第9話 溢れる怒りを決意に変えて
6月21日金曜日。放課後。生徒会室にて。
「で、話ってのはなんすか会長さん」
俺は昼休みに呼び出された通りに、大人しく生徒会室へと足を運んだ。
栞のイベントはヒロイン達の中でもトップクラスにキツい。初めて見たときはしばらく引きずったものだ。
だからこそ栞の破滅フラグは何がなんでも折らなければならない。今回は裏でこっそり解決する予定だが……丁度良いから栞に一応話を聞いておくことにしよう。
「……ここ数日。ずいぶんと仲の良い後輩がいるそうではないか」
「あー……世良のことか?」
「そうだ。先週まではそのような素振りなど見せていなかったのに……一体何があったのだろうな?」
なるほど。俺が燈の事を脅してなんやかんやしているかもという話か。まぁそう疑われるのも仕方ない。どうにか誤魔化せると良いのだが……
「この前野球の試合見に行ったらよ。偶然隣に居てさぁ……そっから意気投合しちゃったんだよ」
「…………なるほど」
この言い訳は燈と共に考えていた内容だ。もっとも、燈自身からは「センパイの良いところは広めるべきです!」とかなんとかで粘られ、説得するのに小一時間かかった。
さて、これで納得して貰えれば楽なんだが………
「…………分かった。疑ってすまない」
「あ、はい」
うーん一撃。コイツこういう相談事に向いてねぇって。人の言うことあっさり信じすぎだろ。
「ま、まぁ……俺の人相は悪いしな。気にしないでくれよ。な?」
「………わ、私は人を見た目で判断するつもりはなくてだな…」
じゃあなんでこんなことを聞いてきたのか、と問いただしたい気持ちを抑え、今度は俺からの質問に移るのだった。
「…ところで会長さんよ。最近相談事とかされなかったか?例えば…2年の女子とかさ」
「…………されてないぞ」
「そうか……」
ダメで元々だったが栞は答えてくれなかった。だが表情からは焦りや怒りなどが感じられる。手も震えているし、さっきまで俺を真っ直ぐ見据えていた目は全く関係のない方を向いている。
「……君からの話はそれだけか?」
「そうだな。こんだけだ」
「………そうか。時間を取らせて悪かった」
栞から頭を下げられ、退室を促される。俺はそれに応じるように生徒会室の扉に手を掛け、言い残すように栞に言葉を伝えた。
「あんまり人の事を信じすぎるなよ」
「…………何が言いたい?」
「別に。世の中あんたみたいにカッコよくて立派な人間ばっかじゃないって事だよ」
俺はそう伝えるだけ伝え、生徒会室を後にした。
「さてと……」
これからの俺のやるべき事は大まかに分けて2つある。
1つ。事件発生を阻止すること。
まずこれが一番大事だ。燈の時とはレベルが違う。途中から助けに入った所でそれでは遅すぎる。今度こそフラグを事前にへし折る。イベントそのものを起こさせてたまるものか。
2つ。栞に俺がやったとバレないようにすること。
これは憶測でしかないのだが……今の俺と燈の歪な関係は助けてしまった事が本人にバレた事が原因にあるのではないかと考えた。つまりこっちは検証でもある。バレてしまったら……まぁ栞のことだ。簡単に誤魔化せるだろう。
というわけでひとまずは犯人を探すとしよう。ゲームではただの顔無しモブに過ぎなかったあの女を一体どうやって特定すればいいのか。ここ数日はずっと手がかりを探していたのだが、一向に見つかる気配がなかった。というか誰も俺と話そうとしてくれない。これじゃあ調査もままならない。
そう悩みながら生徒会室から帰っていると、待ってましたと言わんばかりに1人の女子生徒が俺に近づいてきた。
「ねえアンタさ。さっきあの女と話してたでしょ?」
「あの女?」
「とぼけなくていいって。ほらあの口うるさい会長様だよ」
「あぁ……なるほど」
鴨がネギを背負って…というのはまさに今のこの時の為にある言葉だろう。恐らくコイツこそが全ての元凶の女だ。
「そうだな。説教されちまったよ」
「マジウザいよね。偉そうにさ」
「………アンタの評判は知ってる。こっち側だって」
「…………そうだな」
昔の話だ。今は違う。
が、その悪名も利用するだけさせてもらうとしよう。
「今さ、アイツをぶっ壊そうって話しててさ。アンタもどう?」
「………面白い提案だな。ところでお前はアイツに何かされたのか?」
「え、……別に…普通にウザくね?学校にメイクしてきて何が悪いのって話。自分は美人だからって上から目線でさ。ムカつくっしょ?」
たったそれだけ…………
そんなしょうもない理由で栞は…………
「…………っ………そうだな、ムカつく」
俺はなんとか怒りを抑え、このクズの意見に賛同した。今ここでこの女をぶん殴って全てが解決するなら喜んで半殺しにする。
だがそんなことをしてしまえば俺は最低でも停学は避けられない。その間に問題が起こったらどう対処すればいい。今は燈の事だってあるし、それに…………
「…………実行はいつだ?」
「話早くて助かるわw来週アイツを夜中の公園に呼び出して……後はとりま皆で押さえつけて車に押し込んで…クスリ盛ってから適当にかな?」
「詳しい場所とか時間は来週また伝えるからwんじゃよろしくーww」
勝ち誇っている女は笑いながらどこかへと去っていった。
……それが今から他人の人生をぶっ壊そうっていう人間の態度なのか。
生半可な方法じゃこういう奴らは反省しない。もし今回の件を解決したとしても、これから先、別の被害者を生むかもしれない。
犯罪者共に容赦や慈悲なんていらない。
あの女を殴るだけでは気が済まない。
俺が全員まとめて……ぶっ潰してやる。
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