第17話 辿り着いてしまった真実
七海のイベントは他の3人と少し趣向が異なる。まず視点が知らないモブだし、そもそもジャンルが違う。
NTRとBSS。似て非なる物であり、ゲームをプレイしていた俺も首をかしげた。
というか前2人と比べると平和すぎるのだ。そういったシーンもないから実用性もない。突然出てきた語り手は誰なんだ。
木下七海はこちらが干渉しない限りは何もしてこず、1週目では完全な空気でしかない。それが夏休み明けたら急に美人になってました。SNSで知り合ったイケメンと付き合ってます。とか言われても「あーそうなんだ」としか感想は出てこなかった。
だがしかし、これはあくまでもルート以外での話。
1週目でこれを見せられた俺はこう思った。
「まずは七海から行くか……」と。
ゲーム中トップレベルの顔の良さ。オタク女子。そしてなにより胸。でっっっかい。しかもエロシーンを唯一見れていない。これはさぞかし凄いのだろうと意気込んで2週目突入した。
燈と栞のイベントを2週目ではスキップし、いざ七海ルートへ突入。いつ美人モードになるのかとワクワクしていたのだが……
ならない。
眼鏡を外さない。
髪も整えない。
そのまま。
もしかしたらエンディングでイメチェンしてるのかも…と信じて進めるも何も変わらない。特にNTRそうな気配もなくあっさりエンディングを迎える。恐らくはこのゲームで一番簡単だろう。
俺は一体何をやらされたのだと、当時は憤りすら感じていた。
そもそもだ。オタク根暗女子の友達が実は美人でしかも夏休み明けたら人が変わったように明るくなっているなんて早々あり得る話じゃない。レビューを書いてる奴はすごい人生を送ってきたのだなと全く共感出来なかった。
そんな俺がこうして七海の美人モードを見た時に感じた想いはこうだ。
「ルートに入んない方が幸せなんだろうな……」
その瞬間。俺はようやくあのレビューの真意にたどり着いた気がした。
七海ルートの本質。それは周回を前提としたゲームのシステムとの応用。
まず最初に自分以外と付き合うことで順風満帆な人生を送る姿を見せつける。
そしてあのモブ男子。まさにこってこてのオタク男子だ。開発があれを用意した意図は恐らくプレイヤーへの親近感のためだろう。
そのうえで、プレイヤーに訴えかけているのだ。「今の君ならあの天使の隣に立てる」と。
それを鵜呑みにし、他のヒロインをかなぐり捨てていざルートに突入しようものなら待っているのは何の変化もない七海。俺のようにその瞬間に見切りをつけ、二度と攻略しようとしなければ気づかないだろう。だってこのゲームにはハッピーエンドが各ヒロインに1つしか存在していない。回想部屋を見れば分かる。
もし。
もしもだ。何かしらの条件があるはずだと信じて周回したプレイヤーならどうなるだろうか。実は美人なオタク女子というのは一定の需要はある。
でもどんな条件、どんな選択肢を試しても七海が変わることはない。
七海が自分の彼女として学校一の美人になり、いずれは超有名コスプレイヤーとして成功する未来は決して訪れない。
その未来を見る方法は1つ。
自分よりも財力があり、立場があり、顔も良い、優しい男と付き合っている場合だけなのだ。
それでも諦めずに周回したプレイヤーに待ち受けるのは「自分より優れた男と付き合っている時の方が成功している」という事実。
決してルートの七海が幸せそうじゃないということはない。エンディング後の後日談ではそれなりの暮らしを主人公と共に楽しんでいる。
けれど我々は既に見せられているのだ。
その後日談の笑顔よりも綺麗で、本当に楽しそうに輝いている天使のようなあの笑顔を。
自分の力では決してあの笑顔を引き出すことは出来ない。
あのレビューの「昔を思い出す」とはつまり、七海のようなキャラが好きな人間が一度は体験したことのあるであろう悲しき現実。
男として、ただ純粋なオスとしての、自分よりも優れた者への敗北だ。
もちろんこれは全て俺の妄想に過ぎない。もしかしたら七海ルートでもその未来が待っている可能性は充分ある。
だが燈や栞、それにメインヒロインの乃愛に対してあんなイベントを用意したゲームのヒロインのうちの1人だ。あり得ない話じゃない。
といってもだ。
その開発の意図に今さら気づいたところで七海の事が好きじゃなければ何の問題もない。七海にはこのまま有名コスプレイヤーと付き合って幸せになってもらうとしよう。
ここまでの考察を全て捨て、俺は本を読んでいる七海へと声をかけるのだった。
「よ。それ面白いのか?」
「え………あ、いや!……じゃなくて、ちょっ………」
俺が声をかけると七海は急いで前髪をワシャワシャして顔を隠した。
そんな美貌を隠すだけ損だろ。まぁ俺だけが知っているみたいでなんか興奮するが………
ッハ!!!!?
「ど、どうしました?」
「あ、いや!なんでもない………」
なんだ今の気持ちは………まるで……
「す、すいませんお見苦しい所を見せてしまって……」
「いやいや……全然…………」
そんなかわいさで自分に自信がないとかネガティブすぎるだろ。まぁそういう所が七海の魅力でも………
「ハッ!!!!?」
「ぅえ!!!?ど、どどどうしました!?」
「こらそこ。図書室ではお静かに」
そうだ。そうだった。
この体になって、井伏零央になって、男の頂点のような立場になって忘れていた。
散々上から目線で語っておいて恥ずかしいが……
俺自身が「実は超美人なオタク女子」が好きなオタクだった!!!
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