第4話 フラグは無理矢理へし折るモノ
ついに訪れた6月14日金曜日。今日の放課後、燈は部活の先輩から脅され、レイプされることとなる。
なんとか燈の裏アカらしきモノは発見できたが、時既に遅く、事件のきっかけとなる裸の自撮りが投稿されていた。
だがもし事前に見つけられたとしても止めなかっただろう。そもそもあの男子がどの段階で燈に気づいていたかは分からない。ていうか顔も名前も分からない。ただのモブ野郎だ。
俺が先に燈を脅し、投稿をやめさせたとしても、あの男子はもっている写真を使って脅したことだろう。そうなれば事件発生のタイミングがズレるかもしれない。燈には怖い思いをさせてしまうが、ゲーム通りに進行して貰った方が都合が良い。
………やっぱり最初にしては理不尽なイベントだ。事件の根本となっている燈の裏アカ自体の作成を止めることは出来ない。それが出来ればどれだけ楽だった事か。
ゲーム中で燈のこのイベントを防ぐことが出来るタイミングは6月10日の昼休み。弁当を貰った際に「一緒に食べる?」という選択肢を選べばいい。ちなみにこの選択肢は1週目では出てこない。というか1週目では誰とも付き合えない。全員揃って主人公の元から去って終わり。人の心とかないのか?
それにしてもどうしたものか。フラグを折るなんて決意したくせに結局当日まできてしまった。だって話しかけようにも逃げられるんだもんなぁ……人相悪すぎるぞ俺。
幸い、今の段階では写真を持っているのは脅してくる男子のみ。だが次第に要求はエスカレートしていき、燈を自分の道具だと勘違いし始めたそのカスは周りの部員にも話を広げていくことになる。
……燈も燈で少しずつ壊れていく。女の子としての自分で興奮してもらっている事に快楽を覚えるようになる。恐らくは現実逃避なのだろう。あの堕ちっぷりは見ていてなかなかに辛かった。
仕方ない。こうなったら実力行使だ。少しダサいかもしれないが、そんなプライドなんて捨ててしまおう。折角こんな筋肉を持った男に転生したのだ。主人公にはない圧倒的な暴力で解決するとしよう。
「なぁ世良。ちょっと良いか?」
「はい!」
放課後。1人の男子生徒に連れられ、部室の方に消えていく燈を発見。俺はバレないように、少し間をおいてその後を追いかけることにした。
そんなこんなで男子陸上部の部室に到着。聞き耳をたててる暇なんてないだろう。少しでも酷いことをされれば一生の傷がつく。
恐らく鍵は閉めてある。部室も確かそこそこ広いはず。わざわざ扉に近いところで人を襲わないだろう。
ならば…………!
「……ふんっ!!」
俺は全力で扉に蹴りを放ち、蹴破ることに成功した。
「なっ…………!!!?」
「ぇ…………」
中では燈の服を脱がそうとしているクズ野郎と、涙ぐんでいる燈がいた。
………いざ目の当たりにするとかなり辛い。これから先の展開を知っているから余計にそう感じる。
「な、なにしてんだよ!いきなり――」
クズは俺に向かって威勢よく叫ぼうとしたが、俺は間髪いれずに思いっきり顔面をぶん殴った。
「うるせえ黙れ」
現場を見てしまったことで散々燈を寝取られてきた俺の怒りが溢れ、つい手を出してしまった。
「な、なに…すんだよ…………」
一撃で戦意喪失した男の胸ぐらを掴み、なるべく目付きを鋭くし、ドスの聞いた声で語りかけた。
「人のもんに手ぇ出してんじゃねぇよ殺すぞ」
「ヒッ…………」
俺は起動したままになっていたコイツのスマホを操作して、画像フォルダを開いた。中には燈の自撮りが保存されており、俺はそれらを全部消してやった。
「………おい。いつまでつったってんだ。とっとと練習に戻れ」
「…………ぁ、は、はい!」
そんな一部始終を眺めていた燈に声をかける。誰かがそのうちやってくるかもしれない。その前に燈には逃げてもらわないと困る。
脱兎の如く部室から駆け出していく燈。俺は今後この男が燈に絡まないように念押しすることにした。
「センコーにチクってみろ。さっきまでのお前らの会話、全部録音してあっから。ずいぶんと楽しそうだったな。後輩の女を脅すのがそんなに気持ちよかったか?…………二度とあの女に触れるなよ。次やったら…分かるよな?」
「………………分か…りました…」
録音なんてもちろん嘘。いくらなんでも扉越しに出来るわけがない。
だが今のコイツにそんな判断は出来ないだろう。自分の保身の方が流石に大事に決まっている。
完全に意気消沈した男を部室に残し、俺もさっさと部室から去ることにしたのだった。
これでひとまずは解決だと思いたい。無理矢理へし折ることにはなったが………あんな明るい子が曇るのはもう耐えられない。
俺のこの行動がどのようにシナリオに絡んでくるのかは分からない。もしかしたら別のイベントが発生する可能性もある。
「……何かしら手を打たねぇとなぁ」
何事もなかったかのように練習に戻っている燈を眺めつつ、今日のところは帰宅することにするのだった。
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