第52話 『おにいちゃんといっしょ』
夏休みのある日。私とお兄ちゃんはお父さんから話があると言われた。
普段は優しいお父さんなのにその日はとっても真剣な顔をしてた。それだけ大事な話なんだと私は理解した。
それからお父さんは私達家族の全てを話してくれた。死んじゃったお兄ちゃんの本当のお母さんのこと。私とお母さんを置いてどこかへ消えた最低な男のこと。
私達が本当の兄妹じゃないってこと。
「安達かぁ……」
話が終わり、私は部屋のベッドで寝転がりながら話を整理していた。お母さんの旧姓は安達って言うらしい。ちょっとカッコいい。
それにしても……
「そっか……血繋がってないんだ………」
まさか実の兄妹じゃなかったなんて信じられない。そんなの漫画とかゲームだけの話だと思ってた。
「…………まぁ今更だよねぇ」
夏休み前の私なら喜び跳ね回っていたかもしれない。でも今のお兄ちゃんには乃愛さんがいる。それに私もそろそろ兄離れしないと燈にまたバカにされちゃう。
『えーボクは彼氏いるのに桜はまだなのー?お兄ちゃんお兄ちゃん言ってるからじゃない?』
「…………むっかつくぅ…」
この前遊んだ時に燈から報告と一緒に煽られた。結局アイツと付き合うことになったってすごく嬉しそうに報告してきたもんだから文句なんて言えなかった。あんなに嬉しそうな燈の顔は初めて見たから。
でも別にいいもんね!!あんな男のどこがいいんだか!!ちょっとカッコよくて体もゴツゴツしてるくせに会長さん達には頭が上がらなくて!ダサいだけじゃん!
『いっっ………大丈夫か?』
ダサいから……自分が怪我して………擦りむいてて……血が出ててすごく痛そうだったのに……痩せ我慢なんてして………
『優しくしてれば調子に乗りやがって…お前みたいなガキには直接優劣を教えてやらねぇといけねぇみたいだな』
ずっとナヨナヨしてたのに……急に怖いし…力強くて…………本気で襲われたら勝てないって……分からされちゃって…………
「ぁっ…………ぅぅ…………んっ……」
まただ。アイツのこと考える度に手が動いちゃう。あの日の言葉が冗談じゃなかったらって思っちゃう。
そうしたら……今頃はアイツの女にさせられてたんじゃないかって………
毎日……毎日………私が歯向かう度に……ねじ伏せてくるんじゃないかって…
「ぁ……だめ…………それ深いぃ……」
きっと上から体重かけられて、ぐりぐりって奥に押し付けられて、アイツからは逃げられないぞって、体に刻み込まれるんだ。
『ほら。いい加減諦めて俺の女になれよ』
「っやだぁ……やだやだ………お前の彼女になんかぁ……なるもんかっ……嫌いだもん…だいきらぃ……どんだけ頼まれても…付き合ってあげないっ……お前なんかぁ…っ!!」
「………私って…変態なのかな…………」
ぐっしょりと濡らしてしまった下着をお風呂で洗いながら反省する。こんなことしてるってお母さんにバレたら何て言われることか。皆に隠れてこんなことしてる時間が一番悲しくなってくる。その度にもうやめようとは思うんだけどアイツが勝手に出てくるからやめられない。
「…………ほんっと最低……」
夏休みが明けたらまずは燈の事で文句言ってやる。燈を泣かせたら許さないぞって。
そしたら…………
「っ…………あぁもぅ……何考えてんの私………」
最低な妄想をしてしまった私は1人お風呂でうなだれるのだった。
9月2日月曜日。夏休み明けの初日。燈と一緒に久しぶりの学校に登校し、ふたりでお手洗いに行こうとしたんだけど、燈が急に下駄箱の方へと走り出した。なんとかその後をついていくと、そこには見知った男とすごく可愛い女子がいた。
「おっはようございます!零央センパイ!七海センパイ!」
「おはよ……ほんっと朝から元気だな」
「おはよう燈ちゃん……と桜ちゃんも」
「あ、……おはようございます」
そのかわいい女子の事を燈が七海先輩と呼び、私のことを桜ちゃんって呼んだ。ということはこの人……ホントに七海先輩!?
「ね、ねぇ……ホントに七海先輩なの……?前と全然違くない……?」
あまりの衝撃に燈に小さい声で尋ねた。だが燈は私の疑問には答えずにその女子へと声をかけた。
「七海センパイ。桜が超かわいいって言ってますよ!」
「え、ちょっ燈!!?」
「ホントに?ありがと……えへへ」
マスク越しですら伝わってくる七海先輩の笑顔の破壊力。それは私なんかじゃ受け止めきれず、恥ずかしさを誤魔化すために燈をポカポカ叩いた。
それにしても七海先輩は妙に井伏先輩と距離が近い。そしてふたりで登校してきたってことは……
「……っ…というかおまっ…………お前!」
燈というものがありながら……!やっぱりおっぱいなんだ……!!おっぱいがおっきくてかわいい女が好きなんだ!!変態!!
会長さんは……いない!よし!!
「私は認めてないから!お前みたいなのが!燈の…………認めてないから!」
「……桜に伝えたんだな」
「まぁ……流石に?」
なんで…………私が話しかけてるじゃん!こんなツルペタには興味ないってこと!?変態のくせに選り好みして!!
「ねぇちょっと!今私が話してるじゃん!勝手に燈と話さないでよ!」
「あーはいはいごめんごめん」
「適当にあしらうなぁ!」
子供扱いするな!私だってあと1年もあればおっきくなるもん!ホントだもん!
「ほら!なんとか言ったらっ…!!?」
私が怒りに任せて井伏先輩を問い詰めていると、さっきまで柔らかかった井伏先輩の顔はとっても恐くなった。そしてあの時みたいに私の手首を掴んでくれた。強いけど、どこか優しくて、でも厳しい口調で怒ってくれた。
「うるせえ。周りの迷惑を考えろ」
「………っ…はぃ……ごめんなさい…」
あぁ……普段は気の抜けた顔してるくせに………私にはそんな恐い顔見せてくれるんだ…………本気出されたら……私みたいな子供じゃ…抵抗できないんだ………
でも…………それもただの妄想……きっと先輩は無理矢理手を出さない……
あぁでも………それがいい……なんか……変な気持ちになる……先輩は絶対そんな酷いことしないのに……もしかしたらって…絶対に良くないこと考えてる感じが…………親友の彼氏なのにって……
「桜、えっと……ほどほどにね?本当に怒らせたらかまってすらもらえなくなるからね?」
「っ!!?そんなんじゃないけど!!?!」
ボーっとしてたら燈に注意されてしまった。いつの間にか井伏先輩達も居らず、燈からは同情の視線を向けられていた。
「大丈夫……ボクには気持ちが分かるよ……でももうちょっと……ね?」
「だから!!違うって!!!」
やめて!同情が一番辛いんだから!!
「……かわいい怒り方探してこ?」
「ホントに…………ちがうってば……」
私は別に怒られたいわけじゃないもん……そんな変態じゃないもん………だから優しく肩叩かないでよ……
「桜!!!」
「ちょっ……ノックくらいしてよお兄ちゃん!!」
それから3日後の夕方。急にお兄ちゃんが私の部屋に乗り込んできた。お兄ちゃんの顔はとても怖くて、私のお願いなんて聞いてくれなかった。
それからあのプールの日の嘘を問い詰められた。だってお兄ちゃんは怒ると思ったから。井伏先輩の話になるとお兄ちゃん凄く怖くなるから。楽しい思い出として終わりたかった。
「なんだよ!!!お前も俺の言うこと聞いてくれないのかよ!!!」
「っ……待って!!止まって!!一回落ち着いて!!お願いだから!!」
お兄ちゃんは私が嘘をついてたことに怒って詰め寄ってきた。今はマズイ。1人でシてたことがバレちゃう。なんとか止めないと……
「……うるっせぇ!!」
「ひゃんっ………………っ……」
お兄ちゃんから右手首を掴まれて、思わず声が出てしまった。さっきまで自分でギュッてしてたせいで反射的にえっちな声になった。
お兄ちゃんの握る力はとっても強くて痛かった。そこに優しさなんてないんだって嫌でも伝わってきちゃった。そのまま布団を剥がされ、無理矢理押し倒されて、私は恐くて涙が溢れてきた。
「やだ……おにいちゃん………やだよぉ……おねがいだから…………」
怒られたくない。痛いことされたくない。
そんな気持ちをこめてなんとか抵抗していると、お兄ちゃんが突然告白してきた。
「なぁ桜。実はお前の事好きだったんだよ……でも兄妹だからって我慢してたんだ」
「ぇ…………」
なんで…………乃愛さんと付き合ってるんじゃ……なのに……どういうこと……?
「ぇ……ほんと……なの?おにぃちゃん……わたしのこと………」
「……あぁ。大好きだよ」
分かんない。お兄ちゃんの気持ちがこれっぽっちも分かんない。なんで今なの。なんで押し倒しながら私に告白してきたの。ホントならもっと雰囲気とかあるじゃん。
「………………っ……でも……だったら……いっかい……ちゃんと話してから……ひゃぅ……!」
「話なんて後でいいだろ?とりあえず俺に任せとけ。俺Sだからさ、桜のこと満足させられるよ」
意味分かんない。満足って何。急にこんなことされて嬉しい子なんて居るわけないじゃん。
「やだ……やだやだぁ…………」
必死に首を振る。でもお兄ちゃんは止まってくれなくて、いきなりズボンを脱ぎ始めた。
「安心しろ。俺が沢山いじめてやるからよ」
お兄ちゃんは無理矢理私の足を広げ、私の言葉なんて聞こうとしなかった。
「やだ!!やめてよ!!!お願いだから!!」
「……桜。大好きだ。安心しろ。絶対気持ちいいから」
「っ………………!!」
やだ。そんなの近づけないでよ。なにするの。なんでこんなことできるの。私達兄妹なんだよ。
「………初めては怖いよな。乃愛も痛そうだったし。でも俺も大分慣れたからさ」
お兄ちゃんはそう言いながら急に顔を近づけてきた。
やだ。やだやだやだやだ。絶対やだ。こんなのやだ。近づかないでよ。気持ち悪いよ。
「……俺のこと好きか?」
こわい。こわい。やだ。怒られたくない。痛いのやだ。キスされたくない。近づいてほしくない。お願いだから………………!
「…………わかった。わかったから。お兄ちゃんの彼女になるから。好き。私も大好きだから。だから。だから、だからっ…お願いします……今日はやめて……ください…………」
「ここまできて我慢できるかよ。桜もそうだろ?」
なんで……やだ…………やだ…!!!
ピンポーン
―――――――
「……あれ。誰も居ないのかな」
9月5日木曜日の放課後。楓の家のチャイムを鳴らしても応答がなかった。久しぶりに桜と遊びたかったんだけど……珍しいこともあるもんだ。桜はまだしも楓も居ないとは。
「もしかして………浮気とかしてるんじゃないだろうな……」
最近の楓の言動は怪しい。なんか今日も1年生の後を追ってたって聞いたし。それじゃなくても変な噂もたってきてる。本人は嫌がるけど抜き打ち通話してやろう。
「……………………」
楓のスマホに通話をかける。普段は数コールで出ないなら諦めているが、今日からの私は違う。井伏くん達の教え通り根気強くだ。
すると……
『……なんだ急に』
「あ、出た。今どこ居るの?」
楓は通話に出てくれたが明らかに不機嫌だった。まさか本当に浮気か?
『……外だよ。友達と遊んで―――』
「『助けて乃愛さん!!!』」
「え…………」
『お前っ……!!』
突然通話が切られた。今の声は桜なはず。しかもスマホからだけではなく家の中からも聞こえてきた気がする。
「助けて」って……どういうこと。
なんであんなに焦ってたの。
いや……いやいやいや。まさか。流石に…妹だよ?いくら楓がバカだからって……
いやでも助けてって……しかも楓もそれで通話切ったし…………
桜………嘘だよね……ドッキリだよね……
いいや!考えてる暇はない!もしそうだとしたら!私が桜を守んなきゃいけない!桜も私の幼なじみだし、もし楓が……あのバカが本当にそんなことしてるんだったら………殴ってでも止めてあげるのが彼女としての責任の取り方だ!
「えっと……確か鍵は…………」
昔、楓に教えてもらった予備の家の鍵を探す。確かここにある植木鉢の底が外れて……
「あった!ありがとう昔の楓!」
私はありし日の楓に感謝しつつ、その鍵で家の扉を開けた。
「スゥーー……楓!!!!何してるの!!!」
私は全力で声を荒げ、家全体に声を響かせる。だが返事は帰ってこない。1階には居なそうだ。となればやっぱりふたりの部屋がある2階が怪しい。
「井伏くん。私に勇気をちょうだい!!」
私はそう強く決心すると、震える足をなんとか前に進め、階段を上るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます