第4話
自販機でお茶を買い差し出すと、少女はおずおずと受け取ってくれた。廻が「私のは?」と言うが無視する。
ひなた達は柵から離れて公園の中央に移動していた。
改めて事情を訊くと、少女は暗い表情で、ぽつりぽつりと語り始めた。色々と吹っ切れたみたいだ。
「……私、友達に酷いことをされているんです」
仲の良かった友達グループから突然無視され、必死に取り入ろうとしたら、暴力を振るわれるようになったという。今ではパシリのような扱いを受けているそうだ。
「笑いながら皆の前で押したりしてくるんです。先生の前でやられたこともあります」
「止めてくれないの?」
「……私も笑っているから……」
いじめられている存在だと周囲に思われたくなくて笑っているのだろう。気持ちは理解できる。
少女は暗い表情のまま続けた。
「それでもよかったんです。ぼっちになるよりはマシだと思ってたから。でも、だんだん暴力・暴言がエスカレートしていったんです。で、二週間前に友達の一人から『妹を連れてこい』と言われて……」
ひなたは眉を顰めた。
「それだけはやめてくれ、って頼みました。妹は関係ないって。でも、お構いなしで、連中、うちに来たんですよ。そして妹の前で、私を罵倒して暴力を振るって……。彼らが帰った後、妹は恐怖で泣いてました……」
光景が浮かび、吐き気を覚えた。
「また、同じようなことがあるかもしれません。いや、今度は妹に手を出されるかもしれない。だったら、いっそのこと……」
「早まらないでよ」
ひなたは声を上げた。
「先生とか親とか、頼れる人はいないの?」
少女は顔を伏せた。
「両親は死んでいて私達は叔父夫婦に育てられているんです。正直、あまり好かれていません。先生は暴力を振るわれているところを見て皆と一緒に笑っているだけでした。助けを求めても無意味ですよ」
重たい沈黙が流れる。
「飲み物、ありがとうございました。帰ります」
少女を慌てて引き留め、いじめ問題を相談できそうな機関を幾つか紹介する。その後、名前と通っている中学校名を聞き出してから送り出した。背中が見えなくなり、はぁ、と溜息をつく。
廻はスマホを弄っていた。誰かとやりとりをしているらしい。
「楽しいデートになったかな?」
皮肉を込めて訊くと、廻は肩を竦めた。スマホをしまい、
「まだデートは終わってないよ」
こちらに冷めた視線を向けてくる。
「今、中学の知り合いとやりとりしていたんだ。彼女がイジメられているのは有名みたいだね。で、いじめをしている五人組が今、ゲームセンターにいることがわかった」
「……まさか……」
「行ってみようよ」
薄い笑みを浮かべて言う。
「どういうつもり? 説教でもするの?」
「そんなことしないよ。ただ、ちょっと気になることがあって、質問したいんだよね」
さきほどのことが思い出される。今度はゲーム機に昇るつもりじゃないだろうな……。
「ひなたが嫌なら、私一人で行くけど?」
「わたしも行くよ」
どうして、と訊かれ、ひなたは毅然と答えた。
「デートするって約束だもん。後、そいつらに言いたいこともある」
「へえ……」
興味深そうに見つめてくる。ひなたはその視線を振り払うようにして、歩みを進めた。階段を降りながら考える。
廻は少女のために動こうとしているんだろうか?
――ありえない。
ペンを盗むような人間が、いじめ被害者を救おうなんて考えるとは思えなかった。
そう結論付け、背後をちらりと見る。
廻は心底退屈そうに階段を降りていた。
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