第10話 砕く悪意。純真たる正義
6月27日木曜日。深夜のとある公園にて。
「あ、おーい零央くーん」
俺はあの女の指示通りに人気のない公園へとやってきていた。
「来てくれるか心配だったわwなんか最近大人しくなったとか聞いてたからさ」
「……あの女を犯せるなら来るだろそりゃ」
「確かにwwムダに体はいいもんねww」
女のムカつく笑いが脳に響く。今すぐにでもその顔面をぶん殴ってやりたい。
そんな気持ちをグッと抑え、俺は周りにいた男達にも声をかけた。
「今日はよろしくな」
「おう。アイツに聞いたぜ?なんでも相当女遊びしてるんだろお前w」
「セフレとか今度紹介してくれよww」
「………考えとくよ」
ギャハギャハと喚き散らかし、下らない事ばかりを口にしている。パッと見の数は5人。遠くに停まっている車の方にも人がいるかもしれないが……それでも1人2人だろう。体格も大したことない奴ばかり。こんだけ集まらねぇと何も出来ないクズってわけだ。
「ところで…まだ会長さんが来るまで時間はあるんだよな?」
俺は改めて栞が来るまでの時間を女に確認することにした。
「そだね。近くの駅に着いたらワタシが迎えに行くことになってるから、色々とやるのは連絡がきてからだね」
「おっけー……じゃあそれまで暇だな。なぁ今までヤってきた女の動画とかないのかよ」
今度はリーダーっぽい男に声をかけることにした。
「あるけどよぉ…こんなとこで抜くなよ?w」
「抜かねぇよ。これから本番だってのに」
「まぁそうだよなww」
初対面だと言うのにスンナリと俺の要望を聞いてくれた。それほどまでに俺の面が悪人なのか。それとももしもの事を考えてないバカなのか。
どっちでもいい。全部まとめて利用するだけだ。
「オススメはな~あったこれだ。結構粘られたんだけどよ。それがまた興奮したよなぁw」
「分かる分かるww泣いてる時が一番絞まって気持ちよかったわwww」
「…………っ……この女は誰かの知り合いか?」
スマホに写されている動画は吐き気を催すような地獄だった。やはり今回が初めてではない。コイツらは今までも同じような手口で人を襲っている。
「えっと……誰だっけ?」
「あれだよあれ。うちの担任。スマホ取られてムカついたんだよなぁ……」
「あ、そうかセンコーかコイツwwまだ来てんの?ww」
「逃げんなよって脅してるからなw今でもたまにトイレとかでヤってるわww」
「……羨ましい限りだな」
まだだ。抑えろ俺。
「その動画さ。俺にもくれないか?よければ他にも欲しいんだけど……なるべく抵抗してる動画が欲しい」
「仕方ねぇな……一個につきお前のも寄越せよ?」
「…………分かった」
俺は零央の画像フォルダからセフレ達との画像を探し、交換条件として男に送った。
………なんでセフレとのハメ撮りを消してないのかって?
…………聞くか?
「すっげえ女喘ぎまくりじゃん……えっろ……」
「こりゃ今日も楽しみだな……てかお前のデカすぎだろ…………」
零央の遺産を利用し、俺の手元にはそれなりの数の動画が集まった。どれもこれもレイプしている動画だ。相手は泣き叫び、中には暴行を加えられているものもある。
正直見ていられない内容ばかり………だがこれだけあれば証拠にはなる。
「………………てか連絡こないんだけど?まさかアイツすっぽかしたとか?」
「はぁ?マジかよんなことすんのかよソイツ……おいちょっとこっちから通話かけてみろよ」
男達が盛り上がっていると、女はイライラしながらスマホを見つめていた。リーダーらしき男も女の方へと駆け寄った。
あの様子だと栞がこの現場に来ることはないだろう。俺の言葉を信じてくれて助かった。
「まぁまぁそんな焦んなよ……な?」
「いやいや俺たちが何のためにここまで来たと――」
俺が落ち着くようにと話しかけると、男は怒りを露にしていた。あれだけ気分を高められたのだ。そりゃ我慢も出来ないだろう。
……なんて身勝手な連中だ。
ようやく手元に証拠も揃った。栞もこない。
ならばもうやることは1つ。
「な。落ち着けっ……て!!!」
ゴッッッスン!!!!
「ガッ…………!?」
俺は男の胸ぐらを掴むと、全体重を込めた頭突きを食らわせた。
「なに…………すん……てめぇ…」
「舌噛むぞ」
ガッッチン!!!!
男に事態の把握をされる前に今度は頭を掴み、頭蓋骨でも割るかのような勢いで頭突きをかました。
この一瞬の流れでリーダーらしき男は鼻から血を流しながら完全にノックアウト。残りの面子も何が何だかといった顔で、状況を掴み損ねていた。
「な、なにしてんのよアンタ……」
女は俺の突然の行動に怯え、地面にへたり込んでいた。
「あ?なにって…気にくわねぇだけだよ。寄ってたかって女を襲って……そりゃ楽しかったんだろうよ。テメェらはよ」
ここまでくれば我慢の必要もない。心の奥底から溜め込んできたフラストレーションが一気に爆発しているのが分かる。
それは俺だけじゃない。
井伏零央本人の感情も乗せられているように感じる。
恐らくは気のせいだろう。それほどまでにこのクズ共に対する怒りを抑えられない。
「どうする。逃げんのか?それもいいかもな。だけど……この動画。サツに持ってったらどうなるだろうな?」
「コイツ…………!!」
「舐めやがって!おい!全員でやるぞ!」
残った4人が怒りのままに襲いかかってくる。複数人相手の喧嘩なんて俺はしたことない。だけど頭は冷静だった。
なんてったって今の俺は……
「かかってこいクズ共。二度とその粗末なモノを使えないようにしてやる」
最強の悪役。井伏零央なのだから。
「さてと………気分はどうだ。ゲス女」
「殺さないで……やめて…………」
4人をなんの問題もなく返り討ちにし、残ったのは今回の元凶でもある女だけとなった。
「……泣いて許されると思ってんのか?今までそうして何人がお前らに謝ってきたんだよ」
「ワタシも……コイツらに脅されてて……」
一応筋の通る話かもしれない。だが俺は知っている。
そもそもこの女とリーダー格の男は昔からの知り合い。昔から自身が気にくわない女を騙し、コイツらに襲わせていた。その後も被害者を脅し、金銭を要求。まさしく外道。
これらは全て栞のルートで語られる内容だ。ゲーム中でのこのイベントは栞の好感度を上げ、この女からされた相談の内容を教えてもらうことで一旦は回避可能だ。
だがこの女は栞を陥れる事を諦めず、最終的には栞と付き合い始めた主人公を人質に使う形で栞を襲うことになる。
他にも様々あるが……栞が襲われてしまえばたどり着く結末は1つだ。
高校を辞め、消息不明となり、ある日のニュースで………………
「……俺はな。男女平等を掲げてるんだよ」
思い出すだけで怒りが込み上げてくる。
「や、やめ……て…………」
胸ぐらを掴み、おもいっきり殴りかかろうとしたその瞬間。
ニヤッ…………
女の口元が緩んだ。
なんだ。今この状況でなんで笑って………
「―――っが!!?」
突如として体に電流がはしった。脇腹に何かを押し付けられ、そこから意識が飛びそうになるほどの衝撃が全身を駆け巡り、そのままうつ伏せになるように倒れてしまった。
「あっはっはwwバカみたいwwwカッコつけちゃってさww」
笑ってるコイツじゃない。だとすれば……
「…………随分と、早い、お目覚めだな…」
「あんま人を舐めてっと……こうやって痛い目みるんだぜ…」
俺が最初にノックアウトさせたはずの男がスタンガンを手に持って、背後に立っていた。
「てか今ので意識飛ばないんだwwマジで化け物じゃんww」
「おいどうすんだよコイツ。このまま置いてくか?」
「とりまスマホのデータ消して~…また邪魔されても困るしさ、コイツが急に喧嘩売ってきたってことにして通報しよw」
クソが………最後の最後でしくじった……
「おいスマホどこにあんだよ教えろよ」
「うるせぇ………誰がテメエなんかに……」
「はいはい口だけは達者だな~っと」
マズイ…………このままじゃ……アイツが…
「そこで何をしている」
その時、俺たちしか居なかったはずの公園に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
凛としていて、カッコいい低い女性の声。
「…………なん…でお前が……」
普段の制服姿ではない。機能性で選んでいるのであろうシュッとした白いジャージを身に付け、俺たちの方を睨み付けてきていた。
「……なんだ来ちゃうんだ。連絡ないからドタキャンされたかと思ったのに」
「それは悪かった。色々と事情が重なってな。そしてもう一度問うが……君たちは一体何をしているんだ?」
栞からの問いにコイツらは顔を見合わせてため息をつき、仕方ないといった顔で男の方に指示を出した。
「こうなったら力づくっしょ」
女の合図で男は俺から離れると、スタンガンを手に持ったまま、栞の方へと近づいていった。
「バカ………逃げろ…………っ……」
「まさかあんたが会長さんに絆されてたとはねぇ…好き勝手してくれたお礼に特等席でぶっ壊すとこ見せてやるから感謝しなよww」
「………………」
栞は近づいてくる男に怯むことなく、ただジッと何かを見据えていた。
「ハッ……ムダにデカイ乳しやがって…壊しがいがありそうだなw」
「………どうした?貴様こそ成長期はまだか?私よりもいささか背が低いように見えるが。その様子では………ふっ…随分と粗末なんだろうな」
「…………テメェ!!」
「栞……………っ!!!」
一瞬だった。
「ふっ!!!!」
激昂した男が襲いかかったかと思えば、栞は一気に体制を低くして懐に沈み込み、次の瞬間には男の体は宙に浮き、豪快な音と共に背中から地面へと叩きつけられた。
「ガハッ…………」
「え……うそ……」
「死んでねぇよなアレ……」
見ていたこっちにもそのダメージが伝わってくるかのような見事な一本背負い。男は今度こそ完全に意識を失ったようだった。
「父から護身術を。幼い頃に柔術を習っていた私が、この程度の悪漢1人に遅れをとるわけがないだろう」
ちゃんと決め台詞まで言ってくれた栞を見て、俺はもうさっきまでの不安は全部どっかに飛んでいってしまい、その綺麗な立ち姿に完全に場違いな感想をのべてしまうのだった。
「…………超かっけぇ」
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