第10話
さて、母ちゃんがチートなことを知ってから数日が経ったある日の朝食。
「燈矢。今日から亜衣夏が同席している時に限り、魔法の使用を許可するよ。いいかい?それ以外の時は使ってはダメだからね」
やっと父ちゃんから魔法のお許しがでた。母ちゃんがいないとダメと言われるが、大丈夫。魔法を使いたいけど、俺は死にたくないんだ。ちゃんと5歳になるまでは母ちゃんと使うよ。
「この後は私が魔法を教えてあげるわね」
「やった。ありがと、とうさん、かあさん」
という事で母ちゃんとみやと俺の3人で裏庭にやってきました。
「さて、今日から魔法の事を実技も踏まえて教えていくわね。美弥にはサポートして貰うのと、万が一の際に人へ連絡する為に来てもらったわ」
「そうなんだ。よろしくおねがいします。かあさん、みや」
「はい。燈矢さま。お任せ下さい」
「じゃあ始めましょうか。先ずは魔法を使うための魔力の練り方からいきましょう。燈矢、早速だけど、美弥にみせたって言う魔法を使える?」
「うん。できるよ」
俺は目を閉じて集中する。俺はあの日以降魔法は使用していないが、ステータスを定期的に開いて感覚だけは忘れないようにしていた。
芯から温まるような感覚から、手のひらに水が出来るイメージを……
……よし、できた。今回は前に母ちゃんが出したバレーボールくらいの大きさの水球にした。前より大きめに作ったからか、何かが抜ける感覚が前回より大きい。
「これでいい?」
母ちゃんの反応を伺うと、ニコニコと微笑んでいた。まぁ母ちゃんも無詠唱出来るみたいだし、氷も出せるみたいだからこの程度じゃってことか。
現在の俺の目標は、母ちゃんの事をビックリさせることだ。いつか魔法で凄いことをして驚かせたいもんだね。
「ええ。魔力の練り上げや魔素干渉力は十分及第点よ。問題は消費魔力量だけど、どのくらい使った?」
ふむ。確かにどれくらいこの魔法で使うかは大事だよな。ステータス
ブォン
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名:緋野 燈矢(ひの とうや)2歳
職:緋野家の2歳児
Lv:1
経験:0
生命力:30
力:3
魔力:94/100
適性:火、水、生、死
スキル:
装備:良質な子供服(1)
G:0
9:42
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おぉ、また魔力が増えてる。実はこの魔力、ステータスを見ると偶に増えてる事がある。なんだろう、ステータスで魔力を感じる動作が魔法扱いされて増えてるのかな。
ちなみにステータスの表示だが、人に見られたくないと思えば自分にしか見えない様に出来るし、見える部分を指定する事で限定的に見せたり出来るようだ。
世の中の人は名前の部分を見えるようにする事で、お互いの自己紹介や本人証明をするらしい。
まぁ、そんな事は置いておいて魔力消費量だが…… あれ?意外と少ないな。前より大きいの作ったから、もっと使うと思ってたんだけど。
「ぜんぜんつかってない。そうりょうから5しかつかってないみたい」
「そう。魔力効率も凄くいいのね。そうねぇ、魔力の練り方や魔素干渉を強引にやってたと思ったんだけど、いい意味で当てが外れたわね。魔力の練り方と干渉の仕方は今のままでいいわ。問題は魔法が完成するまでの時間を如何に早くするかなんだけど、魔力操作を鍛えるしか無いわね。魔力操作って言うのは、より精密に、高威力に、素早く魔力で魔素に干渉する事で魔法を完成させる為の力よ。これを鍛えるにはとにかく色々な魔法を数で練習するしかないわね」
なるほど、母ちゃんは俺が技術もなく力技で使えたと思っていたが、蓋を開けてみれば意外と様になっていて、最低限は大丈夫なようだ。後はこのまま発動の速さを鍛えるしかないと。
けど、詠唱を教えてもらえれば、それだけで使えるんじゃないのかね?
「ねぇ、かあさん。えいしょうをおぼえれば、まほうをつかえるんじゃないの?」
「あら、燈矢は詠唱で魔法が使いたいの?それならそれでも良いのだけれど、せっかく無詠唱で魔法が使えるんだもの。魔素干渉力を鍛えたりするのにちょうど良いのよ。それにね、最初は大変かもしれないけど、無詠唱を自由に使えたら詠唱よりも素早く、高い威力の魔法をバンバン出せるようになるわよ。私も無詠唱を使えるようになってから魔法を使える速度が上がったから、私的には無詠唱から練習するのがオススメね。詠唱になれてしまうと、この間言ったように魔素干渉力が退化してしまうわ。せっかく高い干渉力を持っているのだから、それを維持し上昇させるのが、燈矢にとっての一生の課題かもしれないわね」
なるほど、確かにせっかく高度な事ができるならそっちを育てた方がいいな。無詠唱から詠唱は出来ても逆は難しいという話だし。
それに一生の課題か。俺的には母ちゃんを超えるのが一生の課題な気がする。
「けどね、無詠唱と詠唱。両方できて損は無いから、詠唱はまた教えるわね。
それで魔力操作の練習方法なのだけど、繰り返しつかって練習する時に、できるだけ早くという点と、どれくらい精密に、高い密度で作られているかのバランスが鍵になるのよ。例えば、いくら早く魔法を作れても、魔法密度が低いと威力は落ちてしまう。逆に密度が高くても、早さが遅いと使い所が限られてしまうわ。少しやってみるわね」
そう言って母ちゃんは1つの拳くらいの氷の塊を作り出す。
「これは早いけど密度が凄く薄い魔法よ。美弥、土の壁を出してくれる?」
「はい。奥様。『母なる大地よ、我が身を守るため、力を与えよ』」
おぉ、みやの前に大人が隠れられる高さの土壁が現れる。横幅は3人くらい隠れられそうだ。
「見ててね、燈矢」
ヒュッ──
── パリンッ
母ちゃんが飛ばした氷は壁にぶつかり、傷をつけることなく砕け散った。
「見ての通り作るのは早いけど、密度が低いから傷を付けることは出来ないわ。けど──」
おぉ、母ちゃんの手から次々と氷を作って飛ばしていく。
「こんな感じに連発して相手の牽制とかに使えるわ。まぁ、当たっても大した痛くないからお遊びようね。次は時間がかかるけど密度の高い魔法を作るわ」
そして母ちゃんは時間をかけてさっきと同じ大きさの塊をつくる。時間としては1分くらいだろうか、そこそこ長い時間をかけて魔法を作っていた。
「これが遅いけど密度の高い魔法」
ヒュッ──
── バゴンッ!!
おぉ、すげえ、小さいのに土壁が粉々だ。
「見ての通りに威力は高いけど、時間のかかりすぎね。実戦だとこの時間の間に相手に攻撃されるし、前衛のカバーが間に合わない。だから使えるとしたら奇襲を仕掛ける時や相手をアウトレンジで叩ける時の2つね。それに美弥が出してくれた土壁は詠唱する魔法の中で中位の魔法。本来あそこまで密度を高めなくても壊せるから、その分魔力量も無駄になるわ。美弥、もう一度壁をだしてくれる?」
「はい。奥様。『母なる大地よ、我が身を守るため、力を与えよ』」
ふたたびみやの前に壁がでる。
「いくわよ」
そして母ちゃんも氷の塊を素早く出し、それを飛ばす。
ヒュッ──
── バンッ!
おぉ、確かに壁を壊せているが、さっき程粉々になっていないし、下の方が1/5くらい残ってる。
「見ての通り、このくらいの威力でちょうど良いのよ。こんな風に相手や物によって適度な速度、適度な威力で魔法を使う必要があるわ。だから魔力操作の練習をする時は、これを意識してやるようにしてね」
なるほど、早くて雑になっては魔法自体が使い物にならなくて、丁寧に作りすぎても時間が掛かりすぎてその隙にやられてしまう。だから出来るだけ早く、そして相手に効果的な分の威力を出せるようにする。
オーバーキルは確実に倒せるから万歳だが、魔力量がその分無駄になるからよろしくない。それが無視できるだけの魔力量があれば良いんだろうけどね。
「うん。わかった。きをつけてやってみる」
「あとそうね、まだ魔法を飛ばしたり、撃ったりはした事ないわよね。だからその練習も並行してやりましょう」
そして母ちゃんに指導して貰いながら魔法を作り、飛ばし、みやの作った石の人形に向けて撃つ。その練習を繰り返した。
そして魔法を飛ばす事はすぐに出来た。正面に手を向け、指で弾くイメージをすれば簡単に飛ばせる。だが撃つとなると話が違った。全然真っ直ぐ飛ばないし、飛距離もまばらで凄く難しい。距離は10メートル程で、そこまで遠くない。
たまに当たるが、次を撃つと当たらず、正に、下手な鉄砲数打ちゃ当たる。という状態だった。感覚的には20撃って1当たる感じ。
そうそう、普通こんなに魔法を使ったら、今の俺の魔力量じゃすぐ空になってしまう。だからある程度使ったら母ちゃんに魔力を分けてもらっている。
なんか生の魔法の中に、自分の魔力を他者に譲渡する魔法があるようで、お陰様で俺は魔力不足に悩まないで練習できている。更にこの魔力譲渡は、魔力量を鍛えるのに物凄く便利らしい。俺に譲渡した時点で俺の魔力になり、それを使う事で魔力量が鍛えられるようだ。実にいい。明日の魔力量がどれだけ増えているか楽しみだね。
まったく、母ちゃん様々だよほんと。足を向けて寝れないね。
そしてお昼休憩を挟み、時刻は夕方。ようやく少し様になってきた。
ヒュンッ──
── バシャッ
「ふぅ。つぎ」
ヒュンッ──
── バシャッ
「はぁ、はぁ、はぁ」
「大丈夫?燈矢」
「うん。だいじょうぶ」
ヒュンッ──
── バシャッ
ッやべ、ちょっと目眩がしてフラフラする。
「燈矢、ここまでにしておきましょう。少し魔力酔いをしかけているわ。それに凄いじゃない。今日一日で的に当てられるようになるんだもの。私驚いちゃったわ」
母ちゃんがふらつく俺を支え、近くのベンチに運んでくれる。
「燈矢様、どうぞお水です。よく頑張りましたね」
「ありがとう。かあさん、みや」
「本当に凄いわ。初めて魔法をまともに使って、もう狙ったばしょに当てられるようになるんだから。今日はもう晩御飯を食べたらゆっくりと休みなさい」
みやに貰った水を飲みながら母ちゃんの話を聞く。
「さ、少し休んだらお医者さんの所に行きましょう。軽い魔力酔いだから大丈夫だとは思うけど、何かあったら大変だからね」
そうだった。医者に診てもらうんだった。まぁ魔法を使う為だ、面倒臭いとか思わないで5歳までは我慢しよう。
「けど、なにかあったら、かあさんがなおしてくれるんでしょ」
「ふふ。当たり前じゃない。貴方のことは、私が絶対に護るわ」
母ちゃんは俺の頭を優しく撫でてくれる。その感触が気持ちよくてそのまま身体を委ねていた。
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