第2話
さて、産まれて2年が経って歩けるようになりました。
あと、たどたどしいながらも喋れるようになりました。
やったね。
と言っても、まだ階段の昇り降りや扉を自力で開けられないので基本お付のメイドさんと普段は一緒にいる。
「みや、おそと、いきたい」
みやとは俺専属のメイドさんの事だ。俺が赤ん坊の頃から世話してくれていた若い姉ちゃんメイドの1人で、スラッとしたスポーツマンみたいな体型に、栗色で癖のあるミディアムヘアの可愛い姉ちゃんだ。歳は21。こないだ興味本位で聞いたら教えてくれた。
「はい、燈矢様。天気もいいので、お昼寝の時間まで少しお散歩でもしましょうか」
そう言ってみやは優しく微笑みながら俺を抱きかかえて部屋から出る。歩けるようになったしできるだけ自分で歩きたいのだが、まだまだ危なっかしいという理由で余り自由に歩かせてくれない。みやや他のメイドさんはある程度は多めに見てくれるが、母ちゃんが物凄く過保護で、俺が1人で歩いていると駆け寄ってきて直ぐに抱っこされてしまう。
その為に基本部屋の移動や、外に行く際はその場に到着するまで歩かせて貰えない。
母ちゃんが一緒だとずっと抱っこされたまんまだ。抱っこされるのは嫌じゃないが、精神年齢が33だから恥ずかしさが勝ってしまう。まぁ恥ずかしいのはメイドさんに対しても一緒なんだがな。
てか2歳児って10kgぐらいあるから、女性がずっと抱きかかえてるのは辛いだろうに、母ちゃんやメイドさんは長時間抱っこしてても顔色一つ変えないのだ。 みんな力持ちだなぁと思ってしまうこの頃です。
ていうか、俺的にはもう少し歩いて足腰鍛えたいんだけどなぁ、バランス取るのにまだ体力使うから早く慣れたいんだよ。
「あら、燈矢、お散歩にいくの?」
「かあさん」
そんな事を考えながら大人しく抱っこされていると、前から金髪美女なお母ちゃんが歩いてきた。
「うん。てんきがいいから、そといきたくて」
「そう、確かに暖かくて気持ちいいものね。お母さんも一緒に行きたいけど暁士さんに少し用事があってね。残念だけど、次は一緒に行きましょうね」
母ちゃんは残念ながらご一緒できないようだ。散歩に行く時に顔を合わせると基本的に一緒に来るので楽しみではあったが、用事があるなら仕方ない。
またの機会を楽しみにしておこう。
「うん。たのしみにしてるよ。かあさん」
「美弥も、燈矢が転ばないように、よろしくね」
「はい。奥様お任せ下さい」
みやはそう言って軽く一礼している。ごめんね、俺を抱っこしてるからやりにくいよね。
「じゃあね、燈矢。楽しんでいらっしゃい」
「うん」
母ちゃんは優しく微笑みつつ、俺の頭を撫でながら去っていった。
うむ。俺を産んだ後も相変わらず美人さんだ。
ちなみに心の中で母ちゃんと呼んでるのに、口に出すのが母さんの理由は単にまだ喋れなかった時期に父ちゃん母ちゃんから、お父さんですよ、お母さんですよと話しかけられていたからだ。
別に父ちゃん母ちゃんでもいいかと思ったが、こう呼んでくれと言われたんだからそう呼んだ方がいいだろうと思ってそうしている。
“お”を付けないのは単に固くなりそうだったからだ。出来るだけ家族内は仲良くいたいしね。
「さて、着きましたよ。燈矢様」
「ありがと、みや」
さて、そんな事を考えたらお庭に到着しました。
突然だが、我が家はとても広い。産まれた頃に部屋の広さからそこそこ裕福なんだろうなぁと思っていたが、想像以上に家がデカかくて初めて見た時は目が飛び出でるかと思うくらいに驚いた。
城、と言うよりは宮殿みたいな横に広いタイプで、フランスのヴェルサイユやイギリスのヴァッキンガムみたいな形じゃなく、ドイツのニンフェンブルク宮殿が小さくなった感じの宮殿だ。なので本当に横に長い。
いや多分家は国王とかそういうのじゃなさそうだし宮殿より屋敷の方がいいのかな。そう呼ぼう。
正面は俺たちの家族、お付のメイドや執事などの私室や待機部屋、食堂にパーティができる広さの広場など基本的に生活はこの建物だけで全く問題がない。
右の方には横に長い建物が幾つか立っており、そこに使用人やその家族が住んでいるらしい。以前、朝の料理人やメイド達が大変だなぁと思いみやに聞いてみたらこの屋敷に働く使用人は全員そこに住んでいると言っていた。前世でいう社宅のようなものだろう。
左側にも右と同じく横長の建物が建っており、そこは警備隊の皆さんが暮らしているらしい。俺はまだ警備してる人には会ったことないが、父ちゃんが出かける時の護衛や門番、何か問題が起こった時に解決するための武力として仕事をしているらしい。
まぁそのうち会う機会があるだろ。
そして今俺が到着した庭だが、これが本当に広い。馬鹿みたいに広い。縦長な庭で、歩く為の道以外は一面芝生に生っている。そして陽当たりがとても良く寝転ぶととても気持ちがいい。
庭の真ん中には噴水があり、暑い日はそこに置いてあるベンチで涼むことも出来る。でも、ここは裏庭なんだけどね。
表の庭はもっと豪勢になっていた。まだ数える程しか見ていないが、様々な花が咲いていて、とても良く手入れされていた覚えがある。庭師さんも大変そうだ。
全体的な形は横に広い感じで各屋敷に行く為の道があった。
表の庭も行きたいが、知らないお客さんに会うと気まずいし、仕事をしている人の邪魔はしたくない。裏庭なら基本家族以外に会うことが無いので、お散歩はいつもこっちに来ている。
こうやって家の形について考えると本当にニンフェンブルク宮殿みたいだな。別に俺は城や宮殿が好きだった訳では無いから詳しい形は覚えていないが、それでもこんな感じというのは何となくわかる。
まぁ人間は世界が違えど同じ様に進化して、似たような歴史を辿るってことなのかな。
て言うか、こんな所に住んでるなんて相当俺の父ちゃん母ちゃんはお偉いさんなんだろうなぁ。裕福な家庭に転生で良かった良かった。貧しい家やスラムだと苦労するのがテンプレだからね。
「さて、どうしますか燈矢様。少し周りを歩きますか」
「うーん、ちょっとねころびたい。みやもいっしょにねる?」
「そうですね。では、お言葉に甘えて少しだけ」
ゴローンと、2人して芝生の上に寝転ぶ。少しチクチクするが、いいポジションを探しながら陽の光と暖かい風を堪能する。
「かぜ、きもちいいねぇ。ねむくなっちゃうよ」
「そうですね。でも寝てはダメですよ。お昼寝する時に眠れなくなってしまいますからね」
「はーい。そうだ、ならねないようにまほうおしえてよ」
「うーん。私としては教えても良いんですけどまだ年齢的に早いですし、奥様や旦那様の許可もいるので今すぐには難しいですね」
「どうしても?」
「どうしても、ですね。それに前も同じ事を言ったと思いますよ。燈矢様は賢くて勤勉なのは小さい時から見ている私やご家族は知っていますし、興味があるのはとても良いことです。ですが燈矢様はまだ2歳。話せるようになったばかりですし、焦らずにゆっくりと成長して下さい」
「…… わかった」
「はい。いい子ですよ」
そう言ってみやは俺の頭を優しく撫でる。
やっぱり駄目かぁ
俺は喋れるようになって割とすぐに光る玉について聞いた。そしたらやはり魔法だと言う。なので俺にも教えてくれと言うと「年齢的にまだ早いから、5歳まで我慢しましょうね」と言われた。
それでも、我儘言ってすまんねと思いつつも、定期的に魔法を教えてくれと父ちゃん母ちゃんやみやに言っているが、やはりまだ早いと言う言葉ばかり。
俺は前世で魔脳が出来なかったため、魔法の使用が出来なかった。だからこの世界ではどうなんだろうと思い、使えるなら早く使ってみたいという思いが強いのだ。
この世界の魔法も俺の前世と同じ原理なのかは分からないが、俺が会ったことある人は今の所皆使えるようなので、割と簡単なのかもしれない。と言っても光の玉を出すところしか見た事ないからアニメやゲームみたいにすごく派手なことは出来ないのかもしれないが。
うーん。ぶっちゃけ暇なんだよなぁ。
今の1日は朝起きたら皆で飯食って、その後はみやに文字を教わりながら本を読んでいるが、何故か文字が日本語なのだ。流石に最初から文字をマスターしていると怪しまれそうだから適当に分からないフリをしているが、子供用の童話や、読めるし書けるのに文字表を見ていたってつまらないだけだ。なんなら分からないフリの方が大変なまでである。
それに、それが終われば昼飯食って夕食までダラダラするだけ。
本当に暇なのだ。
暇な時間にゲームや動画なので楽しめていた前世と違い、この世界には電気が無いためゲームもネットも無い。現代人にはこの生活は暇すぎてとても大変なのだ。といってもそれは最初の1年で慣れはした。だが、慣れたからと言って暇な時間にゲーム等が恋しくなるのは仕方の無いことではなかろうか。
よし、魔法はちょっと独学で頑張ってみようかな。なんか、あれだろ?アニメでよくある魔力の流れが云々を見つければいんだろ?
任せろ、これでもかなりのオタクだったんだ。魔力の流れなんて直ぐに見つけてやんよ。
まぁその前に、ちょっと眠くなって来たので今はこの暖かい芝生を堪能します。
んー、本当に暖かくて気持ちよく寝れそうだ。
「燈矢様。寝てはダメですよ」
「ん、ごめん。ねむい」
「なら、部屋に戻ってお昼寝にしましょうね」
眠くなってきて思考が働かないが、みやが俺を抱っこしたのはわかった。
俺はそのまま無さそうで意外とある枕に頭をあずけ、眠りについた。
「おやすみさい。燈矢様」
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お眠りになった燈矢様を抱っこしながら部屋へ向かっていると、正面から旦那様がいらっしゃった。
「やぁ、お疲れ様、美弥。燈矢はお休み中かな」
「はい。旦那様。裏庭にてご休憩中に眠ってしいましたので、部屋のベッドへ行こうとしていた所です」
「そうか、元気そうで良かったよ。何か変わりはないかい」
「そうですね。以前ご報告した通り、とても賢いです。今は童話の読みをしていますが、私が手助けしなくても1人で読んでしまいます。後は魔法を教えてくれと」
そう、燈矢様は頭がとても良い。本当に知らなかったのかと思うほどだ。口が回るようになってからは、言葉を教えなくても喋るようになり、文字を教えてもつまらなそうにしていて聞いているか心配になったが、後日問題なく文字を読めていたのだ。
燈矢様のような方を天才と呼ぶのだろう。
後は魔法を教えてくれと困った所があるが、それは子供ゆえの我儘。そういう所は年相応で人間らしい。だから天才だと感じても、私は燈矢様との関わり方をしっかり人として接する事が出来る。
これが完璧な子供だったら私が緊張してもっと事務的に対応してしまっただろう。
「そうか、もう読みが出来るのか。子供の成長は早いね。それと問題の魔法だけど、5歳にならないと魔力循環のコツは掴みにくいし、最悪命に関わるからね。燈矢には悪いけど、5歳までは我慢してもらおう。悪いね、いつも燈矢の我儘に付き合わせて。今度の給料は期待しててよ」
「はい。本当に燈矢様の成長速度には驚かされてばかりです。それと旦那様、私は燈矢様のお世話が出来ることを嬉しく思っています。お気持ちは嬉しいですが、今も沢山頂いていますのでその分は燈矢様に使ってあげてください」
これは私の本心だ。本気で私は燈矢様のお世話を嬉しく思っている。まだ2年しかお世話をしていないが、燈矢様は物凄い方だ。
物覚えが早く、2歳とは思えないほどに頭の回転が早い。会話をしているとまるで大人と話しているように感じる事もある。
燈矢様は恐らく傑物となるだろう。物語に出てくる英雄や賢者の様に。その成長を近くでみたいと私は思っている。
「そうか、なら今度燈矢が喜びそうなものでも買っておくよ。あんまり引き止めて燈矢を起こしたら可哀想だ。止めて悪かったね」
「いえ、燈矢様のご報告はまた詳しくさせて頂きます」
「楽しみにしているよ」
私は燈矢様を起こさないようにゆっくり一礼し旦那様が移動するのを待って部屋へと移動した。
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