第8話


「まとめると、魔法を使用するには魔素と魔力を使用する事によって行使できる。そしてそれを簡略化する為に決まった魔法の撃てる詠唱が生まれ、それが使われ続けた為に今では詠唱を無しに魔法を使える人は物凄く少ない。わかった?」


「うん。わかった」


 俺はこの国の名前が日本だという衝撃の事実に動揺しつつ、それを諭されないようにしつつ返事を返す。

 せっかく母ちゃんが俺の為に時間をとってくれてるんだ。日本のことは一旦忘れて集中しよう。


「ふふ、一気に詰め込みすぎたかもね。少し休憩しましょうか」


 どうやら俺が隠そうとしたことは丸わかりらしい。と言っても多分話を聞きすぎて疲れてるだけだと思われてそうだが。


「はい、お水よ」


「ありがと、かあさん」


 母ちゃんは席をたち、コップに入った水を渡してくる。氷まで入っていてありがたい。

 ん?てか、この部屋に水と氷なんかあったっけ。


「かあさん、このへや、みずあったっけ?」


「さっき言ったでしょ、私も少しだけど詠唱が無くても魔法を使えるの。水の適性もあるからこのくらい簡単にできるのよ」


「へぇー、じゃあ、みずのてきせいがあれば、こおりもつくれるんだ」


「そうね、少し工夫がいるけど、そんなに難しくはないわ。後でこの話もするわね」


 そう言えば日本発言で少し混乱していたが、母ちゃんと父ちゃん、しろがねなんたらさんの名前を上げてたな。なら父ちゃんも詠唱しないでも魔法使えるのか。

 つまり俺は、国で無詠唱ができる貴重な2人の間に産まれたらしい。サラブレッドだとは思っていたが、予想以上に凄い遺伝子が入ってんだな。


 それから少しの間母ちゃんと雑談し、水を飲む。


「いい感じに休憩出来たし、続きを始めても大丈夫かしら」


「うん。だいじょうぶ。よろしくおねがいします」


 授業再開のようだ。


「さて、さっきは魔法の常識について話したから、今度は基礎について話すわ。魔法の基礎って言うのは色々あってね。先ずは適性から行きましょうか。適性はその人が扱える種類の事ね。種類は、火、水、風、土、雷、花、生、死、無の9種類あるの。そのうちの無属性は適性関係なく皆が使えるわ。そして残りの8種類のうち0〜3の数で適性を産まれながら持っている感じね。そして適性は遺伝するの。例えば火と水の適性を持った人の子は火、水、無以外の魔法に適性を持って生まれることは無いわね。ここまではいい?」


 0〜3?あれ?俺の適性、4つなんだけど…… やばいな、なんか今日だけで色々と新事実が発覚しすぎてる。これ、どうなんだろう、言った方が良いのかな、分からない。どうすれば良いのか全く分からん。


「えっと、うん。だいじょうぶ」


「そう、なにかあったら直ぐに言ってね。続けるわね、わたしの場合は水、花、生の3つで、暁士さんが火、風、雷の3つ。つまり燈矢は土と死、この2つ以外の6つのうち、最大3つを適性として持っているはずよ。そしてその適性の調べ方、と言より見方なんだけど、『ステータス』」


ブォン


----------------------------------------------------------

名:緋野 亜衣夏(ひの あいか)24歳


職:最優の聖女


Lv:303

経験:303019


生命力:2371


力:70


魔力:184999/185000


適性:水、花、生


スキル:魔女の禁術、精霊の囁き、女神の加護、滅びの呪文


装備:良質なロングドレス(80)


G:100000


10:19

----------------------------------------------------------


 うおっ、母ちゃんの目の前にステータスが現れた。てか、母ちゃん、強すぎん?レベル303ってなに?100が上限じゃないんかいな。


 てか、スキルよ、女神とか精霊とか凄そうだけど、魔女の禁術と滅びの呪文って物騒過ぎない??母ちゃんあれやな、見た目すげぇ綺麗でおっとりしてるから騙されやすいけど、結構過激なのね。綺麗な薔薇には棘があるの典型例だ。


「普通はステータスの詳細を人に見せてはいけないのだけど、燈矢には特別に教えてあげるわ。この薄い青色の板はステータス板って言ってね、心の中でステータスって思うとこれが出てくるのよ。これには名前と年齢、レベル、各種の数値に適性、覚えたスキルと現在付けている防具にお金、あと時間を見れるの。一つ一つ説明していくわね」


 ステータスの説明を聞きながら自分の認識がズレていないかを確認する。


「名前と年齢はそのまんまだからスルーして、先ずはレベルね。これはLとvでレベルと表記されているの。レベルとは何かって話なんだけど、魔物を倒した時に下にある経験の数値が上昇するわ。それが一定値まで行くとレベルが1上がるの。上がるとどうなるかと言うと、下に書いてある生命力、力、魔力の3つの数値が上昇するわ。力と魔力は鍛えることによって上昇させる事はできるけど、ほんの少しづつなのよ。けどレベルを上げると一気に上がるわ。私の場合は、レベルを上げると500くらい増えたこともあったわね。レベルは魔物を倒さないと上がることは無い。だから高ければ高いほど戦闘経験が豊富で、その人の強さを表す数値でもあるわ」


 ふむ。まぁ思っていた通りだな。


「次に生命力だけど、この数値はよく分かっていないのよ」


「よくわかってない?0になったらしんじゃうんじゃないの?」


「ええ、そうね。0になったら死ぬわ。けど、何を基準に数値の減少をしているかよく分かって居ないのよ。例えば、剣に切られたとして、同じ力でも辺りどころによっては即死する事になるし、かすり傷ですむこともある…… それに生命力が1の人物がいたとして何をすれば死ぬのかしら。転んだら死ぬ?それとも突き指で?そんな事で死ぬほど人間は弱くないわよね。それに大量出血をしてから死に至るまでの時間は個人差があってもだいたい同じね。たとえ生命力が1万でも100でも、病気や出血などで死ぬ時は皆同じくらいの時間で死ぬのよ」


「じゃあせいめいりょくは、なにをあらわしてるの?」


「そう、問題はそこなのよ。恐らく何か別のことを表していて、切られたり、魔法を喰らってしまった時に減るのは、副産物でしかないと思うのよねぇ。今も研究者たちは生命力について研究してたりするんだけど、未だに何も分かってないわ……だからね、燈矢。あまり生命力を信じない方がいいわ。ある程度の目安くらいに思っておきなさい」


「うん。わかった」


 そうか、俺はゲームでHPに馴染みがあるから、勝手に生命力=HPとしていた。けどゲームは作り物だからその形式が取れる。ここは現実なんだ。ちゃんとそこの意識を切り替えて行かないとな。


「次に力なんだけど──」


 そこからはだいたい思ってた通りだった。力は、人や魔物を殴った際に入るダメージの中央値。例えば力が50なら、ちゃんと殴れれば50入る。急所やかすっただけならまたダメージが変動する。

 魔力は個人が体内に溜めることの出来る魔素の量。ダメージは、どれくらい魔力を込めて魔法を作るかで変わるらしい。魔力1の魔法は1ダメージとなっているようで、500こめればその分ダメージを与えられる。けど力と同じで急所やかすりなどもやっぱりあり、剣と同じで首を切られたり、心臓を貫かれたら死ぬ。


「── そして、このスキルなんだけど、死にそうになると手に入るスキルと、努力によって手に入るスキルの2つに別れるわね。私の場合は女神の加護と滅びの呪文。この2つは死に際に使えるようになったわ。そして魔女の禁術と精霊の囁きは、努力によって使えるようになったスキルね」


 マジか、死に際って事は少なくとも母ちゃんは2回死にそうになったって事だよな?うーん…… 多分触れない方がいいよな、思い出したくないことかも知れないし。

 それに、努力によってってのも気になる。


「どりょくによってなら、じぶんのとりたいスキルをとったってこと?」


「いえ、それは違うわ。スキルってね、基本的にランダムなのよ。その人に適性のあるスキルが基本的に手に入るけど、本当に欲しいスキルが手に入るかどうかは運次第ね。だから普通は努力してとるんじゃなくて、偶々使えるようになったスキルを自分の戦術として組み込むのが普通よ」


「かあさんのスキルはどんなスキルなの」


「ん〜、そうねぇ。教えても良いんだけど、さっきも言った通り、ステータスって基本人には見せちゃダメなのよ。その人の戦闘力や適性、スキルが書いてあるからどんな事ができるかバレちゃうからね。だから、後で教えてあげるわ、今は魔法についてだからスキルはまた後でね」


 そうだった。今は魔法についでだった。スキルが気になりすぎてそっちに目がいってしまったよ。


「うん。わかった。ついスキルがきになっちゃって、ごめんなさい」


「大丈夫よ。私も少し脱線しちゃったからね。それで話を魔法に戻すと、このステータスの適性の位置に書いてある、水、花、生。この3つが私の適性ですよって教えてくれているの。つまり自分の適性が知りたかったら、ステータス板を出せば良いのよ。さ、やってみましょうか。さっき言った通り、思い浮かべればステータス板は出てくれるわ」


 うん。そうだよね、そうなるよね。どうしようか、適性が4つある事がバレてしまっても大丈夫なんだろうか。もし4つだとバレたら「悪魔の子だ!!」みたいな展開にならないといいんだが……

 けど、俺は母ちゃんが好きだ。もちろん家族として。父ちゃんも好きだし、みやの事も俺は家族だと思っている。だからできるだけ隠し事はしたくない。


 うぅ、えぇい!悩んでも変わらん!ステータス!!


ブォン


----------------------------------------------------------

名:緋野 燈矢(ひの とうや)2歳


職:緋野家の2歳児


Lv:1

経験:0


生命力:30


力:3


魔力:69/70


適性:火、水、生、死


スキル:


装備:良質な子供服(1)


G:0


10:35

----------------------------------------------------------


 …… なんか魔力増えてる。なんで??この間もそうだったけど、なんで増えてんのかわからんのだが。


 まぁいい。そんな事よりもどうだ、母ちゃんの反応は…… やばい、前世を含め今が一番緊張してるかもな。


「…… ふふッふふふ。何回も思うけど、本っ当に燈矢は凄い子なのねぇ。とても賢くて、2歳とは思えない程に器用で。もしかしたら美弥の言う通りに、生まれ変わりなのかもしれないわね」


 あ、やばい、これはやらかしたかもしれねぇ。なんか生まれ変わりだってバレてそうな雰囲気。


 母ちゃんは席を立って、俺の横に座ってくる。


「ねぇ、燈矢。この適性の所をみてごらん。私がさっき言ったこと、覚えてる?」


 どうなんだろう、声も雰囲気も表情もやさしい。俺の事をとても気遣ってくれている感じだ。


「えっと、もってうまれるてきせいは0〜3つっていうはなし?」


「ええ、そうよ。けど、ほら、ここを見て。火、水、生、死の4つの適性が書いてあるでしょう?火は暁士さんから。水と生は私でしょうね。この死は私には心当たりが少し無いけれど、しっかりと私達の適性を受け継いでくれて本当に嬉しいわ」


「4つあるのはやっぱりおかしい?」


「おかしくないわよ。燈矢、貴方は私がお腹を痛めて産んだ、正真正銘私と暁士さんの子供よ。それにね、0〜3つが普通って言われてるのは、今まで4つ以上持ってる人が産まれてこなかったからに過ぎないわ。これは私達人間がかってに決めた常識であって、神様が3つまでしか適性を持てないと言ったわけでは無いの。それにね燈矢、何事も初めて成すことは前例が無いのよ。そんな事をいちいち気にしていたらキリがないわ。だから誇りなさい。自分は前例にないことを成し遂げたんだって。周りから何か言われても気にしちゃダメよ。けど、偉そうにしちゃダメ、そしたら皆に嫌われちゃうからね。私との約束よ」


 やべぇ、俺の母ちゃんすげぇカッコイイ。いつもニコニコとしてる母ちゃんが、真面目な顔で俺の目を真っ直ぐ見て語りかけてくる。

 距離取られるとか、捨てられるかもとか、そんな事を考えてた自分が如何にちっぽけなのか分からされた気分だ。

 母ちゃんは適性が、4つとか、2歳児にしては頭が良いとかそんなの関係無しに俺の事を自分の子供として愛してくれている。もしかしたら、俺に前世の記憶がある事に気がついてるのかも知れない。でも、それでも母ちゃんはそれでも俺を愛してくれると思う。


 前世では、俺を愛してくれる人は居なかった。

 いや、両親は愛してくれたのだろう。だが俺も両親も不器用で、実感した時には手遅れだった。友達はいなかったし、なんの気なく俺と仲良くしてくれたのは親友だったあつしだけだ。


 親からの愛…… それは俺が欲して、知らぬ間に自ら手放した物だ。


 やばい、涙出てきた。


 改めて愛されていると実感して、嬉しくってなってしまったようだ。


「大丈夫。何があっても、私は燈矢の味方よ。何もおかしな事なんてないわ」


 母ちゃんは俺を優しく抱っこして抱きしめてくれる。


「うん。ありがと、かあさん。」


 そのまま俺は母ちゃんの胸で、しばらく静かに泣いた。






 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る