第10話 奪い合い
「やっぱり家は落ち着く~」
「そ、そうだな」
家に帰り着いた俺は悩んでいた。
やっぱり由奈に隠したままなのは良くないのではないだろうか。
いきなり電話番号を渡されたから困惑していたとはいえ、
「夕貴、どうしたの?」
由奈は俺の様子が少しおかしいことに気が付いたようで、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
少し様子がおかしいだけで俺のことを心配してくれる由奈に俺は隠し事をしてもいいのか?
サプライズ等の隠し事ならまだ分かるが、もしかしたら由奈が嫌がってしまうかもしれない件に関しての隠し事は良くないよな。
よし、話そう。
やはり隠し事は良くないと思った俺は、綾さんから電話番号の書かれた紙切れを渡されたことを伝えることにした。
「由奈に話さないといけないことがある」
「え、何?」
「実はさっき綾さんが仕事に向かう直前にこれを渡されたんだよ」
俺は綾さんから渡された紙切れを由奈に見せる。
すると、由奈は自分のスマホを取り出して、何かを確認し始めた。
「これ、綾ちゃんの電話番号だね」
由奈は綾さんの電話番号を知っていたようで、紙切れに書かれている番号が綾さんの電話番号と同じなのか確認していたようだ。
そしてそれは同じだったらしい。
由奈は困惑した表情を浮かべながらその紙切れを眺める。
「綾ちゃんはどういうつもりで夕貴に電話番号を渡したんだろう?」
「分からないな」
「一回、掛けてみようよ」
「今!?」
「うん。それで私がいることは伝えずに通話をスピーカーにして私にも聞こえるようにしてほしい」
「そういうことね。分かった」
「あ、やっぱり、まだ仕事だろうからもう少ししてからにしよう!」
「たしかにそうだね」
綾さんはもしかしたら俺一人でいるときに掛けてほしいと思っているかもしれないが、今回ばかりは許してほしい。
俺は由奈には隠し事をしないと決めたのだ。
今はまだ綾さんは仕事の真っ最中だろうということで、俺と由奈はもう少し時間を空けてから綾さんに電話をかけることにした。
一体、どういうつもりで俺に電話番号を渡してきたのかが分かるはずだ。
それまではテレビを見たりして時間をつぶすことにしよう。
♢
「そろそろ良いんじゃない?」
「あ、もうこんなに時間が経ってたのか」
数時間ほどテレビを見ていた俺たちだったが、由奈が時間に気づき、もうそろそろ電話をかけてもいいんじゃないかと言ってきた。
テレビを消してから、俺はスマホで綾さんの電話番号を打ち込み始める。
俺が電話番号を打ち込んだのを確認すると、由奈はこくり、と頷いた。
掛けてもいいよという合図だろう。
俺は緊張しながら、綾さんに電話をかける。
もちろん、スピーカーの状態にして。
プルルルッ……プルルルッ……
「はい、もしもし」
すぐに綾さんは電話に出た。
「あ、俺です。青井夕貴です」
「あっ、夕貴くん!? 待ってたよ~!」
俺だと分かった途端に綾さんは上機嫌な声色になった。
だが、それとは反対に俺の隣にいる由奈の表情はムスッとし始めていた。
本当はこの時点で何か物申したそうな由奈だが、必死に何も言わないように耐えているようだ。
「どうして俺に電話番号を渡したの?」
「そんなの決まってるじゃん! 今日が初対面だったけど、夕貴くんのことが少し気になったからだよ!」
「えっ!?」
綾さんの爆弾発言により、由奈は早くも耐えきれなくなってしまう。
「綾ちゃん、どういうこと!?」
「へっ? なんで由奈ちゃんが……!?」
「私の幼馴染を取ろうなんて、どういうつもり? というか、綾ちゃんは男の人が苦手じゃなかったっけ?」
由奈がいるとは思っていなかった綾さんはかなり驚いているようだった。
それより、綾さんは男の人が苦手だったのか。それなのに、俺とは普通に接することが出来ていたな。
普通どころか電話番号まで渡してきてたし。
「幼馴染なんでしょ? 恋人ではないんでしょ?」
「それは、そう……だけど……」
「だったらいいじゃない!」
「ダメなものはダメなの!」
「じゃあ勝負しようよ!」
「勝負……?」
「私と由奈ちゃんのどっちが先に夕貴くんと付き合えるのかを勝負よ!」
「えっ!?」
ちょっと待ってくれ。
二人とも俺がいること忘れてるんじゃないだろうか。突然、俺の奪い合いが始まってしまったのだが。
俺は恥ずかしすぎて顔が熱くなっているのを感じる。
そんなことも知らずに二人は話を続ける。
「由奈ちゃんはもしかして自信がないのかなぁ?」
「絶対に綾ちゃんに負けないし! 私が勝つもん!」
「じゃあ、勝負しようよ」
「うぅ……わかったよ!」
「よし、決まりね! だから、私が夕貴くんに電話をかけるのも許してね! それじゃ、また今度ね~」
「えっ……」
ツー……ツー……ツー……
綾さんは言うことだけ言って、すぐに電話を切った。
由奈は何か反論したそうだったが、電話が切られてしまったため、何も言うことが出来なかった。
「絶対に負けないから」
顔を赤くしながら悶えている俺の横で由奈はボソッとそう呟いた。
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