転生し、生きていく。

わっさーび2世

転生と命

第1話

3187年1月4日20:34分


 世の中は正月休みを終え仕事が始まる時期だろう。

俺も今日から始まった仕事がようやく終わり、いつもよりも疲れた身体を動かし歩いている。まだまだ寒く吐く息も白いし、なんなら雪も降っている。


 そんな寒い日の夜に俺は友達の家に向かっていた。なんでも、「ほら、俺たちお互い親戚の集まりやら飲み会やらで会えないだろ?久しぶりにサシで飲みたいし、どよ?」との事らしい。

 別に今日じゃなくても良いだろと言いたいが、確かに最近会っていなかったしお互い何かと忙しい身だ。少しぐらい良いだろうと了承した。


 だが、1つ問題がある。

約束をしたのが年越し前の12月27日、それ以来あいつがうんともすんとも言わない事だ。今日だって朝に連絡したし、仕事が終わったタイミングや最寄り駅に着いた時も連絡した。だが、一切音沙汰がない。


 最近何かと物騒だ。飼い猫、犬が化け物になったり、人までも化け物になって暴れたり、音沙汰がないと思ったら死んでいたり、そんなニュースがここ数年チラホラ見る。


 あいつが約束を忘れてるだけならそれでいい。寝ているだけならいい。けど何かあってはいけないと思い、安否確認や生存確認も含めて念の為に友人の家に向かっているところだ。


「ついたぁ」


  そんな事を考えながら歩いていると到着してしまった。


 相変わらずボロいとこ住んでんなぁと今どき珍しいボロアパートを見ながら思う。いや、こういう古いアパートは木を使ってるし人気があるんだどうこうってのをニュースで聞いた気もするけど、このボロさは住みたくないなと思ってしまう。


「さむッ早く入れてもらお」


 あいつ生きてっかなぁ、とか思いつつボロい錆びた階段を上がり部屋の前へ立つ。


ピンポーン、ピンポーン


 反応がない。


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン


 留守なんだろうか、一応デバイスを確認するが、何の連絡も来ていない


ドンッドンッドンッ

「おーい、生きてっかぁー」

ドンッドンッドンッ


 夜なのであまり大きな声は出せないが、一応声をかけてみる。


ガチャッ


「おいおい、開いてんのかよ、不用心だなぁ」


 ほんの出来心でドアノブを捻ってみたら鍵が開いていた。


「ふむ、入ってみるか」


 迷ったが入る事に、なぁに、寝てたら叩き起して文句をいう。居なかったら土下座で謝ろう。ラーメンでも奢れば許してくれるだろ。そう思いつつ玄関で靴を脱ぎ部屋へと向かう。


「あつしー、居るかぁー、入るぞぉー」


 暗い。真っ暗だ。あいつは昔から寝る時に必ず常夜灯を付けている。それにこのボロアパートは普通に扉の隙間から光が漏れる。前に泊まった時はいくらなんでもボロすぎだろと笑いあった覚えがあるからこの暗さはありえない。


 つまり、留守って事なんだろう。


 そう考えながら暗い廊下をゆっくりと進みリビングに向かう。


 古い木造の床が一歩進む度にギシリと音を立てる。


 不思議だ、帰ればいい、おそらく留守だろう。そう思っているのに体が勝手に進んでしまう。


 俺はホラー好きでも無いから怖いもの見たさはない。


 だが、引き返しては行けない気がする。


 そんな何か不思議な感覚になりながら進みリビングに着く。


 扉を開けばリビングだ、少しドキドキしながら引き戸に手をかける。



ガラララッ


「なッ……」


 暗い、暗いから良くは見えない。だけど、居る


「おい……あつし?」


 いや、違う、こいつは違う。


「お前、誰だ…」


  問いかけながら俺はデバイスで警察に連絡する準備をする。


 そこで部屋に明かりが入った。雲が切れ月明かりに照らされて見えたそいつは──


「ッ!!おい、ぉ、おまえ…… 嘘だろ?」


 少し前、テレビでやってた化け物の話題。人間がある日突然でかくなって灰色になって化け物になる。


 そいつはその通りに灰色っぽくて、デカかい。



 月明かりに照らされていたのはそれだった。



ドシュッ



 突如それは動いた。

 どう動いたとか分からない、気づいたら目の前にいて、腹が痛かったから。


「ア、あ、つしッ…… 」


 痛い痛い痛いいたいたいイタイイタイイタイ


 何が起きてんのかぜんっぜん分かんねぇけど、兎に角いたいッ


 けどッ、それ、以上に、さむくなってきた、てか、ねむい





 俺はその眠気に抗わずに眠りについた。









 暖かい、最初に思ったのはそれだった。

何も見えなし動けないが、優しく、暖かい、少し暖かい春の時期が似ているだろうか。そんな日に昼寝してるような感じだった。


ッ!!


 そんな暖かさを堪能しているといきなり引っ張られた、少し寒くなった。もっとこの暖かな場所にいたいのに、容赦なく俺を引っ張ってくる。


 どんどん寒くなっていく。


 おい!やめろ!俺はまだここにいたいんだッ!!


 喋りたくても口が動かず、抵抗したくとも身動きが取れない。


 俺の抵抗虚しくどんどん寒い方へと向かっていき、


うぉおおぉぉぉおおぉ!!!


「んぎゃあぁぁおんぎやぁあぁぁぁ!!!」



「産まれました!産まれましたよ奥様!!元気な男の子です!!」




 どうやら俺は産まれたようです。






 産まれて2ヶ月位い経っただろうか、周りにカレンダーが無く日付を確認出来るものが無いのでその位いとしか言えない。

早めに日付を確認したいなぁと思いながら、俺はベビーベットに寝転んでいる。


 そして暇だ、とてつもなく暇だ。


 出来ることと言えば自分がどんな世界に産まれたかを考えるくらいだ。

先ず前の世界と言うのは有り得ないと断言出来る。何故なら部屋が俺の生きていた時代ではほとんど見ない木の床だからだ。

 てかベビーベットの枠も木だ、家具なんかアルミやプラ、鉄で出来たものしか実際に見た事ないからすげぇ贅沢してる気分。木材を使用した家具をネットで見た事はあるが、どこの富豪が買うんだよってレベルの値段だったのを覚えている。

 それだけ俺の居た前世は木材が貴重で家具や建築、娯楽品に使われる事も無くなった。


 いや、無いわけでは無い。実際少数でも木材を使用した家具があるんだし。だが詳しくは覚えていないが、3000年に入る頃には木材消費がやばい事になり、使用した建築は殆ど無くなったそうだ。

 残っている木材を使用した建物は寺や神社、城等の歴史的建造物か、あつしの住んでいた有り得ないボロさのアパートくらいだ。それ以外の建物は地震対策や近代化の影響で殆ど無くなった。あるとすれば国が建てた旅館とかそのくらいだと思う。


国が動かないと建てられないくらいに木材は高価で貴重なのだ。


 つまり、あつしが住んでいたボロアパートは少なくとも180年以上前に建てられた建物だ。良くもまぁそんなに長い事使えたもんだと感心してしまう。

 木材を使用した部屋や家に住むことがほとんど出来なくなった為、ある意味ものすごく貴重な建物でもあるのだろうが、あのボロさは無いなと思ってしまう。


 そういえばあいつは無事なのだろうか、この世界に産まれてから考えないようにしても思い出してしまう灰色の化け物。

 あつしがあれになったのか、全く違う人物がなったのか分からないが、状況的に見てあつしが変わったんだろうなぁ……


 まぁ、気にしても仕方ないため出来るだけ考えないようにしている。俺に出来ることと言えば、あいつが無事なことを祈るくらいだからな。


 思考が逸れたな。


 話を戻すと、この家が木を使用しているならば少なくとも俺が生きている世界よりも前の時代、もしくは別世界だろう。俺の想像がつかないくらいの金持ちな可能性もあるが、面倒くさそうなしがらみは勘弁なのでそうじゃない事を祈ってる。


 あと、決定的な物が一つ。電気が無いのだ。


 この部屋には電気を使用した照明がない。なら蝋燭でも使ってるのか?となるが、そうでも無い。


 何かが浮かんでいるのだ。


 光る玉が暗くなると浮かんでいる。と言うより暗くなる前にメイド服着た人が手から光る玉を出しにやって来るのだ。そして夜に母ちゃんと父ちゃんががお休みを言いにやって来て、光る玉を消していく。


 そんなものは俺の世界には無かった技術だ。いや、確かに魔法はあったし、少しづつ浸透して行ったが、手から光の出る魔法は聞いたことがない。せいぜい火を出したり水を出したり、特殊な人で電気を発したりって感じだった。

 ただ俺には魔脳が出来なかったし、ニュースで聞きかじったくらいしか知らないから俺が無知なだけの可能性もあるけど、、


 あと、ベビーベットから窓の外が少し見えるが、遠くに街っぽいのが見える。

けど、夜は真っ暗だ。明かり一つない。まぁ田舎の可能性も無くは無いが、現代ならどんな田舎でも街灯や建物の光など何一つ無いのはやはりおかしいだろう。


 だから俺はこの世界を創作物の様な世界、所謂ファンタジーな世界に転生したと判断した。



 そうそう、俺の名前や家族についてだけど、俺は“ひの とうや”らしい。

メイド服の人や母ちゃん父ちゃんからとうや様、とうやと呼ばれている。

苗字は多分合ってると思う。前に我がひの家がどうこうって話が聞こえたから合ってる筈だ。

 名前は日本人っぽいことを考えると日本なのでは?とも思うがファンタジーな世界にも日本っぽいところはあるし、まだ希望は捨てないでいたい。どうせならファンタジーな世界の方が楽しそうだしね。


 母ちゃんの容姿は肩より下くらいに伸ばした金髪で、綺麗な緑色の目をしたすんげぇ美人さん。おっとりしててすんごく優しい声で話しかけてくれる。


 父ちゃんは短髪の白髪でThe細マッチョのイケメンさん。顔は爽やか系に近いけどキリッとしてていかにもモテそう。あと赤い目がかっこいい。


 この2人はとてつもなく仲がいい、俺の様子を見ながらちょくちょくイチャついてるからね、そのうち弟か妹が出来そうな勢い。


 まぁ実際2人共20代前半ぽくて若そうだし、新婚なんだろう。

俺なんて前世は31だったからな、魔脳は無かったがしっかりDを守り抜いた魔法使いなのだよ。


 そんな俺から見れば父ちゃん母ちゃんはいかにも若者。


 若者よ励みたまえ。



 あとはさっきも少し言ったがメイドさんがいる。

何故メイド?とも思ったが異世界にメイドは付き物だ、多分そこそこ裕福な家っぽいから使用人として雇っているのだろう。

 俺が会ったことのあるメイドさんは、ベテランそうなおばちゃん2人と若いお姉ちゃんが4人で俺をローテーションで面倒見てくれている人達だ。



 さて、現状分かっている事はこのくらいだ。まだベッドから自力で動けないし、口が回らないから喋れない。まぁまだ産まれて2ヶ月と少しだ、ゆっくりやって行こう。



 ブッ


 あ、ぶつが漏れちった。


 はぁ、ごめんよメイドさん。


 いきます!スウゥゥウーーーッ!


「おんぎゃぁあ!おぎゃあぁぁあ!!」



ドタドタドタドタッ!!


「どうされました!?とうや様!!」



 お、ベテランのおばちゃんのようだ、悪いね、尻拭いを頼むよ。








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