第12話 掴みとった青春の1ページ

「センパイセンパイ。はいあーん!」


「やめろ……自分で食え俺に押し付けるな」


「押し付けてませんよ~センパイがピーマン欲しいかなって!」


「……そんなんじゃいつまで経っても育たねぇぞ」


「!!!?!?」


「本当に仲睦まじいな君達は……」


 あれから数日後の昼休み。俺達は過ごす場所を生徒会室へと変えることにした。

 理由は1つ。流石に暑い。耐えられない。だが教室で燈と話していると周りの目が痛すぎるので苦肉の策として栞に頼み込み、生徒会室を間借りしているというわけだ。


「会長さん……センパイが………センパイがボクに酷いことを……」


「いや当然の事を言っただけだろ」


「そうだぞ燈ちゃん。野菜もしっかりと食べることだ。まだまだ君は成長期だし、キチンと栄養をとれば井伏くんだってメロメロだ」


「メロメロ……」


「変なこと吹き込むなって……」


 この2人がゲームで絡んでいるのは見たことない。だから一体どうなるかと思っていたが、すぐに仲良くなってくれて良かった。


「ボク……センパイをメロメロにしてみせます!はむっ…………ぅぅ…にが……」


「はいはい偉い偉い」


「……ところで井伏くん。人に栄養がどうとか言っている君のその弁当はなんだい?」


「コンビニ弁当っすね」


 コンビニ弁当の何が悪いというのか。お手軽で旨い。栄養もしっかり取れる万能食ではないか。


「……親御さんは朝は忙しいのか?」


「あー……一人暮らしなんすよね。今」


「ええ!?センパイそうだったんですか!?」


「ちょっと色々あってな」


 井伏零央は親と仲が悪かったそうだ。それで高校に入ってすぐに一人暮らしを強行。だがバイトをするわけでもなく、毎月の仕送りでなんとかしていた。

 バイトをせずに暮らせていることから分かる通り、実家からの仕送りはかなり厚い。零央が一方的に嫌っているだけで、親は零央の事を第一に考えているのだ。

 そんな反抗期真っ盛りな零央の代わりに、両親には俺が感謝しておいた。なんなら仕送りをやめてもらっても構わない。バイトでなんとかする。そう伝えたのだが零央の両親は泣いて喜び、むしろ以前よりも額を増やされてしまった。


「そうか……一人暮らしか……」


 栞は何故か急に考え込み始めた。その流れはおかしい。何か企んでるだろ。その様子を見た燈も同じ事を考えたのか、栞を威嚇し始めた。


「会長さん!ダメですからね!ボクの!センパイですから!!」


「お前のじゃねぇよ」


「あぁそうだな……だがそれと同時に、私のかわいい後輩でもある」


「かわいいはやめてください…」


「むぅ……デレデレして………ボクは毎朝センパイに下着を―――」


「やめろやめろ!!!おい!!!」


 とんでもない事を口走ろうとした燈の口を手で塞ぐ。塞がれた燈はしばらくバタバタしていたが、次第に気持ち良さそうな顔になっていった。


「ま、まぁ……趣味はそれぞれだからな…うん……聞かなかった事にしておくよ……」


「いやちが……そんなんじゃないっすから…」


 俺の反応が余計に燈の発言の裏付けをしてしまったようで、栞に察されてしまい、ドン引きされるのだった。


「むふぅ…………アイタッ!」


 勝ち誇った目をしている燈の口から手を離し、お仕置きにとチョップをかました。


 そんなくだらないが、充実した青春を謳歌していると、突然生徒会室の扉がノックされた。


「すいません。藤田会長はいらっしゃいますか?」


「あぁ。少し待っていてくれ」


 栞は仕事モードの顔になると、俺達に頭を下げた。


「すまない。来客のようだ。出てくるよ」


「……いや俺達が出てくからいっすよ。ほれ、いくぞ世良」


「はーい!」


 元々俺達が勝手に借りている場所だ。今日は大人しく屋上の扉の前で過ごすとしよう。


「んじゃお邪魔しましたー」


「したー!」


「ヒッ…………!?」


 ふたりで生徒会室を出ると、扉の前に居たのは同じクラスでもあり、眼鏡をかけたヒロインの1人。オタク女子の木下きのした七海ななみだった。仕方ないのだがすっごい怖がられてる。

 といっても今更だ。気にすることでもない。俺は驚かせた事を頭を下げて謝り、屋上へと向かうのだった。




「センパイ」


 屋上前につくと、燈が膨れっ面で話しかけてきた。


「なんだよ」


「おっぱい見てた」


「見てねぇよ」


「見てました!」



 いや仕方ないだろ。実質俺は七海の裸を見たことがあるみたいなもんなんだから。あんなバカみたいな胸が目の前にあるんだなと思ったらそりゃチラ見くらいする。


「会長さんもおっきぃし……ボクなんか…」


 別に燈も胸がないわけではない。他がデカすぎるのだ。現実基準なら燈くらいが普通だ。

 俺は凹んでしまった燈を励ますために頭を撫で、声をかけた。


「世良もちゃんとかわいいから安心しろ」


「…ふひぃ………でへへへ…もっとぉ……」


 よほど安心したのか燈の顔は見事にトロけ、まるで子犬かのようにしばらく頭を撫でさせられ続けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る