第3話


 目が覚めたらベッドの上で夕方だった。そうか、庭で寝てしまってみやが運んでくれたのか。


 2歳児が寝るにはものすごく大きいベッドから降りて、窓から外を眺める。外は夕陽が沈み始めていて感覚的にはおよそ17時くらいだろうか。この世界には時計が無いため正確な時間が分からないのだ。


「やっぱ時計が無いのは不便だよなぁ」


 まぁ無いものを欲しても仕方ない。本当にこの世界が24時間なのかも分からないし、そもそも時計の作り方も時間の測り方も分からない。大昔の人は、日の影を利用した日時計なる物を作ったそうだが詳しくなんて覚えていない。

 一応この世界では、太陽が見え始めた朝、真上に来た時、沈み始めた時の3度に鐘がなるらしく、この屋敷では近くの街で鳴ったであろう音が微かに聴こえる。


 そんな事はともかく、寝る前に考えていた魔法の事だ。多分飯でみやが呼びに来るまで後2時間程ある筈だからそれまで色々と模索することにしよう。


 実は魔法を自力で出来るようになるにはどうしようかと言う問題は少し前から考えてはいた。だが、近くに使用出来る人がいるのだ。なら教わった方が早いだろうと教えてくれと懇願していたが、ダメなら仕方ない。自力でやるまでだ。

 良くアニメや小説では魔力が体の中を駆け巡る感覚や、循環する感覚がどうのと言われる。後は想像力か。

 想像力に関しては問題ないと思う。なんせ俺はオタクだ。様々なアニメ、マンガ、ラノベをジャンル問わずに見て読んできた。中でも魔法が使用されているアニメは演出の派手さなので良く覚えているものが多い。


 問題は魔力の流れとやらである。これがよく分からない。


 創作物では生まれた時から魔力の流れが分かるだとか、最初からチートみたいにバカスカ魔法使えたりしているが、それが全く分からない。

 この世界の人はどうやって魔法を使っているのか謎である。


 ちなみに少し前母ちゃんに、魔法を使うってどんな感覚なの?とさり気なく聞いたことがある。その時に「う〜ん、こう、グッ、ブワァ〜、ビュンッて感じかしらねぇ」と言われ全く理解が出来なかった。その為俺は、魔法を使う感覚が分からないでいる。いや、この説明で分かったら本物の天才だね。

 みやや他のメイド達にもそれとなく聞いてみたが、もれなく全員に教えてもらえなかった。なんでも「旦那様や奥様の許可なく魔法の指導は出来ないんですよ」との事だ。まぁ確かに雇い主は父ちゃんなんだろうし、勝手に話す訳にはいかんのだろう。なんでか分からないけどまだ幼すぎるのがいけないらしい。やっぱり家の皆は過保護すぎるよ。厳しすぎてガチガチなよりは良いけどさ。


 まぁ、とりあえずもっかいやりますかね。


 集中してイメージをする。身体に流れる血液を意識して全体の血流を早めるイメージを。


……う〜ん、ダメだ。分からん。血液じゃだめなのかな?


 前世での魔法は新しく出来た魔脳と呼ばれる脳の一部が前頭葉と頭頂葉に電気信号を送り、それを体が処理し、微弱なよく分からないオーラを出して自分の周囲にある分子を原子に、原子を原子核と電子にまで分解し適性のある元素に組み替える。なんだっけ、サイオニック波だかオーラだかそんな感じだった気がする。

 最初、魔脳を持っている人達は無意識でそれが作用し身体から水が勝手に出たり、軽い火傷をしたりとあったらしい。そう考えると、無意識で使えていない時点で俺には魔脳が無い、もしくは目覚めていない事になる。


 いや、諦めては駄目だ。確か大昔の1990年代に連載されていたマンガでは「諦めたら試合終了」という名言があったと歴史文化評論家が書いた論文に書かれていた。実にいい言葉だ。そうだ、諦めたら駄目だ。前世から気になってやまなかった魔法を、こんな事で諦めてたまるかってんだ。


 けどまぁ、気合と根性で使えるならもうちょい前から使えているだろうから、そろそろ何か手応えみたいのが欲しいんだけど。どうしたもんかねぇ。


 あ、そういえば魔法を使うことばかり考えていたけど、あれはどうだろうか。


 ファンタジーものの作品ではお馴染みのあれである。


 うわ、なんで気づかなかったんだろうか。ほんとに魔法に集中し過ぎて発想出来なかった。

 よし、こういうのは声に出して言うのがお馴染みだよな。思うだけだと上手くいかないとか言うし。


 いくぞぉおぉぉ〜

「ステータスッ!!」


ブォンッ


----------------------------------------------------------

名:緋野 燈矢(ひの とうや)2歳


職:緋野家の2歳児


Lv:1

 経験:0


生命力:30


力:3


魔力:49/50


適性:火、水、生、死


スキル:


装備:良質な子供服(1)


G:0


17:19

----------------------------------------------------------


 ッ!!……は??マジ?成功したのかよ。


 叫んだ瞬間、目の前に現れた薄い青色の板。


 というか、あれだなまんま前世のデバイスと同じだな。前世のデバイスは小さなチップを耳にかけ脳から発せられる微弱な電気信号を受信し、ネットや電話、メールなどを目の前に表示させる機械だ。それと色合いと透明度がまんま似ている。

 デバイスは自分しか見れないが、これはどうなんだろうか。今度みやか父ちゃん母ちゃんに聞いてみよう。


 さて、せっかく出たステータスをじっくり観察したいが、その前にやる事がある。この感覚だ、この感覚。

 恐らくこれも魔法の1種だろう。なんか身体が変な感じなのだ。

 身体を流れる感覚はある。けど、なんだろう、少し暖かくて風呂で温まっているような芯から広がっていくような感じだ。


 よし、これを覚えておこう。


 さて、改めてステータスの確認だ。


------------------------------------------------------

名:緋野 燈矢(ひの とうや)2歳


職:緋野家の2歳児


Lv:1

 経験:0


生命力:30


力:3


魔力:49/50


適性:火、水、生、死


スキル:


装備:良質な子供服(1)


G:0


17:21

----------------------------------------------------------


 ふむ。弱い。いや、2歳だから強いわけないが、生命力30て、すぐ死にそうな数字やん。


 あと、俺、自分の名前は知ってたけど、漢字は初めて見たな。緋野 燈矢。これが俺の漢字らしい。

 そういえば父ちゃんたちの名前はしっていても漢字までは知らなかったな。

てか漢字ってあるのね。まだ文字の練習を始めたばかりで読んでいるのは平仮名ばかり、それに世界のことについても俺はよく知らない。こんどみやに聞いてみるとしようか。


 それと職って職業だろうか、こんなんもあるんだな。そして緋野家の2歳児。

これ、職業なん?いや、確かにこの家の2歳だが、職業なのか?よく分からんな。


 次は、力3。弱い、弱すぎる。いや、2歳児だからこんなもんなのか?

俺の力が3で生命力が30。つまり俺が自分を本気で10発殴れば死ぬという事だろうか。いやけど、防御力とかないのかな。

 少し飛ばして装備の欄には、良質な子供服 (1)とある。これが防御力という事だろうか。そうなら防御力は1で俺が自分を本気で殴ると2ダメ減ることになる。


 う〜ん。痛いのは嫌だけど、今後のためにいずれは検証しないとだなぁ。



 魔力50。ここが1番気になっていた。この世界は魔力を数値化できるらしい。これは大変便利でいいじゃないか。あれかな?鍛えたら増えたりするのかな、王道に使い切ったりとか。その辺も考えないとな。

 あと、49/50は最大値50でステータスを表示するのに1消費してると考えて良いだろう。それ以外に心当たりもないしな。

 そうなると、やはり先程の芯から来る感覚。あれが魔力でいいんだろうな。早めに当たり前に感覚を掴めるようになりたい。


 そんで待ってました適性!これでね、何が使えるか分かるわけですよ。そして俺の適正は、火、水、生、死。うん。火と水は分かるよ、けど生と死ってなに??

 よし、順番に行こう。火と水。これは前世でも使える人が最も多かった上位2つの魔法だ。ただ相性がお互いに悪く、両方使える人は居なかった筈だ。

両方使えるって言うのは楽でいい。寒い時に暖を取れるし、暑い日は涼むことができる。最高だね。是非とも練習してマスターしよう。


 さて、問題の生と死だ。生は、よくあるのだと回復魔法だ。あとはバフとかも入るんだろうか。死はあれだろう、死霊術師と言うやつだろう。死んだ人間や動物をゾンビにしたり、デバフかけたりするいやらしい奴だ。


 さっきの感覚はまだ覚えている。ステータスを見終わったら色々とやってみるとしよう。


 スキルかは空だから無視。


 あとはG:0だが、ステータスに載ってるGなんて金しかないだろう。所持金0だから数値もあってるしね。


 てか、時計ありました。なるほどね、ここで時間を確認できるのか。道理で部屋や家に時計がないし開発されないわけだ。

 俺もこれからはここで時間を確認することにしよう。先ずは24時間かどうか見るところからだな。

 そして時間は17時27分。うん。さっきは21分と書いてあった気がするし、ちゃんと動いているようだ。


 よし、こんなもんかな。


 これどうやったら消えるんだろうか。消えろ!


ブォンッ

 

 おぉ、消えろと念じれば消えるんか。なら、ステータス!


ブォンッ


 消えろ


ブォンッ


 苦労することなく想像したりイメージすれば出たり消えたりするのか、便利だね。


 さて、時間はまだあるな。


 外を見ると少し暗くなってきた、あと飯まで1時間くらいって所かな。それまで魔法を使えるように練習するとしよう。


 俺は魔法の練習をするために寝転んでいたベッドから降り、立ち上がって集中し始めた。









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