第3話 『ボクだって女の子らしく…』

「ねえねえ。桜ってお兄さんいるんだよね?」


「うん!めっちゃ優しいんだぁ!」


 高校に入学して初めて出来た友達の宮野桜ちゃん。とても明るくて、ボクとは違ってとても女の子らしい。


 そんな彼女には自慢のお兄ちゃんがいるらしい。名前は宮野楓。桜はお兄ちゃんの事が大好きなようで、隙あらば自慢ばかりしていた。


 そんなある日、桜の家で遊んでいると噂のお兄ちゃんが帰ってきた。


「いつもうちの桜がお世話になってます」


「んな!?そんなに迷惑かけてないよぉ!?」


「……はい!ちゃんとお世話してまーす!」


 お兄さんはいつも物腰柔らかで、こんな見た目のボクの事をいつも1人の女子として扱ってくれた。


 ボクはそれがとっても嬉しくて、お兄さんと話すために暇さえあれば家に転がり込んでいた。


 中学まではボクの事を女子扱いしてくれなかった幼稚なお子様とは違って、先輩でもあるお兄さんはとっても大人っぽくてカッコ良く見えていた。


 いつまでも…お兄さんに見てて欲しいなって…思ってたんだけど……


 でも…………



「え、今回はテスト勉強うちでするの?いいけどさぁ……汚いとか文句言わないでよ?」


「いやぁ俺の家だと今年は桜達がいるからさ。マジ助かる。今度何か奢るよ」


「…………お高いアイスが食べたいな」


 中間テストの前、移動教室の時にお兄さんとすれ違うことがあった。お兄さんの隣にはふわふわしてる可愛い人がいて、とっても楽しそうに会話していた。


 後から桜に聞いた話ではその人は幼なじみらしい。おっぱいも大きくて、ボクなんかより可愛かった。


 それに、お兄さんの表情もボクと話してる時よりも、なんというか子供っぽかった。




 やっぱりボクなんかより、女の子らしくて、おっぱいが大きい方がお兄さんも好きなんだ。

 こんな細くて、筋肉ばっかの、胸もないボクの事なんて誰も見向きもしてくれないんだ。



 そんなくだらないことを考えるようになったある日、部屋でのんびりと動画サイトを見ていた時だった。


 現実から逃げるように何か練習に生かせる動画でもないかと陸上関連を漁っていると、とある動画が再生数が多いことに気づいた。


 それは誰かが上げていた高校生の女子陸上の大会の動画。何か凄い選手でもいるのかと見たが、対した内容ではなかった。


 一体何がここまで再生数が伸びているのか気になったボクは、コメント欄を開いてみた。




 それは正直見ていて気持ちの良いものではなかった。大半のコメントは試合の内容より、選手の着ているユニフォームの話をしており、下心にまみれたコメントばかりだった。



 ……なのに、嫌なコメントばかりだったのに、どうしてだかボクはドキドキが止まらなかった。


 当然嫌悪感もあった。



 でもそれ以上に…………



「ボクも……女の子として…皆に興奮してもらえる…………のかな……」



 それからのボクの行動は早かった。とりあえず体操服に着替え、顔や校章を隠して写真を自撮りをとった。悪いことをしてるみたいで、止めなきゃいけないのは分かっていたけど、女の子として認められたいという一心でアカウントを作り、SNSに自撮りを投稿した。


 最初は反応なんて無かった。それで止まっておけば良かった。すぐに消すべきだった。


 でも、数日後にその投稿に反応がきた。


【めっちゃかわいい!もっときわどい写真が欲しいな】



 ………そこからはもう、止まれなかった。




 段々と増えていく反応。皆がかわいいって褒めてくれて、えっちだって興奮してくれて、次を、次をとせがんできた。


 そして6月に入った頃。ついに踏み越えてはいけないところまで到達してしまった。


【下着を脱いで欲しい】【生のおっぱいが見たい】【顔を半分で良いから見たい】


 おかしくなっていたボクですら、すぐにそれら要望に答えることは出来なかった。


 それをしてしまえば二度と戻れなくなる。絶対にダメなのは分かっていたのだ。


 そう悩んでいると、お兄さんが弁当を忘れているという話を桜から聞いた。

 ボクは桜を説得し、代わりに昼休みに届けることにした。


 もしかしたらお兄さんに止めて欲しかったのかもしれない。

 お兄さんならボクが悩んでることを見抜いてくれるかもしれない。


 そう……思いたかった…………





 教室にたどり着き、中の様子を伺った。扉の近くにはすっごい強面の男の人がいて、ちょっと怖かったが、ボクは勇気を振り絞って教室の中へと飛び込んだ。



「センパーイ!」

「センパイが忘れたお弁当を桜の代わりに届けにやってきました!」


 元気良く、ボクらしく、お兄さんに弁当を手渡した。


「わざわざありがとな」


 お兄さんはいつもみたいな笑顔で感謝してくれて…………それで…………



 すぐに幼なじみの人の方を向いた。










 6月14日金曜日。今日も今日とて部活に取り組んでいた。夏の大会も近く、先輩達と練習できる時間も少ない。忙しくて自撮りもあの日のリクエスト以来投稿していない。



「なぁ世良。ちょっと良いか?」


 練習中、男子の先輩に声をかけられた。


「はい!」


 先輩に連れられ、男子の部室まで連れてこられる。何やら秘密の相談があるとの事だ。中まで案内され、一体何を…………



「これさ、世良だよな?」


「ぇ………………」



 先輩が見せてきたスマホに写っていたのはあの日、お兄さんに全てを託したあの日に投稿したえっちな自撮り。口元が出ていて、上半身裸のあられもない姿を晒しているボクの姿だった。


「それは…………ちが………」


「いやいや。このアカウントって世良のだろ?体操服とかうちのだし、校章隠したくらいじゃバレバレ。それに口元のほくろとか一緒じゃん」


「………………ぃゃ……ほんとに……」


「はいはい。じゃあ違うなら男子のグループに拡散するわ。世良に似てる女子の裸とか皆食いつくだろうなぁ……」


「ッ…………やめて……ください……」


「…………なら分かるよな?こんな自撮りネットにあげるくらいなんだし。頼み方ってものがあるよなぁ?」


 先輩から壁に追いやられ、顔を近づけられる。


 イヤだイヤだイヤだ。


 お兄さん以外に…………触られたくないのに…………やめて…………


「安心しろって。世良の努力次第で写真も消してやるからよ」



 やだ…………………




 助けて…………お兄さん………………

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