第31話 水着回といえばやっぱり……

 栞からのお仕置きと皆のかき氷タイムも終わり、これからどうしようかと話し合っていると、燈が「ふっふっふ」と明らかに何か企んでる顔で話し始めた。


「堅苦しい話も終わりましたね!後は楽しみましょう!というわけでついてきてください!」


 やけにノリノリな燈に連れられ、訪れたのはとあるコーナー。そこには謎の機械とその前に待機している人だかりがあった。


「燈ちゃんこれは?」


「まぁまぁ!早くボク達も並びましょ!あ、センパイは見ててくださいね!」


「お、おう……」


 見てろ、ということは濡れるのだろうか。一体何のコーナーなのかと思い、近くにあった看板を見てみると……


「バブル…ランド?」


「ではいきますよー!3、2、1……!」


 看板を見ている隣でカウントダウンが始まり、俺が説明を読むよりも前にどんなアトラクションなのかを実践してくれた。


「GO!」


 女性スタッフの号令と共に、機械から大量の泡が噴出された。


「あばばばば!!」


「七海!?大丈…っぶ!?」


「アッハッハ!!たーのしー!ねー桜!」


「それなー!!」


 一切の説明を受けてなかった栞と七海は襲い来る大量の泡になす術もなく蹂躙されており、反対に燈は楽しげに泡を受け止めていた。さっきまで泣いていた桜も笑顔ではしゃいでおり、見ている分には微笑ましい光景だった。



 その後しばらくして機械が止まり、終わった頃にはその場にいた全員が見事に泡まみれになっていた。


「体についた泡はしっかりとそこのプールで洗い流して下さい!お願いしまーす!」


 スタッフさんの合図で各々が専用のプールへと向かって歩き出した。……一部を除いて。


「え、世良ちゃん、こっちはプールじゃないよ!?」


「いいからいいから!」


 何故か燈に背中を押されて俺の方へとやってくる七海。全身泡まみれで……こう…………ヤバい。水着に泡でそういう店にしか見えない。周囲の健全な男子の性癖を今まさに歪めにかかっている。このアトラクションを考えたやつ大丈夫か???


「あ、すべったー」


「へ!!?ちょっ!?」


「っ……おい!」



 ぐにゅるっ


「ンヴッ!!!!!」


 燈のわざとらしい掛け声と共に七海が俺の方へと押し出され、体制を崩した。危うくコケそうになったのをなんとか正面から受け止めることには成功したのだが、そのせいで七海の泡まみれの爆乳がダイレクトに俺の体へと密着した。


「ご、ごめん!!すぐ離れるから……!!」


「いや……全ぜ…んっ!!!?」


 慌てて俺から離れる七海。だが泡まみれで滑りやすくなっており俺と密着した時にズレたのだろう。七海のピンク色の円のふちがチラ見えしていた。


「ごめんなさい七海先輩……あ、見えてますよ?」


「へ…………ほわぁ!!?」


 俺よりも先に燈から指摘され、気づいた七海は顔を真っ赤にしてその場にしゃがみこみ、必死に水着を元に戻していた。


 そして俺もその場にしゃがみ、暴走してしまっている己の龍をなんとか落ち着かせようと前世の母親の顔を思い出すことにした。


「……セーンパイ?」


 そんな俺に対して燈はからかうように耳元で囁いてきた。


「センパイもぉ…大変ですね?」


「テメェ……」


「いひ…センパイかーわいっ」


 からかうだけからかって満足したのか、燈は七海を連れてプールの方へと向かっていくのだった。



「次はこれです!」


 バブルランドを楽しみまくった燈に次に連れられたのは小さめのプールの上に空気の入ったロールのようなものが浮かんでいるコーナーだった。


「これなら濡れないし、センパイも遊べます!ちなみに3人まで一緒に入れますよ!」


「こら燈!どうせ先輩と一緒にとか言うんでしょ!」


「え?ボクは桜と一緒がいいな!」


「……ホントに?」


「うん!七海先輩も一緒にしましょ!」


「………う、うん」


 流れるように組分けが完了し、3人はそそくさとロールの中に入っていった。


「では残りのお二人はこちらにどうぞ」


「井伏くんは私で良いのか?」


「……まぁ、会長なら平気っす」


 何か良からぬことを企んでいる燈や、さっきのハプニングで気まずい七海。そもそも仲良くない桜よりは安心だろう。そう思い、俺は栞と共にロールの中に入ることにした。



「おっ……よっ………これは、なかなか…」


「ムズいっすねこれ……」


 パッと見は簡単そうだったが、いざ中に入ってみるとバランスを取るのが難しい。燈達もキャーキャー言いながら転げ回っている。燈はまだしも七海も桜もどんくさそうだからな。


「にしてもっ……会長も楽しそうっすね」


「なんだ?私には似合わないってか……おっ…と」


「いやいや……普段は大人っぽいのに…ギャップが、と」


「楽しめるうちに楽しまないとな…こんな機会はっ……こないだろう…っ」


「確かに……それもそうです…………ん?」


 俺と栞がバランスを取りながら世間話をしていると、燈達のロールがこちらに向かって転がり始めた。


「うわーよけてー!」


「避けるとかじゃねぇだろコレ…っおわっ!」


「おっ……あ、流石に…っ!!」


 またしても燈のわざとらしい叫びと共に互いのロールが激突。なんとか踏ん張ろうと俺達も頑張ったが奮闘虚しくお互いにバランスを崩してしまった。


「……会長!」


「……バカ井伏くん!わざわざ手を貸さなくてもぉっ……!!」


 後頭部から倒れそうになった栞を見て反射的に栞の手を掴んだ。しかし、栞の忠告通りその動きが余計な反動を生み、ふたり揃って倒れてしまった。



 ふにっ


「んっ…………!」


「!!!?」


 左手に伝わる柔らかい感触と、栞から漏れたかすかな声。右手ではしっかりと栞の左手首を拘束し、覆い被さるような形で栞を押し倒してしまっていた。


「………助けようとしてくれたことには感謝するが……これはわざとではないのだな?」


「まさか!!」


 俺はすぐさま栞から手を離し、なるべく距離をとった。栞は俺に揉まれた胸を隠しながら、とある一点を見ながら顔を赤らめていた。


「だったら早くそれを落ち着かせてくれ……説得力が無いぞ………」


「ぇ……あ、いやこれは!」


 またしても井伏零央の龍が暴走。大きいというのも考えものだ。いやこれで我慢できるやつ連れてこいよ!無理だろ!


「生理現象なのは分かってる………だから早くしてくれ…」


 珍しく乙女のような反応をする栞を見ていると余計にギンギンになってしまう。そもそも皆の水着姿を見た時点でかなり我慢していた。それなのにさっきからのハプニング続きで一回どうにかしないと流石に無理そうだ。



「ふっふっふ………!」





 燈の要望のアトラクションは回りきり、一段落ついたところで我慢の限界を迎えた俺は皆と離れることにした。


「わりぃ。トイレ行ってくるから普通に遊んでてくれ」


「あ、ボクもー!」


 1人で離れる予定が燈についてこられる。さっきから燈の様子はおかしかったが…とはいえだ。いくらなんでも……


「………………」


「おい!」


「へ?なんですか?」


 俺が男子トイレに入ると、さも当たり前かのように燈がついてきた。中には他に人がいないからいいものを、一体何を考えてるんだ。


「いやー堂々としてれば案外バレないもんですねー」


「バカそういうことじゃねぇよ!早く出てけ!」


「えー……あ、誰か来ちゃいますよ?」


「は!?」



「次もっかいスライダーやろうぜ」「いいねー!」


 燈の言うとおり誰かがこちらに来ていた。早くコイツを連れ出さなければ……


「よっと!」


「なっ……おいバカ!」


 俺が悩んでいる隙に燈はトイレの個室へと侵入。「はやくはやく」と手招きし始めた。


「でさー……」


「……っクソが」


 やってくる男達に急かされ、焦った俺は何を血迷ったか燈が待っているトイレの個室へと一緒に入ってしまった。


「なにしてんだよお前」


「声がおっきいですよセンパイ……」


 個室という狭い空間で水着姿の燈とふたりっきりになる。しかも男子トイレ。凄まじい背徳感にいくらなんでも股間が反応しないわけがない。


「あはっ………こっちもおっきいですね…」


「…………テメェいい加減に…」


「ひゃん…」


 興奮のあまり燈の両肩をガシッと掴んでしまう。すると燈はわざとらしい声を上げ、待ってましたと言わんばかりに上目遣いをしてきた。


「ねぇセンパイ……なんでボクが皆でプールに行こうって言い出したのかまだ分かりませんか?」


「なんでって……そりゃ楽しいからだろ」


「それもありますけどぉ…一番はコレですっ」


「コレ?…………っ!?」


 燈は意味深なことを言いながら俺の股間へと手を伸ばし、水着の上から形をなぞり始めた。


「おいやめっ……!」


「声出しちゃダメですよぉ…こんなとこで女の子襲ってる犯罪者になっちゃいますよぉ?我慢してください……じゃないとボクが叫んじゃいますからね」


 完全にスイッチが入ってしまっている燈になす術もなく撫でられ続ける。


「今日はたっくさん我慢しましたよね…七海先輩の大きいおっぱいとかぁ…会長さんの綺麗な体とかぁ……あ、桜の子供みたいな体型にも興奮しましたか?」


「っ………」


「それでこんなにおっきくしちゃって……苦しそうですね……大変ですね………スッキリしたいですよね………」


 ここ最近大人しかったから油断していた。そもそもこの世界はエロゲの世界。そしてそのヒロインの中でも一番性に奔放だった燈が何かを企んでいた時点で警戒すべきだった。


「ねぇセンパイ……ボクならいいんですよ?好きに使っても嫌じゃないですから……会長さんみたいに怒らないし、七海先輩みたいに恥ずかしがりません。都合のいい女ですよ…?」


「世良…………」


「もぉ……いい加減燈って呼んでください」


 燈はそう呟くと股間から手を離し、肩に乗っていた俺の両手を払った。そして俺の首に両腕を回して顔をグイっと近づけ、囁いた。


「そういえば言ってなかったですよね」


 背伸びをし、俺がほんのすこし燈を受け入れれば唇が届く距離になる。そして……



「大好きですよ。零央センパイ」

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