第7話


 父ちゃんが言うには今の年齢で魔法を使うのは危険らしい。命に関わることもあると。そう言われてビビらないかと言われると、そりゃあビビる。死ぬと言われてるんだ、ビビらないほうがおかしいだろう。


 それでも、今から魔法を使うかと問われている。それに使いたいなら手伝ってくれると。


「ねぇ、とうさん。ばんぜんのたいせいって、なにをするの?」


「そうだね。先ず魔法を使う時は亜衣夏と一緒にいる時にしてもらい、直接指導してもらう。亜衣夏は生魔法の達人でね、世間では聖女と呼ばれている。余程のことがない限り、治せない怪我や症状は無い。だから魔法を使う時は必ず亜衣夏が同席する事。それ以外で使って手遅れになっては遅いからね。あとは魔法使用後に雇っている医師に診断してもらう。私達では見抜けない事でも、専門家なら分かることもあるだろうからね」


 ふむ、なるほど。なんとなく思っていたが、やはり母ちゃんは物凄い大物だったらしい。しかも聖女とな。創作物で出てくる聖女は国一番の回復術士や教会のトップで、チート級の回復魔法が使えるのがテンプレだな。それに生魔法という事は俺にも適性がある。つまり母ちゃんに出来ることは俺の努力次第で出来るという事だ。


 その母ちゃんが直々に教えてくれるらしい。これ以上ない教師だな。


 魔法が終わった後に医師の診断を受けるのも分かる。いくら母ちゃんが凄くても医療は専門外なのだろう。だから何かあっても良いように専門である医者に見せる。


 対策として出来ることが2つしか無いのは母ちゃんの凄さに驚けば良いのか、頼りなく思えば良いのかは少し悩みどころだが、そこは信じることにしよう。


 ただ、一つ問題がある。


「かあさんがまほうをおしえてくれるんだよね」


「あぁ、そうだ。燈矢にとって、亜衣夏ほど師匠として適任な人物は居ないだろうからね」


「えっと、まえね、おかあさんにまほうについてきいたとき、よくわからないおしえかたをされたんだけど……」


 そう、母ちゃんは教えるのが下手くそだ。「グッ、ブワァ〜、ビュンッ」などという訳の分からない擬音で説明されたのだ。いや、わざとそう説明した可能性もあるのか?


 そう考えていたら母ちゃんが話に入ってきた。


「えっとぉ、それはね燈矢。前に聞きに来てくれた時はね、あまり核心に着いた事を言って魔法を使われると大変だから、分かりにくく説明したのよ。ごめんなさいね。ちゃんと教える時はもっと分かりやすく教えるから」


 あぁ、やはりわざとだった。確かに母ちゃんはおっとりしていて抜けてそうな雰囲気があるが、そこまで抜けていないのだ。たぶんスイッチが入ると物凄い有能なタイプなんだろう。怒らせちゃダメなタイプでもあるね。


「そうなんだ。それならあんしんかな」


「それで、どうする?別に今すぐ答えを出さなくてもいいが」


「ううん。ぼく、まほうをつかいたい。きのうまほうをだしたとき、すごくうれしかった。ずっとつかいたくて、やっとだせて、もっとやりたいっておもった。だから、ぼくにまほうをおしえてください」


 俺はそう言って2人に頭を下げる。


「分かった。なら直ぐに調整しよう。だが今すぐに魔法を使うのは難しい。だからあと3日待ってくれないかな、それまでに燈矢が魔法を使えるようにするよ」


「うん。わかった。ありがとう、とおさん」


「ふふ、なら今日はこのまま私と魔法のお勉強をしましょうか。適性や相性、練習の仕方や魔法についての基礎を教えてあげるわ」


「いいの?かあさん。いつもいそがしそうだけど」


「えぇ、子供より大切なものは無いもの。元々燈矢を産んだらお仕事は減らすつもりだったからね、いい機会だわ」


 なんと、母ちゃんは俺のために時間を空けてくれるらしい。


 この期待に応えられるように頑張らなきゃな。


「うん。よろしくおねがいします。かあさん。」



 さて、場所を変えて俺の私室。普通なら母親に私室に入られるなんてと思うやつもいるかもしれないが、元々俺が歩いて喋れるようになったら、割と直ぐに我儘を言って貰った部屋だ。たまに母ちゃんが尋ねてやってくるのでなれている。


 部屋に置いてあるテーブルに母ちゃんと向かい合って席につき、話を聞いたりメモを取る準備をする。


「そういえば、燈矢はもう字がかけるのよね、凄いわ」


「うん。まだぜんぶひらがなだけどね」


「普通字を書き始めるのは4歳くらいだからね。全部平仮名でも、本当に器用で凄いわよ。美弥から直ぐに文字が読めるようになったって聞いて、子供用のペンを早めに買っておいて正解だったわね」


「うん。このペンもちやすくてちょうどいいんだ。ありがと、かあさん」


「ふふ。いいのよ、それくらい」


 俺が普段使っているペンは子供用の少し小さめのものだ。といっても、このペンも4〜5歳児向けなので2歳の俺には少し大きいが、大人用のより全然持ちやすい。この子供用ペンは、俺が文字を習い始めて結構早い段階でみやに紙とペンが欲しいって言ったらくれたやつだ。その時にも母ちゃんが用意してくれていたのは聞いていたので、本当にありがたい。


 母ちゃんは必要になるであろう物を毎回早めに揃えておいてくれる。寒くなった時の手袋やマフラーなど色々なものをその時に必要な分だけくれるのだ。


 前世で親からこういう物を貰ったことの無い俺は、あぁ母親ってこんな感じなんだなと日々思っている。


「さて、準備出来たかしらね。それじゃあ始めましょうか」


「うん。おねがいします」


「まずは、魔法についての常識と基礎についてね。魔法ってね、人や物や動物の持っている魔力と、空気中にある魔素がふたつ揃って初めて使えるのよ。魔力って言うのは、私達生物が取り込んだ魔素を個人の形に変えて発する力を魔力って言うの。そして魔素はその私達生物に取り込まれる前の状態を魔素って呼ぶのよ。ここまではいい?」


「つまり、まりょくもまそも、おなじってこと?」


「ええ、そうよ。私達生物は皆呼吸するわよね。その際に空気と一緒に魔素を取り込み、身体に浸透させてその人の形に変化する。そうねぇ、魔素が材料と調味料、魔力が材料を取り込んで料理した状態。そして魔法は料理した魔力に、調味料の魔素を加えて味付けをするイメージね」


 ふむ。なるほど、魔素と魔力は同じ存在。そして魔法は魔力を用いて空気中の魔素を動かし、混ぜ合わせて魔法にすると。


「次に行くわね。そして魔法の際に私達人間にとって1番簡単な魔法の使い方は詠唱ね。詠唱って言うのは、決まった形の魔法を言葉にして発する事で魔法行使の補助をしてくれるの。例えば、『清らかなる水よ、邪を流す為顕現せよ』」


 母ちゃんが厨二病っぽい事を喋ると、母ちゃんの手の上にバレーボールくらいの水球が出来上がる。


「この水球は、今、私がこの水球を出すために詠唱をしたの。逆に言えば詠唱って決まった魔法を出すための物だから、これ以上規模を大きくしたり小さくしたりって言うのは出来ないわ。出来ることはこれを何処に、いつ飛ばすかを決められるくらいね。それ以外はさっきの詠唱で変えることは出来ないの。あと、もしも戦闘相手が魔法士だったり知識のある人間だったらどの魔法かバレてしまうっていうのはあるわね」


 成程、言葉にしないと魔法が使えないなら、その可能性は充分にあるな。魔法士にとっては致命的な弱点になる。


「でも基本的に魔法士はソロで戦うことは少なくて、後ろからの援護や固定砲台が基本よ。だからあまり気にする事はないわね…… これだけ聞くとデメリットの方が多そうだけど、ちゃんとメリットもあるわ。詠唱さえ覚えておけば、魔力を高め、魔素に干渉し、魔法を行使する。このうちの魔素干渉のステップを飛ばして魔法行使を出来るようになるの。それに、必ず同じ魔力量しか消費しないから、自分の魔力をちゃんと把握出来ていれば、何を使うかも判断しやすくなるわね。それに魔法を行使する上で一番大変なのって魔素に干渉する事なのよ。それを飛ばせるって言うのは物凄くいい事ね。だから今の魔法士は詠唱を皆使っているし、先に上げたデメリットよりも、この干渉を飛ばすメリットが大きすぎてこっちが主流になったみたいね」


 母ちゃんはそう言って水球を消す。すげぇどうやってんだろ。後で聞いてみよ。


 そして詠唱について大体わかった。詠唱は既に決まっている威力、種類の魔法しか使用出来なくて、威力の変更や大きさを変えることは出来ないと。けど昨日俺がやったように0から魔法を使う訳じゃないから断然楽になるってことか。


 てことは、あれかな、皆無詠唱をやろうと思えばできるんかな


「かあさん、きのうぼくがまほうをえいしょうをなしにつかったけど、みんなやろうとおもえばできるってこと?」


「それは出来ないわ。今言った話はもう千年近く昔の話で、詠唱ができたばかりな頃の話なの。そこからはみんな詠唱で魔法の使用をする人ばかりで、自力でする為の魔素干渉力が私達人間は物凄く劣ってしまったらしいわ。だから、詠唱をなしに魔法を行使出来る人間って言うのは物凄く少ないのよ。この日本だと、あ、日本って言うのはこの国の名前ね。それでこの国だと、分かっている人は私と暁士さん、あとは白銀 楓真さんって言う人の3人ね。だから燈矢のその力は凄いのよ」


 …… は?おい、ちょっと待て、母ちゃん今なんつった。日本?ここが?違う世界じゃないのかここ。


「ね、ねぇ、かあさん、このくに、にほんっていうの?」


「えぇそうよ、まだ燈矢はこの世界に付いて勉強してないものね、それはまた今度教えてあげるわね」


「あ、うん、わかった」


 やばい、分からなくなってきた。なんでここが日本なんだ?ただの偶然?いや、それは有り得ないだろう。まだパラレルワールドの方が納得出来る。けどパラレルワールドは何かの出来事で分岐した世界のことだ。例えば、俺の高校受験が落ちた場合の世界線、就職先が違った場合の世界線。もっと大きな事で言えば、大昔の第二次世界大戦で日本が勝利していた世界など、そういう世界の事だ。


 なら想像も出来ないほどの未来とかか?1度文明が滅びるほどの何かが起こり、この世界になった。俺が生きていた時代より前は魔法があったと言う文献がないから過去という線は薄いだろう。


 分からない事だらけだなぁ。けど、分からないことを考えても仕方ないし、今は魔法に集中しよう。








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