特に何も起こらない異世界キャンプ（ウサギさんとの交流）

エピローグ

「ねぇ。あんたも異世界（いせかい）に行（い）ってるんでしょう？　見（み）たら分（わ）かるわ」

　大学（だいがく）で同級生（どうきゅうせい）の女子（じょし）に、そう言（い）われたときは驚（おどろ）いた。彼女（かのじょ）によれば、能力者（のうりょくしゃ）の頭上（ずじょう）には点（てん）みたいなマークが浮（う）かんでいるそうだ。言（い）われてみれば、鏡（かがみ）で自分（じぶん）の姿（すがた）を見（み）ても、そのマークを確（かく）認（にん）できた。きっと能力者（のうりょくしゃ）にしかマークは見（み）えないのだろう。

　すっかり仲良（なかよ）くなって、現代（げんだい）世界（せかい）でも私には友達（ともだち）ができた。私と同（おな）じく、今年（ことし）の初（はじ）めに能力（のうりょく）が発現（はつげん）したそうで、大学（だいがく）での会話（かいわ）は自然（しぜん）と異世界のことになる。

「いやー、驚（おどろ）いたの何（なん）のって。向（む）こうの世界（せかい）って凄（すご）いのよ。ウサギちゃんが一杯（いっぱい）いて、賑（にぎ）やかだったわぁ」

「え、貴女（あなた）が行（い）った世界（せかい）にも、獣人族（じゅうじんぞく）が居（い）たの？　それも複数（ふくすう）？」

　ウサギ耳（みみ）お姉（ねえ）さんみたいな方々（かたがた）が大勢（おおぜい）いるのだろうか。そういう街（まち）があるのかと気（き）になった。

「獣人族（じゅうじんぞく）？　何（なに）、言（い）ってんの。レズ風俗（ふうぞく）の話（はなし）に決（き）まってるでしょうよ！　異世界って規制（きせい）が緩（ゆる）いのよねー、バニーガールの店（みせ）があって濃厚（のうこう）なサービスをしてくれたわぁ」

「……ちょっと予想（よそう）と違（ちが）ったけど、気（き）になったから聞（き）くわ。異世界のお金（かね）は持（も）ってたの？」

「持（も）ってる訳（わけ）、ないじゃん。でも異世界（むこう）の風俗店（ふうぞくてん）って、別（べつ）の世界（せかい）からの客（きゃく）に慣（な）れてるみたいでね。通貨（つうか）の代（か）わりに、珍（めずら）しいアイテムを渡（わた）せば利用（りよう）させてくれるのよ。あたしはスマートウォッチを持（も）ってたから、それを渡（わた）したわ」

「え、だって異世界はオフラインだから、大（たい）した機能（きのう）は使（つか）えないんじゃない？」

「そうだけど、ダウンロード済（ず）みの音楽（おんがく）は聴（き）けたりするからね。異世界（むこう）って、日本語（にほんご）の文字（もじ）は通（つう）じないけど、話（はな）せば言葉（ことば）は伝（つた）わるじゃない。理屈（りくつ）は分（わ）からないけど。だから音楽（おんがく）を風俗店（ふうぞくてん）の店長（てんちょう）に聴（き）かせたら、喜（よろこ）ばれてさ。異世界（あっち）で物（もの）を渡（わた）しても、現代（こ　っ）世界（ち）では無（な）くならないから、くれてやったわ」

「ああ、そう……でも異世界じゃ充電（じゅうでん）できないから、すぐに使（つか）えなくなるわね」

「そこがポイントよ。あたしが現代世界へスマートウォッチを持（も）って帰（かえ）れば、一瞬（いっしゅん）で充電（じゅうでん）された状態（じょうたい）に戻（もど）せるでしょ？　だから店長（てんちょう）と交渉（こうしょう）して、あたしが無料（むりょう）で今後（こんご）もレズ風俗（ふうぞく）を利用（りよう）できるようにしてもらったわ。代（か）わりに、あたしが今後（こんご）も充電（じゅうでん）をして、返（かえ）してあげるって訳（わけ）。異世界との行（い）き来（き）は瞬時（しゅんじ）にできるしね」

　その後（ご）も彼女（かのじょ）は私に、延々（えんえん）と風俗店（ふうぞくてん）の素晴（すば）らしさを話（はな）してくれた。大人（おとな）になれば、こういうこともできるってことなのだろう。彼女（かのじょ）の話（はなし）は色々（いろいろ）と勉強（べんきょう）になった。反面（はんめん）教師（きょうし）として。

　私にはできない生（い）き方（かた）だけど、タバコを吸（す）うようなもので、多少（たしょう）の汚（よご）れを抱（かか）えながら生（い）きていくのも大人（おとな）になるってことなのだろう。悪友（あくゆう）の汚（よご）れた話（はなし）を聞（き）くのもそれなりに楽（たの）しくて、とりあえず私は、早（はや）くウサギお姉（ねえ）さんに会（あ）って魂（たましい）に付（つ）いた汚（よご）れを取（と）り払（はら）ってもらおうと思（おも）った。