第23話 オタク系ヒロインは推し活がしたい

 7月16日火曜日。昼休みの屋上にて。


「あっちぃ…………」


 長い長い一週間がようやく明け、俺は太陽が照りつける屋上でコンビニで買ってきたおにぎりを頬張っていた。


 燈は夏の大会に向けて昼休みも練習しているそうだ。これはご褒美も奮発してやらないといけない。


 七海とは教室で会ったのだが、目を合わせるやいなやすぐに逃げられた。やはり俺こと井伏零央では七海ルートに入ることは出来ないのかもしれない。流石に無茶な作戦だったと後悔している。


 栞は…………



『好きだぞ』



「ぁぁぁぁぁぁ……」


 あの日の言葉を思い出すだけで悶えてしまう。急に告白しやがって。俺が本当は起きてたらとか考えなかったのかよ。


 いや、それだけ俺は栞から信頼されてしまっているのだろう。「責任をとる」という俺の発言に怒った時もすぐに冷静になった。恐らく俺なら本気でそう思っていると考えてくれたのかもしれない。それが余計に心を痛めるのだが。


「どーすっかなぁ……」


 というわけで栞と顔を合わせ辛く、生徒会室には行かずに屋上に来ているというが今の状況だ。栞の顔を見るだけであの日の言葉を思い出しそうだ。



「やはりここにいたか」



 そんな最中、屋上の扉がひとりでに開いたかと思えばくだんの生徒会長様が姿を現した。


「どうしたんだ今更。来なかったから心配したぞ?」


「いや………そういう日もあるかなって…」


 やっぱりダメだ。目を合わせられない。


「そうか?だが流石にここは暑すぎるだろ。今からでも生徒会室に来るといい。冷房もつけてある。快適だぞ?」


「いやぁ……」


 お前と同じ空間なのが快適じゃないんだよ。察してくれ鈍感女。


「……まさか井伏くん」


 俺が顔を合わせようとしないことから栞は何かを察したのか、俺の背後に回って耳元で囁き出した。



「私の膝枕で寝てしまったのが恥ずかしいのか?」


「ぶっ……!?」


 ちげぇよ!!お前がもっと恥ずかしい事を言ったんだよ!!


「照れるな照れるな。それだけ私の包容力が凄かったということだ」


「いや照れてないっすけど……」


 言ってやってもいいんだぞ!?お前が俺に告白したって!!俺の気遣いに感謝してほしいもんだ!!


 なんて心の中で栞に文句を言っていると、栞はやっと俺の側から離れ、真面目な声色で本題と思わしき話を始めた。


「…まぁここまでは冗談だ。早く来てくれ。君へのお弁当と、君と話がしたいという生徒が来ているからな」


「…………分かりました」


 このタイミングで俺と話がしたい生徒なんて1人しかいないだろう。そう考え、仕方なく栞と共に生徒会室へと向かうのだった。





「ぁ…………ど、どうも…」



 生徒会室の中で待っていたのは予想通り七海だった。なんだかいつも通りのオタクモードに安心すら覚える。


「ほら七海。ハッキリと言うんだぞ」


「は、はい…………」


 栞に背中を押され、七海が俺の前にやってくる。


「ぇっと……先日の…………井伏くんからの……アレの…返事なんですけど……」


「…………うっす」



 七海は深呼吸を繰り返し、そして…………



「ごめんなさい!!!!」


「ヴッッッ……!!」



 フラれた。頭を勢いよく下げられ、清々しいほどに見事なフラれっぷりだ。


「くふっ………………」


 その光景を隣で見ていた栞が堪えきれずに笑みをこぼした。

 俺はそんな栞に一言言ってやりたがったが、そんな事より今は七海だ。この作戦が失敗に終わった以上、土下座してでもあの男と関わらせるのを止めなければならない。


「り、理由を聞いても…いいかな……?」


 俺はダメージを負いながらも七海に尋ねた。すると七海はあたふたしながら答えてくれた。


「井伏くんが優しくて良い人だってのは……分かるんだけど…………でもなんか怖いし…背も大きいし……それに金髪だし…………そもそもそんなに仲良くないし……」


「ヴッ…………!!」


「っ…………ふふっ……ダメだ……ごめん井伏くんっ……堪えられない…………っ」


 七海の口から語られる理由にしっかりと追撃を食らっていると、栞がついに堪えきれずに笑いだしてしまった。


「笑いすぎなんですけど会長ぉ……?」


「いやだって…………ふっ…くく………七海の勢いもさることながら…君のリアクションも………っ……」


「……今まさに失恋したんですけど?慰めの言葉があっても良くないですか?」


「いやぁ悪い。後で膝枕してあげるから許してくれ」


「それはしなくて結構!」


 完全に俺を手玉に取ったつもりで楽しんでいる栞。仕返しにあの日の告白を今ここで掘り返してやろうと考えていると、そんな俺達の様子を見ていた七海が小さな声で「やっぱり…」と呟き、改めて俺に、いや俺達に話しかけてきた。


「そ、それとさ…あの人の事なんだけど……栞ちゃんにもプライベートで会うなって言われて…私もあの日は浮かれちゃってたから、改めて考えたらその通りだなって思って……」


 ……お?これは?


「そうか七海!考え直してくれたか!」


 七海の言葉に栞は嬉しそうに反応した。流石に俺達ふたりから説得されたのが効いてるのだろう。


「で、でさ?その代わりというか……なんというか……ふたりにお願いがあるというか…」


「なんでも聞くさ!なぁ井伏くん!」


「……そっすね」


 勝手に了承しないで欲しいが……まぁそのお願いとやらで破滅フラグが完全に折れてくれるなら安いもんだ。


「じゃ、じゃあさ!」


 七海は先程俺をフッた時よりも大きく深呼吸をし、これまた先程よりも勢いよく頭を下げた。



「私と一緒に!夏のイベントでコスプレしてください!!」




「「はい?」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る