第18話 ボクが最初に好きだったのに
前回までのあらすじ。
井伏零央くんの前世は「友人のオタク女子が実は学年で一番の美人なことを俺だけが知っている」という展開が好きな一般オタクだった。
あらすじ終わり。
「すまん。俺のせいで怒られて……」
「い、いや……私のせいですよ…………はい……」
司書の先生に怒られ、気まずくなった俺達はとりあえず図書室から出ることにした。
しかし出たのはいいが行く先がない。とりあえず廊下を歩いてるだけ。ここからどうする。何をすればいい。俺は今までどう立ち回っていた。七海にかけるべき的確な言葉はなんだ。
考えろ……考えるんだ俺…………
『お前って実は目茶苦茶かわいいんだな。驚いたよ』
ってなんか違う!!これ口説いてるみたいなもんだ!!
もっとこう……親睦を深めれそうな………
『そうだ。カラオケとか行こうぜ?親睦深めるには丁度良いだろ?』
あーこれNTRの導入!ぜっったいに始まる流れだ!!
他だ……もっと他に何か………………
「あ、あの…………」
「っ…………な、なんだ?」
これまでに燈や栞に恥ずかしい言葉を連呼していたという事実を忘れ、己の脳内で七海へとかけるべき言葉に悩んでいると、隣を歩いていた七海はものすごく申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんなさい……井伏くんみたいな……立派な人が………私なんかと仲良くなんて……なりたく…ないですよ、ね………ごめんなさい……」
「…………いや。んなこたねぇよ」
そうだ。ひとまず落ち着け。
今は井伏零央だ。あのゲームで最強難易度の悪役だ。前世のような冴えないオタク大学生ではない。それがこんなオタク女子1人に遅れを取ってどうする。今まで通りに改心した井伏零央のロールプレイを続ければいいだけだ。例えそれが前世で好きだったタイプの女だったとしても、今更そんなことで恥ずかしがるんじゃない。
それに今の俺には…………
よし。いける。
「そういや木下。なんで会長さんを誘ってまでイベントに行きたかったんだ?」
「ぇっ…………と、私が推し………好きな、方が……好きな漫画の……コスプ……格好ををするって聞いて……」
なるほど。恐らくソイツが例のコスプレイヤーの男だろう。そこで出会って連絡先でも交換するのだろうか。その男も手が早いというかなんというか……まぁ本人が幸せそうだから問題はないけど。
「い、い井伏くんは……漫画とかは…………見ませんか……?」
七海はおどおどしながらも俺と話をしてくれようと努力していた。七海も七海なりに思うところがあるのかもしれない。
「……俺はあんまりかな。面白いってのは分かってんだけど、どうしてもな」
「そ、そうですか…………」
本当は好きなのだが「何が好きなんですか?」とか聞かれたら答えられないので嘘をついた。だってこっちには存在しない漫画なのだから。
「……………………」
「……………………」
一瞬で話が途切れた。適度に返事をしてくれるアイツらがどれだけ話しやすい存在だったのかようやく理解した。
何か他に話題は…………あ、そうだ。
「なぁ、好本とはどういう関係なんだ?」
「へ!!!?好本くん!?!」
好本とは七海のイベントで語り手をしてくれたBSS君だ。同じクラスだし名前は覚えていた。もちろんこの世界ではちゃんと顔がある。至って普通のオタク男子といった見た目だ。
「そ。よく話してただろ?そこんとこどうなんだろうなって」
「いやいやいやいや!!!好本くんとはただの…ただの友達です!!!」
そんな全力で首を横に振らなくても……なんだかかわいそうになってきた。
「なら週末のイベントに誘ってやれば良かったのに。趣味が合う方がいいだろ?」
「それが…………誘おうと、思ったんですけど…………忙しいらしくて……」
「忙しいねぇ………」
そういえばいつからか避けるようになったとか言ってたような気がする。というか正直覚えてない。インパクトが他に比べて薄すぎる。
なんてことを話しながら歩いていると、いつの間にか靴箱まで辿り着いていた。
さてここからどうしたものか。一緒に帰る流れになりそうだが最後まで話題が持つかどうか不安だ。ここは思いきって例の「ハンガン」とやらの話でも振ってみるとしよう。
そう考えながら靴を履き替え、玄関を出て校門に向かっていると、どこからともなくこちらに走ってくる音が聞こえてきた。
元気な奴もいるもんだな。と聞き流そうとしたその瞬間。俺の背後にとんでもない勢いで何者かが突っ込んできた。
「セーーーンパーーーーイ!!!」ドゴォ!!!!
「ガフッ!!?」
「井伏くん!!?」
背後からの雄叫びと共に繰り出されたタックルになんとか耐えることには成功した。だがその犯人が誰かを確認したくない。絶対めんどくさいことになる。
「何してるんですか!!!ボクや会長だけでは飽きたらず!!やっぱりおっぱいなんですか!そうなんですよね!!センパイの変態!!おっぱい星人!!」
しかし俺が確認なんてしなくても、犯人はお構いなしに後ろから抱きついたまま体をぐわんぐわん揺らしてくる。というかなんてヤバイ事を口走ってるんだこのボクっ娘は。
「お、おおおおぱ…おぱっ………」
ほら見ろ。七海なんて顔を真っ赤にしながら震えてるじゃないか。セクハラだぞお前。
「言い訳があるなら聞きますよ!!ボクは寛大ですからね!!」
「お前が思ってるような事じゃねぇよ。たまたま一緒になっただけだ」
「嘘つき!!偶然でもセンパイみたいな人と帰ろうって思う人なんていません!!!」
「おい」
事実だけど言って良いことと悪いことがあるだろ。
「なぁ木下からもなんか―――」
「お、お……」
再び七海の方に視線を向けると、七海は更に顔を赤くし、その豊満な胸を両腕で隠しながら今日一番の大声を出した。
「おいしくありませんからぁぁあ!!!!」
「お前も何言ってんだ!!?」
とんでもない台詞を叫びながら、七海は俺から逃げるように校門を飛び出していった。
「ふん!!」
「…………お前なぁ」
俺が七海に凄まじい勘違いをされているのにも関わらず、何故か勝ち誇り、満足げな表情をしていた燈に、俺は1から今の状況を説明してやることにしたのだった。
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