第9話


 恥ずかしい。恐らく今の俺の顔は真っ赤になっている事だろう。


 確かに俺は2歳だ。親の胸で泣くのは普通のことだし、何もおかしな事は無い。だが俺は精神年齢33だ。最近なぜか精神が子供の方に引っ張られそうになる時があるが、羞恥心はまだ大人のつもりだ。


 母ちゃんは俺が泣いている間、優しく抱きしめ背中を優しくトントンしてくれていた。その優しさが嬉しくて、また涙が出てくるという無限ループ。多分10分くらい涙を流していたんじゃなかろうか。


 あぁ… 穴があったら入りたい。


「少し落ち着いたかしら。ふふっ、こうやって泣いてる燈矢を抱きしめるのって初めてかも知れないわね。まだ喋れない時期はご飯やおしめで泣くことはあっても、それ以外で泣くことはなかったし。やっと母親らしい事が出来て嬉しいわ。ありがとね、燈矢」


 確かに、ちゃんと泣くのはこれが初めてかもしれない。赤ん坊の時は泣く以外にコミュニケーションが取れなかったし、何故か泣くことに抵抗できなかったが、それが落ち着いてからは一度も泣くことが無かったかも。


 てか、泣いて喜ばれるとは思ってなかった。あれかな、母ちゃん的に慰めてるつもりなのかな。


「うん。おちついた。ありがと、かあさん。あとごめん、ふくぬらしちゃって」


「いいのよ。あなた達子供には、親の胸に泣きつく権利があるの。そして私達親はそうやって頼ってくれる事を嬉しく思っているのよ。特に母親はそうだと思うわ。だって可愛い自分の子だもの」


 そう言ってくれるのは嬉しいが、母ちゃん、男に可愛いは良くないぜ。


「だから、また泣きたくなったら何時でも言ってね。また胸を貸してあげるわ」


「えっとぉ、うん。わかった。なきたくなったらいうね」


 男のプライド的には、出来ればもう経験したく無いけどね。


「ええ、楽しみにしてるわね。さぁ、顔を拭いて休憩したら再開しましょうね」


 母ちゃんから冷たいタオルと暖かいタオルを受け取り顔を拭く。目元とか赤くなってそうだな。よく拭いとこ。ちなみになんで冷たいのと温かいタオルなのか聞いたら、「冷たいタオルで冷やしたあとに少し時間を置いて、少し温めてマッサージをすると腫れ防止になるのよ」との事らしい。さすが母ちゃん。博識である。


 目元を温めてマッサージをして少し休憩をした。


「そろそろ再開しましょうか」

 

「わかった。よろしくおねがいします」

 

 授業再開である。


「さて、適性について話したから、次は各々の出来ることについて説明するわね。火はそのまんま燃やす感じで分かりやすいわね。人によっては詠唱で出した火を剣に纏わせたりするわ。水は火と同じで分かりやすくて、水を大量に出して相手を押し流したり、すごい速度で飛ばして貫通させたり、あとは凍らせることも出来るわね。飲み水としても使えるから持っていると便利な適性よ」


 この2つは前世でもあったな。ちょっとファンタジー色が強なってるけど、出来る事は余り変わらない。


「風は出来ることが少ないわね、強風を出して自分の体を浮かせて高所を取ったり、相手を吹き飛ばしたり、空気の塊をぶつけたりで、どちらかと言うとサポートや敵の邪魔をするのがメインね。けど大規模な魔法になると、竜巻を意図的に起こしたり敵の軍勢を纏めて吹き飛ばしたりで、複数と相手取る時に有利になる感じかしら。土は地面にある土を動かして盾にしたり、集めて飛ばして攻撃したりと言った感じね。多分適性の中では土が一番色々な事に使えると思うわ。魔力量が高い人を集めて簡易的な要塞を作ることも出来るし、即席で落とし穴を空けることもできる。役割が多くて大変だけど、使いこなせる人はオールラウンダーな凄腕になれる人が多いわね。ここまでで半分だけど、大丈夫かしら」


 うん。大体予想通りだ。けど風とか見えない刃を飛ばして、ウィンドカッター!とかあるのかと思ったが、特にないようだ。土も良くある感じだな。


「うん。だいじょうぶ」


「わかったわ。そしたら続けるわね。次に雷だけど、これは最も出来ることが少ないわね。雷を落とす事は出来るけど、威力が高すぎて自分や味方を巻き込みかねないし、あとは火と同じで剣に雷を纏わせたり、手から出した相手を麻痺させたりかしらね。まぁ切り札としては悪くないけど、使い所が難しいわね。花は環境によって強さの変わる適性ね。花は自分の周囲にある植物に干渉するのよ。森などの自然が多い場所なら強いし、逆に言えば砂漠だと植物が無いから弱くなるわね。私の場合は様々な植物の種を所持していて、状況によって種を撒いて成長させて戦闘に使う。そんなふうにしているわ。だけど、森だと本当に強いのよ。ほかの魔法と違って地面から不意打ちできるし、相手の捌ききれない物量で攻めることもできる。便利な魔法よ」


 雷は自爆と憶えておこう。けど使えたら電気製品とか作れそうだよなぁ。なんかカッコ良さそうだし。

 そして花はチートだな…… 自然全てが味方になるってかなり便利だろう。


「生は味方や自分の回復や強化がメインの適性ね。怪我をしたりしたらそれを元の肉体に戻したり、味方の防御力や運動能力、反射神経、動体視力などを高める事が出来るわ。後は体内に回っている毒を浄化したり、継続回復を掛けたり出来るわ。私はこの生の適性が一番得意ね。そして死の適性だけど、これは使い手が少なくて分かっていないことが多いのよね…… 私も使える人にあった事が無いし、誰々が使えるという話も聞いた事がないわ。文献も色々と読んだんだけど載ってる資料も少ない。一応私が分かるのだと、相手の弱体化、体力を減らしたり、運動神経を落としたり、まぁ生の強化の反対って感じね。違うのは生命力まで下げられる点かしら。強い効果だと衰弱効果だけで相手の命を取ることも出来るらしいわ。あとは死者や死んだ動物、魔物を操ることが出来るらしいわね。昔にあった大規模なスタンピードでは、味方が倒した魔物を操って相手に特攻させて食い止め、たった一人で数百の魔物を仕留めたって言うのもあったわね。私としては死者の冒涜に感じて余り良い気はしないのだけど、効率的で安全性が高いのは分かるわ」


 生も予想通りだな。回復とバフ。Rpgでは必須の職業だ。


 死は中々におっかないな、やろうと思えばゾンビアタックも出来ると考えるとゾッとする。洗脳系も使えたりするのかな…… いや、使わないけどね?


「そして最後に誰でも使える無なんだけど、これは色んなことが出来るわ。物を浮かせて移動させたり、見えない壁を作ったり、危険を察知する第六感を強化したり、生の適性には劣るけど筋力や神経、視力、聴力の強化なんかも出来るわ。他にも様々なことが出来て、無の適性が得意な人は器用な人が多くて、シーカーとして活動してる人が多いわ。これで全部だけど、どう?分からないことや、質問はある?」


 ふむ。正直、凄く長くてメモを取ることに必死だった為、質問とかできる余裕がない。色々深掘りしたいところはあるだろうが、また読み直して聞くしかないかな。


 取り敢えず、前世の魔法とはかなり違うな……


「えっと、いまはだいじょうぶ。けど、わからないところがでてきたら、またきいていい?」


「えぇ、勿論いいわよ。一生懸命紙に書いていたし、また後で良く読むといいわ」


「うん。ありがと、かあさん」


「そろそろいい時間だし、最後にさっき約束した私のスキルについて教えて、続きはまた明日にしましょうか」


「うん。わかった」


 なんと、明日も教えてくれるらしい。こりゃ母ちゃんのスイッチが入っちまったかもなぁ。実に楽しみだ。


ブォン


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名:緋野 亜衣夏(ひの あいか)24歳


職:最優の聖女


Lv:303

経験:303019


生命力:2371


力:70


魔力:184999/185000


適正:水、花、生


スキル:魔女の禁術、精霊の囁き、女神の加護、滅びの呪文


装備:良質なロングドレス(80)


G:100000


11:19

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 母ちゃんが再びステータスをだした。


「私のスキルだけど、順番に行くわね。それでこのスキル、実は触ると詳細が見れるのよ」


 そう言って母ちゃんは、魔女の禁術をタップする。


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魔女の禁術

 消費魔力が1.5倍になるが、魔法の規模が全て3倍になる。

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 …… は?なんやこれ、チートやん。強すぎんだろ。せめて2倍にして自重しなさいよ、消費が1.5倍でも関係ないやん。


「ふふ。相変わらずおかしな能力よねぇ。けどすごく便利なのよこれ、私魔力量が多いから余り消費を考えなくて済むし、消費が1.5倍でも威力が3倍だから凄くお得なのよねぇ」


 いや、そりゃ便利でしょうね。俺もこのスキル取りてぇよ。


「すごいね、このスキル。ぼくもほしいよ」


「これわねぇ、一時期攻撃力に物凄く悩む事があってね、その時にどうやったらもっと強い一撃を与えられるかっていうのをひたすらに研究してたらいつの間にか取ってたのよねぇ」


 なるほど、とにかく強い一撃が欲しいと努力した結果がこのスキルって事か。確かに威力3倍だから強力な一撃だね。けどさぁ、せめてもうちょっと消費増やそうよ、チートだよチート。ゲームなら即ナーフ案件だよ。


「次はこれね」


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精霊の囁き

 精霊に好かれ、自身に迫る危機を精霊が教えてくれる。

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 ふむ。これは余りチート感ないな。普通に便利って感じ。多分精霊とやらと仲良くなれて、不意打ちが効かないとかそんな感じだろう。


「このスキルのいい所わねぇ、不意打ちや寝ている間の危険を教えてくれるんだけど、回避できない場合は精霊が防いでくれたりして助けてくれるのよねぇ。場合によっては元凶を倒してくれたりするし」


 思っきしチートじゃねぇえか……何があまりチート感が無いだ、普通に便利だ、十分チートだよほんと。


 普通に字面だけみたら、教えてくれるけど対処は自分でやってねが普通じゃん。守ってくれるってなに?しかも元凶を倒すって、護衛かよ。


 だめだ、これでチートならあと2つも絶対にチートだろ…… 女神とか滅びとか書いてあるし。


「精霊の囁きはね、花の魔法を練習しに、森に篭ってた事があるんだけど、その時に魔物の不意打ちが凄すぎてね、倒しても倒しても次が来るし本当に大変だったのよ。その時に何とか不意打ちを防ごうと色々やってたら、森にいた精霊に偶々出会ってね、仲良くなったら、スキルとして出来てたのよ」


 それは、努力と言えるのか?単に精霊に気に入られただけでは?

 そう言えばさっきもサラッと言っていたが、やっぱり精霊とか魔物っているんですね。


「すごいね、かあさん。せいれいとなかよくなるなんて」


「ふふ。ありがと、燈矢。けど本当に出会ったのは偶々なのよ。さて、次は女神の加護ね」


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女神の加護

 魔力回復速度上昇:大、消費魔力量減少:大、物理魔法障壁:1000

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 うん。チートチート、もう凄すぎて感覚が麻痺しそうだよ。なんなん?スキルって全部こんなに強いのかな。だとしたら、これくらい強くないと生き残れない過酷な世界という事になるんだか?物騒過ぎませんか?この世界。


 ていうかさ、魔女の禁術で消費魔力1.5倍にしてるのに消費魔力を減少したらダメでしょ。しかも大だし、これ、多分だけど消費魔力元より減ってるんじゃない?


「これも凄い効果よねぇ。回復速度上昇は、凄くありがたいし、消費魔力量減少、これねぇ、魔女の禁術で1.5倍になってるけど、感覚的には元の消費量より2割くらい減ってるのよねぇ。でも魔法規模は3倍のままだからすごく相性が良いのよ。あとこの物理魔法障壁だけど、物理による攻撃と魔法による攻撃両方を横に書いてある数字分負担してくれるの。つまり私の生命力が2371だから、合計で3371って事ね。このスキルを覚えてから自分が怪我すること無くなっちゃったから、感覚が麻痺してそうで怖いわぁ」


 いや、うん。もう言葉が出ないよね。けど、これだけ聞かせて欲しい。


「あの、かあさん。スキルはみんなこんなにつよいの?」


「う〜ん、そうねぇ…… 普通スキルを持っていても他人に見せることは無いから詳しくは分からないわね。けど、スキル持ちと戦った事は何度かあるけど、そんなに強いと思った事はないわね。だから多分だけど、私の運が良かっただけな気もするわ」


 なんか安心してしまった。いやけど、俺も運が良ければチートが手に入るし、悪ければカスみたいなスキルが来るかもしれないということか。こればっかりは祈るしか無さそうだな。


「じゃあこれが最後ね」


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滅びの呪文

 スキル使用時、触れている対象の生命力を0にする。

 本日の使用可能回数は3回。

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 これも何となく予想出来たかなぁ、まぁ他のと比べると少し使い勝手が悪そうだが、十分チートだろう。だって即死だよ?即死。

 1日の使用制限があるとしても、3回はそこそこ多いと思う。


「これは私の切り札ねぇ。後衛の私が前に出ることは殆どないし、対象に触れてなきゃいけないから、色々と細工をして触れるようにするんだけど、そんな事するならゴリ押しで倒した方が早いのよねぇ。だから、本当にどうしようも無くなった時しか使わないわ」


 あー、なるほど。母ちゃんは完全な後衛タイプで固定砲台が売りなのだろう。味方の強化をしつつ、魔女の禁術と女神の加護の組み合わせで、高火力の魔法をバンバン撃つのが強いんだ。そんなバリバリの後衛タイプが前に出た瞬間敵に警戒されるし、相手が近距離が得意な場合は触ることも難しいだろう。


「どう?私のスキルは、勉強になったかしら」


「うん。かあさんはすごくつよいことがわかったよ」


「ふふ。ありがとう。けどね、燈矢は私より強くなれるわよ。私が燈矢くらいの頃なんてまだ走り回ったり寝転がったりしていたから、今から努力している燈矢は直ぐに私を追い抜くと思うわ」


 いや、多分無理です。だって、スキルがチートすぎるもん。


「あとね、燈矢。私のスキルの事や、自分の適性、ステータスは人に簡単に教えてはだめよ。チームを組む時などはある程度話すことがあるだろうけど、それでも切り札とスキルだけは隠しておきなさい。そしてそれでも通用するように私が鍛えてあげるわ」


「うん。わかったよ。かあさん。だれにもいわないようにきをつけるね」


「そうしなさい。じゃあ、今日はここまでにして、お昼ご飯に向かいましょうか」


 今日は母親がチートな事を学んだ日でした。



 あれ?もしかしなくても、父親もチートとか言わないよね、大丈夫だよね??









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