第42話 三者三様の報告会
8月18日日曜日。昼過ぎの我が家のリビングで俺と七海はふたり並んでベッドの前で正座をさせられていた。
そんなベッドの上で足を組んで威圧感を放っているのはもちろん栞。その隣にちょこんと燈も座っている。
「まさか七海が友人の彼氏に手を出すような子だったとはな」
「ごめんなさい……」
「零央も少しは躊躇いなど無かったのか?3人目だぞ?こう……色々あるだろ?」
「ごめんなさい……」
七海の気持ちに応えた事を栞と燈に伝えた。燈からは「やっぱりおっぱい星人ですね」と呆れられ、栞からは「日曜日に家に行く。七海も呼べ」とだけ返され通話を切られた。
そうして昼過ぎから栞と七海が家にやってきて、あれやこれやと説教されていると、午前連だったらしい燈がたまたま現れて、流れるように栞側についた。
「何度も言うがな。七海、君がしてることは良くないことなんだぞ?彼女がいる男に抱きついて告白なんて……我々が学生で、私と七海は友人だから大目に見てやれるが……いや、それでもおかしいからな!」
「なんか……盛り上がっちゃって……」
「そして零央!君の強欲さには呆れたぞ!私と燈ちゃんだけでは物足りないというのか!そういうところだけ直ってないではないか!いつか背中を刺されるぞ!」
「夜道には気を付けてます……」
「まったく……………」
怒り心頭といった様子の栞の隣で、呑気な顔をしていた燈がようやく口を開いた。
「栞さん。ボクもいいですか?」
「どうぞ」
「では……コホン。ボクはいいですよ!センパイ!」
「なっ!!?」
味方だと思っていたはずの燈があっさりと許し俺に飛び付いた。唐突な裏切りに栞は驚きの表情を浮かべていた。
「ボクは~そんなダメなセンパイでも~許してあげますよ~寛大なんで~正妻なんで~」
「あぶねぇから急に抱きつくのはやめろ…」
「っ……七海はどうなんだ!こんなの…こんなの良くないだろ!?嫉妬とかするだろ!?」
「私は……許してもらってる立場だし…それに、井伏くんと栞ちゃんがイチャイチャしてるのを間近で見れると思うと………ふへへ…」
「なっ―――」
味方がいないことに気づいてしまった栞はそのまま俺のベッドにうつ伏せで横たわり、俺の枕に顔を埋めながら愚痴をこぼし始めた。
「私だって…………そっちがいいのに……でも……誰かが言わないとダメじゃん……」
そんな栞の頭を撫でると「触るな」とペシペシ叩かれてしまった。それでも気にせずに撫で続けていると「なんでこんな男を私は……」と足をバタバタさせながら悔しそうに呟いていた。
「やっぱり………駄目だったよね…」
「いいんですよ七海センパイ。厳しいですけど栞さんも零央センパイのこと大っっっ好きなんで。例えばボク達って何回か勉強会することがあったんですけど、たまにボクが気づいてないと思ってこっそりキスしてるんですよ。ボクがトイレ行ってる時とか深いやつしてますからね」
「へ、へー……そうなんだ…」
「……っ!?し、してないぞ!?」
唐突な暴露が余程効いたのか、栞は一瞬で起き上がり、顔を真っ赤にしながら燈に文句を言った。だが燈はそんな言葉なんて聞こえないフリをしつつ「そうだ」と悪い顔で提案してきた。
「折角集まったんだから4人でします?」
「え!!??!」
燈からの能天気な提案に七海が赤面しながら驚愕する。そんな七海に対して燈が楽しそうに肩を揉みながら声をかけた。
「いいじゃないですか~恥ずかしがらずに~」
「いや……だって私まだ…………」
「まだ?」
「………………キス……してない……」
「「え???」」
赤面してそう呟いた七海。すると燈と栞が同時に驚きの声をあげ、気まずくなった俺はすぐさま皆から顔をそらした。
「だって……付き合ってまだ2日だし………そういうのはもっと色々とデートしてからじゃないと…なんかダメな関係……みたいじゃん……ふたりだってそうじゃなかったの?」
「スゥーッ………………はは。そう……だな」
「ま、まぁ?もちろん……そうですよね?」
七海の純粋な恋愛観がクリーンヒットした栞と燈。そして誘われたからとはいえ流れのままに襲ってしまった俺にもその言葉は刺さり、3人揃って撃沈してしまった。そんな俺達を見た七海は何かを察し、「まさか……」と若干引き気味の声色で呟き、俺へと問いかけてきた。
「もしかして2人とはその日にキスしたの?」
「………………それはですね」
「したの?」
「……はい…」
珍しく怒っているような声の七海に詰められる。さっきの栞も怖かったが、こっちもまた違った怖さがある。
「キスだけ?」
「……………………いやぁ」
「何したの?」
「…………最後まで……というか…はい」
「ふーん……そういう感じなんだ」
俺が七海からの冷たい視線を浴びていると、燈が「閃いた!」みたいな顔をして栞に耳打ちした。
「いやしかし………流れ的に始まるぞ…?」
「いいじゃないですか。好き同士なんだし」
「いやでも…………」
燈からの提案に栞は不満そうな顔をしていたが、「いいからいいから」と燈が無理矢理栞の手と荷物を持って立ち上がった。
「ボク達今からデートしてくるんで。今日は解散しましょっか。ほら早く行きましょ栞さん」
「分かった!分かったから引っ張らないでくれ!」
燈はその勢いのまま栞を連れて家を飛び出してしまった。取り残されてふたりきりになってしまった俺達はしばらく無言で過ごした後、七海が恥ずかしそうに話し始めた。
「…………ねえ井伏くん」
「はいなんでしょう…」
「……井伏くんはさ、私とえっちなことしたいの?」
「そりゃしたくないと言えば嘘になるけど…」
「ふーん……じゃ、じゃあさ…する?」
七海はモジモジしながら俺の手を握り、恥ずかしさを堪えながらそう尋ねてきた。俺はその七海の手を握り返し、なんとか誘惑に耐えながら言葉を返した。
「無理しなくていいからな……七海の価値観の方が正しいわけだし……」
「…………でもそれじゃあ井伏くんの1番にはなれないじゃん」
俺が気合いで我慢してるというのに七海はジリジリと俺に近づいてくるのを止めなかった。
「……あの日は誤魔化されたけど、井伏くんの1番になるって気持ち諦めてないからね」
「だからって……………えっと…七海?」
「……………………」
俺の腕にピッタリと体をくっつけたかと思えば、七海は目を閉じて何かを待っていた。
「…………い、いいんだな?」
「………………恥ずかしいから早くしてよ」
「はい……」
震えている七海の体を抱き寄せ、出来るだ優しくキスをした。すると七海の体の震えはおさまり、安堵したような顔つきになった。
「…………どうでしょう」
「……意外と…普通だね」
「まぁ……そんなもんだ」
「………続き……する?」
「だから無理はしなくても…っ!?」
俺が今更な葛藤をしていると、七海は俺の手を自身の胸に移動させ、そのまま沈めるように押し当てた。
「んっ…………い、いいよ…零央くん」
「あ………………」プッツン
その瞬間。七海の言葉と表情に俺の中で何かが切れた音がして、本能の赴くがままに七海を抱いてしまうのだった。
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