第6話 ボクっ娘ヒロインは見られたい
燈と連絡先を交換した翌日。駅のホームに到着した電車に乗り込んだ時のこと。
「…………ぁ……」
今日は早めに目が覚め、いつもよりも早い時間の電車に乗ったせいか、燈と電車の中でバッタリ出会ってしまった。
どうしたものかと悩む間もなく後ろから押され、気づけば車内は人に溢れ、俺と燈は向かい合って密着する形になってしまった。
「……悪い」
「いえ。大丈夫です」
なんとなく悪いことをしているようでつい謝ってしまう。だが燈はそんなこと気にしていないようでニコニコと笑っていた。
高校の最寄り駅までは3駅ほど。この気まずい空間も少しの辛抱だ。
そう考えて燈から目をそらし、ひたすらに気にしないようにしていると、突然ポケットに入れていたスマホに通知が届いた。
こんな状況で確認出来るわけもなく、一旦スルーしようとしていたのだが、すぐに燈から脇腹をつつかれた。
急になんだと思い燈の方を見ると、燈はスマホで口元を隠し「見てくれないんですか…?」的な視線を送ってきていた。
そんな燈のかわいらしい瞳に負け、仕方なく通知を確認してみることにした。
どうやら燈から送られてきたのは画像のようで、開いてみないと通知だけでは内容が分からないようになっていた。
一体何を………
「ブフッ!!!!?」
メッセージを開いた先にあった画像を見て思わず吹き出してしまう。周囲の乗客から一瞬白い目で見られ、すぐに平謝りした。
にしても…………!!
「おい……なにしてんだお前…………」
「………………」
なるべく小さな声で燈に語りかける。だが燈からの返答はなく、今度は燈の方が俺から目をそらしてしまった。
だがその燈の口元は緩みきっており、何かしらのミスではないということだけは分かった。
「おい…………」
高校の最寄り駅に着き、ふたりで電車から降りた後、周りから人が消えたのを確認してから燈に話しかけた。
「お前……こういうのはやめろって言ったよな?」
「……………ごめんなさい」
燈から送られてきていた画像は至ってシンプル。制服姿の燈がスカートを捲し上げ、下着を見せつけている自撮りだったのだ。
俺から怒られた燈はとても申し訳なさそうにしながらもどこか嬉しそうだった。
「そもそもなぁ……送るんだったらせめて宮野に送れよ」
「…………センパイに送ったら変態扱いされちゃいますから。それに……センパイとは、少し気まずくて」
「……今度はなにしたんだお前」
「………実は井伏先輩が屋上から消えた後、楓センパイと話したんです」
「本当に何もされなかったんだな!?」
楓センパイはボクの事を凄く心配してくれて、その事はとても嬉しかったんです。でも…
「何があったかは知らないけど…もうあんな奴についていくなよ?危ない奴なんだから…」
「……ッ…あの人はそんな人じゃないです!」
楓センパイは井伏先輩の事を勘違いしてるみたいで、井伏先輩に関する沢山の噂を聞かされました。
だけどボクにはそれらがどうしても信じられなくて、口論になってしまって……
「お前になにかあったら桜が悲しむだろ!!」
……って言われちゃって。なんだか、それがすっごく引っ掛かって。
「……ッ!!!」バチン!!!!
「センパイのこと…ビンタしちゃいました」
「マジでお前ら………」
主人公が語った俺の噂というのは大体が本当のことだろう。喧嘩ばかりで、女癖が悪く、そもそも学校にすら録に来ていなかった奴だ。実際零央の連絡先にはそういう関係っぽい奴らが沢山いる。ソイツらにはなんとか誤魔化してきてはいるがこれもいつまで持つことやら……っと、これは今は関係ないな。
とりあえずの目先の問題は、主人公君の選んだ言葉にあるだろう。
なんだよ桜が悲しむって。違うだろバカか?ギャルゲしたことないのか?そんなんだからヒロイン達を守れないんだぞこのシスコンが。
「……薄々分かってはいたことなんです。センパ…楓先輩はボクのこと、1人の女子というよりは大切な妹の友達としてしか見てなかったんだって」
「そ、そんなことは…ないんじゃないか?」
ほらまた病もうとしてる!やめてくれよ俺の知らないフラグを立てようとするのは!流石に知らないものは対処出来ないんだぞ!?
「………やっぱり井伏センパイは優しいですね。こんなボクの事を励ましてくれる」
「だから『こんな』とか言うのはやめろって」
「………じゃあ、どうですか?」
「……は?」
燈は未だ無人のホームでスカートに手を掛けると、小悪魔のような笑顔で語りかけてきた。
「ボクは……かわいいですか?」
「…………かわいいに決まってんだろ」
「……さっきの写真。興奮しましたか?」
「………あぁしたよ。悪いかよ」
なんで俺は年下の女子からそんなこと聞かれなきゃいけねぇんだよ。恥ずかしすぎるだろ。
「……確認。したくないですか?」
「なっ…………ちょ!!?」
燈はスカートを少しずつたくしあげていき、遂には………………
「……………………おい」
「なんですか?当然ズボン履いてますよ?」
スカートによって守られていた領域に隠されていたのは画像のような赤い下着ではなく、うちの高校の体育用のズボンだった。
「もしかして…女子のスカートの中見たことないんですか?そんなに必死になって……センパイもかわいいですね」
「この野郎…………!」
なんでエロゲのヒロインのくせにそこはちゃんとしてるんだよ。いやちゃんとしてくれて助かったけど!
「やっぱりあの噂は嘘だったんですね。本当に女癖が悪かったらこのくらいで動揺しませんよ」
「人をからかうのも大概にしとけよ世良…」
そういえばゲーム中の燈もルートに入ればこんな感じだった。性に無頓着かと思えば意外と興味津々で、常に主人公をからかってきた。まぁSNSであんなことをしてしまう奴だ。もともと興味がないわけではなかったのだろう。
「……やっと名前で呼んでくれましたね」
「あ?…………あーそうだったか?」
「そうですよ。ボク不安だったんですから」
「…………それは悪かったよ」
ダメだ。こんなかわいい女子と面と向かって話したことなんて今まで無かったから嬉しさと気恥ずかしさでなんも言葉が出てこない。燈の方を見ることすら出来ない。あれだけ主人公に文句言っておいてなんという体たらく。情けない。
「そんなかわいいセンパイに、ご褒美です」
「今度は何を……………ぉ……」
またしても燈に声をかけられ、もう何をされても動揺しないぞと心に決め、再び燈の方に向き直した。
「おま……それ………………」
燈は左手でスカートを持ち上げたまま、空いている方の右手でズボンを少し下げており、そこから赤い色の布地がチラ見えしていた。
「まだ、ボクは自分に自信が持てません。だから…………これからも、ボクのこと、ずっと見て、自信が持てるまで、かわいいって褒めてください」
どうしてこうなったのかは分からない。無理矢理フラグをへし折ったせいなのか、それともこの今の状況自体が燈の新しいイベントなのか。
分からない。分からないが…………
「いいですよね。……零央センパイ」
どうやら俺が完全に選択肢を間違ってしまった事だけは確かなようだった。
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