第46話 新たな友情と男達の夢

 朝っぱらから桜に絡まれ、逃げるように教室へと入った俺と七海。しかし俺達が一緒に来たというだけでクラスは騒然としだした。七海が恥ずかしくなったのかすぐに自分の席へと向かうと、取り囲むようにクラスの女子達が七海に駆け寄った。


「大丈夫??相談乗るよ……?」


「ぇ?相談?」


「いやだって………」


 俺の方を見ながらコソコソと話をしている。きっと脅されてるとかそういう捉え方なんだろうな。気持ちは分かるけどさ……


「…………零央くんとは…えっと……あはは…」


「零央くん!!?」


「これは!!?まさか!?」


「あ、いや!!違うよ!?井伏くんね!!まさかまさか!」


 俺達の関係についてはそれぞれの判断に任せている。燈や栞は隠す気はないそうだが、七海は流石に恥ずかしいとのことだ。まぁ恥ずかしい以前に絶賛3股中であることの説明をしなくてはいけなくなるから色々とヤバい。


「え、てかめっちゃかわいいんだけど。イメチェン??」


「あ、これは…………」


「マスク外してみてよ!ね!!ね!?」


「あのぉ…………」


 助けを求めるように俺へと視線を送ってくる。だが俺としても七海がクラスメイトと仲良くなるきっかけを潰したくない。そう思って賑やかに笑って「がんばれ」と手を振っておいた。


「っ!!!え……あんな顔をすんの井伏って…………やば……」


「やっぱそういうことだよ…………」


「違う!!ホントに!!違います!!」


 初日から災難な目にあっている七海。だがあのクラスメイト達から嫌な感じはしてこない。任せておいても良さそうだろう。


「……あの!」


 俺も自分の席に着き時間まで寝ようかとしていると、1人の男子に声をかけられた。


「…………なんだ好本」


「ぇ……なんで名前を………」


「そりゃクラスメイトだからな」


 声をかけてきたのはゲームでBSS被害にあった好本だった。正直気まずいからあまり関わりたくはなかったのだが……


「…………あの、えっと……間違ってたら申し訳ないんだけど……これって…………井伏くん……?」


「ん?あー…………」


 そう好本に見せられたのはスマホに写ったとある写真。コスプレしている男女3人が自信満々にポーズを取っている。ていうか俺達だ。なるほどこういう話になるわけね。


「………そうだけど?」


「……っ!!じゃ、じゃあさ!」


 好本は自身の興奮をなんとか抑えつつ、俺が同士であるという確信に迫る質問をしてきた。


「あのさ、推しって…誰?」


 この質問で俺が「推し?」と返せばここで好本との絡みは終わるだろう。色々な事を考えればそうするべきなのだが……


「………結局セリア」


 俺もそろそろ男の友人が欲しいんだよ!下らない話で盛り上がりたいの!いいだろもう全部やりきったんだから!


「………………セリ×ヨミ?」


 俺の答えにさらに質問をしてくる好本。提示されたモノに頷いてやってもいいがこれはとても大事な話だ。譲ってなるものか。


「……ヨミ×セリだろ」


「っ!!……なるほどね?」スッ……


 好本は嬉しそうな表情になり、スッと手を俺の方に差し出してきた。これが意味するところとは即ち……


「……分かってんじゃねぇか」グッ……


 俺はその手をしっかりと握り、同士との新たな友情を育んだのだった。


「え、なにしてんのウケる」


 教室の端っこで俺達が熱い握手を交わしていると、クラスメイトの女子から声をかけられた。


「何って……握手だろ」


「いやいやそれがウケるんだって。なんでオタク君とイブ君が握手してんの?」


「…………友達だからな」


「ぇ、あ……あ、はい!」


「やっぱイミフすぎ。そういう感じなんだイブ君って意外だね」


 声をかけてきた女子はいかにもといった感じのブロンドヘアーギャル。制服も着崩していて首元がお留守だ。確か名前は………


「あ、ウチは姫崎ひめさき姫崎ひめさき琴音ことね。よろ」


「………なんだ急に」


「どーせ覚えてないだろうから自己紹介してあげたんだよ。優しいっしょ。イブ君学校来てなかったし忘れてるかなって。それにオタク君と話すのは初めてだしね」


「あ、はい……僕の名前は…」


「好本哲平。実はちゃんと覚えてるっていう。ウチ名前とか覚えんの得意なんだよね」



 なんだこの……こってこてのギャルは。しかもそれでいて怖くなくて…むしろ優しさが全面に押し出されている…………まさか……


「……で?何のようだ?」


 俺はこのギャル…姫崎の正体を確認するために少し話してみることにした。それに1学期はそもそもクラスメイトと話すことなんてなかったから普通に話せることがちょっと嬉しい。


「用って程でもないんだけど、ほら木下さんの彼氏って誰なのかなって気になってさ。後はアイツが来たから逃げてきたってのもある」


 姫崎が七海の方を指差す。そこにはいつの間にか楓が居て、女子に混ざって七海と話していた。


「ウチさ宮野のこと苦手なんだよね。女子に適当に愛想振り撒いてる感じとかマジ無いわーって感じ。ちょっと顔は良いけどそれだけ。絶対NG」


「……なるほど」


 女子からしてみれば楓……というかラブコメ系の主人公の言動というのは案外キツイのかもしれない。


 俺が楓の方を見ながらそんなことを考えていると、姫崎は俺と好本の顔を見比べ、「ウンウン」と頷きだした。


「イブ君もイケメンだけど、やっぱりウチはオタク君みたいな純朴そうな顔つきがタイプかも」


「ぇ!!?!」


 突然のカミングアウトに好本が驚愕の声をあげた。そんな好本の反応が面白かったのか姫崎は顔を近づけて追撃した。


「ねえてっちん。木下さんの彼氏って君?」


「てっちん!?あ、いや……違います…」


「え、じゃあフリー?」


「えっと……………そう……なります…」


「そっか。好きな人は?」


「………………っ……」


 姫崎からの無慈悲な追撃に好本は七海の方をチラ見して黙ってしまった。その表情は今にも泣きそうで可哀想という他ない。


 ……俺のせいでもあるんだけど。


「え?あ、そういう?え、じゃあさ――」




「はーい席につけー」


 姫崎が好本の無言の意味を察し声をかけようとした瞬間、担任が教室へとやってきた。


「うわもうそんな時間か。じゃあねふたりとも。楽しかった。また話そ」


 姫崎は俺達へとウィンクをしてそそくさと自分の席に向かった。姫崎とのこの一連のやり取りを通して俺達は1つの結論にたどり着き、顔を見合わせた。言葉は交わさなくとも分かる。今同じことを考えていると。



 そう……



【"オタクに優しいギャル"は実在する!!!】

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