散々やってるだろどうせ……それに約束だろ?」


「はーい……」


 栞に割り込まれた七海は少し不機嫌そうに俺から離れた。その代わりに栞が俺の正面にやってきて、座っている俺と向かい合わせになるような形で脚の上に座り、抱きついてきた。


「零央も……私がシてやるから我慢しろ」


「……映画見てたんだけど」


「なんだ妬けるじゃないか。私より大事か?」


「………一回だけな」


「………………うん……」



 一回だけと言ったはずが栞とのキスは終わることはなく、いつの間にか互いの服を脱がしあっていた。


「…………私は寝るからね。あんまり声出さないでよ栞ちゃん」


「あぁ…………っ……気を…………つけるよ……っぁ……んっ……」


 七海は一足先にベッドに潜り込んでふて寝し始めた。俺達はそんな七海の隣でひたすらに体を密着させたままイチャイチャするのだった。






 翌朝…………


「こら零央、七海。いい加減起きろ」


「もう少し…許してくれ…………」


「うぅぅ…………」


 寝ていた俺達は栞に起こされることになった。折角バイトも休みをもらっている連休だというのに朝が早すぎる。こうなったら……


「…………栞。こっちこい」


「その手には乗らないぞ」


「そっか…………じゃあ七海…」


「はぁぁい…………ちゅ……………」


「なっ……こら!」


 朝っぱらから七海とベッドでイチャイチャを始める。それを止めようと近づいてくる栞の手を取り、強引に抱き寄せることに成功した。



「っ………ちょ……………やめ……」


「いいだろ今日くらい…………な?」


「……………まったく…今日だけだそ」


「ありがと…………」


 こうして早起きを阻止することに成功し、3人でイチャイチャし、ぐーたらとベッドの上で昼前まで過ごしたのだった。



「んじゃ気をつけて」


「…………あんまりシすぎないでよ?」


「…………善処はする」


 起きた後で七海を駅まで見送り、栞が待つ家に帰る。なんというか……至れり尽くせりで幸せすぎるな。



「ただいまー」


「………っ…おかえり…なさい……」


 家に帰ると、栞が恥ずかしそうにエプロンをつけて待っていた。いや、エプロンだけを身につけて待っていたという方が正しい。


「…………どうしたんだ?」


「いや………………たまには……な?」


 度々見ていた栞のエプロン姿。そのせいかめっちゃエロく見える。裸エプロン万歳。


「意外と……そういうとこあるよな」


「っ………悪いか……私だって…………恥ずかしいんだ……でも…真理がこれだって言うから………」


「…………なるほどね」


 マリとは恐らくは栞の友人だろう。そして絶対に遊ばれてる。良い性格してる友人だ。


「………………いいからするぞ。早くしろ」


「あいよ」



 一度スイッチが入った栞は止められない。こういうところは頑固というかなんというか……まぁすぐ動けなくなるんだけど。




 こうして昼御飯も食べずにひたすらイチャイチャし、夕方も軽く食事を取るだけで、ずっっっと欲をぶつけ合っていた。


「…………っ……なぁ零央…」


「どした?」


「………たまに……来るから…ぁ………その時は相手してくれよ……っ………んっ…」


「分かってる……頑張ってな」


 栞は受験を控えており、そこそこ難しい大学に挑戦するらしい。なのでしばらくは勉強で忙しくなるそうだ。だからこそ今日はひたすらイチャイチャしてるわけだ。

 俺は少し不安そうな栞の頭を撫で、強めに抱き締めた。


「…………これいいな……っ…燈ちゃんが好きな理由がっ……分かるよ…」



 不安そうな表情が消え、すっかり安心しきっている栞。その後もいつもよりなるべく優しく抱いていると、また家のチャイムが鳴った。


「…………っ……終わりか……」


「またいつでも出来るよ」


「……それもそうだな」


 俺は栞との行為を終え、手早く着替えて玄関に向かった。



「……おかえり。燈」


「ほぇ…………た、ただいま…です」


 燈は俺からの「おかえり」がクリーンヒットしたようで、顔を真っ赤にしてしまった。


「てか匂い凄いんですけど………いつからやってます?」


「あー……昼過ぎ?」


「………………ボクの分残ってますか?」


「……頑張りはする」


 燈にグチグチ言われながらリビングに通す。栞がタオルで体を拭きながら燈に頭を下げた。


「悪いな燈ちゃん……私も我慢しようとは思ってたんだが……」


「いいですよ。その分相手してもらうんで。水飲みますか?」


「あぁ…ありがとう」


 その後、栞は先に風呂に入り、その次に俺と燈がふたりで風呂に入った。



「…………栞さん。変わりましたよね」


「そうだな…」


 ふたりでは流石に狭い湯船に浸かりながら語り合う。燈の表情はどこか暗く、何か考え事をしているようだった。


「七海センパイも………どんどん積極的になってきて……」


 どんどん暗くなっていく燈を見て、俺はずっと前から言おうと思ってた事を伝えることにした。


「…………正直さ、皆と関わるつもりなんてなかったんだ。ましてや付き合うなんて思ってもみなかった」


「ぇ…………」


 不安そうな燈を俺は後ろから抱き締めながら優しく語りかけ、更に続けた。


「そしたらどっかのエロガキが朝っぱらから下着見せてきて……その後もずっっっと送り続けてきて…全然懲りてねぇなって思ってた」


「…………ごめんなさい」


「昼休みも絡んできて、一緒に飯食って、屋上でバカみたいに騒いでさ……でもそれがすごい楽しかったんだ。だから皆と関わるのも悪くないかもって………思ったんだ」


「……………っ……」


「燈のおかげだ。今こうして俺が幸せに暮らせてるのは……紛れもない燈のおかげなんだ。だからさ、俺のことを好きになってくれてありがとう。俺も大好きだ」


「………………そう思うなら……浮気しないでくださいよ…」


 燈は俺の腕を振りほどくと、俺と正面から向き合う姿勢になった。


「……………ナマでしませんか?」


「……ダメだ」


「ボク安全日です。もう薬も飲んでます。終わった後にも飲みます」


 用意周到というかなんというか……だけど燈はアスリートでもある。もしもの事があってはこれからの将来に支障をきたす。


「ねえセンパイ………ダメですか?」


「…………安全ってのは確実って意味じゃない。それに薬だって100%じゃないんだ」


「……そういうとこだけ真面目なのズルいですよ」


「…………悪い」


「分かってます。ボクの事を考えてくれてるのは…………少し寂しいけど、我慢します」


「……だからさ」


 落ち込んでしまった燈を再び抱き締め、とある約束をした。


「最初は燈だ。約束する」


「さい……しょ…………え、ホントに!?」


「あぁ。ホントに」


「っ!!!約束ですからね!!破ったらもぎますからね!!」


「…………もぐのはやめてくれ」


 俺達はそんな下らない話をしながら風呂を出た後、燈が折角だから3人でシようと提案した。いくら井伏零央の体といえども昨日から今日にかけて何回もシてるのに加え、さっきの約束でリミッターが外れている燈を相手にするのは不可能で、ついに初めての完全敗北を喫することになるのだった。






 そして翌朝…………



「じゃあなふたりとも。また学校で」


「はーい!」


「気をつけてなー」


 燈と共に栞を見送り、ふたりで家へと帰る。途中のハンバーガー屋で朝御飯を買い、コンビニでも適当なお菓子を買った。


 そうして俺が住んでるアパートに着き、鍵を開けていると、燈が「そういえば」と隣の家の玄関を見ながら呟いた。



「お隣さん。ついに誰か入るんですね」


「らしいな。まぁワンルームな割には防音とかもしっかりしてて良い物件ではあるから今まで居なかったのが不思議なくらいだ」


 俺の隣の部屋はずっと空室だったのだが、どうやら最近住み手が見つかったようだ。ご近所トラブルになるような相手じゃなきゃいいけど。


「なんか嫌な予感というか、ソワソワするっていうか………」


「どういうセンサーしてんだお前」


「……正妻の勘ってやつですね」


「んだそれ……とっとと飯食うぞ」


「はーい」



 燈の意味不明な発言を軽く流しつつ、俺達はふたりで三連休最終日をのんびりと過ごしたのだった。

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