第9話 同じ年の女優
映画を観終わると、電気がつき、俺は隣に座ってきた女性の顔を見る。
すると、そこには俺の予想していなかった人物がいた。
それは、俺と由奈が今観ていた映画に出演している人気女優の
それに、確かこの人は、由奈のことを女優としてライバル視していると聞いたことがある。
偶然、同じ時間に同じ映画を観ていたのか。
そんなことがあり得るのだろうか。
「あ!?」
どうやら由奈も花宮綾子の存在に気が付いたようで指を差しながら声を上げた。
そこで花宮綾子は慌ててサングラスとマスクをつける。だが、もう由奈はその女性が花宮綾子であると確信しているようで、ジーっと見ている。
仕事現場などでは、二人はどういう関係なのだろう。
花宮綾子はバレたなら仕方ないと思ったようで、小さな声で「外で話そう」と言ってきた。
これは、俺もついて行ってもいいのか?
まあ、由奈が行くなら俺も行くべき、か。
そう思い、とりあえず外に出ることにした。
♢
「それで、なんでいるの?」
由奈は腕を組みながら花宮綾子を問い詰める。
花宮綾子は低めの身長で華奢な体をしているのでお姉ちゃんに怒られている妹のように見える。
「ここにいるのは本当に偶然だけど、見つけちゃったからちょっと気になって」
「てことは、私たちがご飯食べてる時見ていたのも綾ちゃんだよね?」
「……うん」
やはり、ハンバーグ食べているときに柱に隠れながらこっちを覗いていた女性はこの人だったのか。
というか、由奈は花宮綾子のことを綾ちゃんと呼んでいるんだな。よく同じ作品に出ている印象もあるし、関わることが多いのだろう。
俺はこの緊迫した空間で、ただ見守るだけである。
たまに花宮綾子が俺のことをチラチラ見てきているような気がするが、きっと気のせいだろう。
「気になったからついて来ただけなんだね? 本当に」
「う、うん」
「気になったなら普通に話しかければいいのに。ぱっと見、不審者だったよ?」
「え、不審者……?」
花宮綾子は自分の格好がおかしいということに気が付いていなかったらしい。ただの変装のつもりだったんだろうな。
「なんで普通に話しかけなかったの?」
「え、だって、この男の人と一緒にいたから……」
「あー、そっか二人とも初対面だもんね」
「うん」
由奈は当たり前のことに今気づいたようだ。俺と花宮綾子が初対面だということに。
俺と花宮綾子が顔見知るのはずがない。
俺はただの高校生で、花宮綾子は誰もが知っている若手有名女優なのだから。
でも、たしか年齢は俺や由奈と同じだったはずだ。だから、由奈も普通にタメ口で話しているんだな。
「二人ともお互いに自己紹介したら?」
由奈は俺と花宮綾子に互いに自己紹介をするように勧めてきた。
これから関わっていくことがあるのかどうかは分からないが、お互いを知っておいて損はしないか。
よく考えてみたら、今、花宮綾子のファンに見られたら俺、ヤバいんじゃね?
そんなことを考えながらも俺は自己紹介を始める。
「俺は、由奈の幼馴染の青井夕貴です。よろしくお願いします」
「幼馴染……」
俺が由奈の幼馴染だと聞くと、花宮綾子は何故かホッとしたような表情になった。
「私は、女優をやっている花宮綾子です。気軽に綾とか、綾ちゃんって呼んでくれると嬉しいです」
「よろしく、綾さん」
「呼び捨てでいいよ?」
「いきなり呼び捨てですか?!」
「う、うんっ」
綾さんは突然顔を赤くさせた。
由奈に対してもよく思うことがあるのだが、綾さんもどの瞬間も映画のワンシーンになりそうだなぁと思う。
そんなことを考えていると、由奈が俺と綾さんの会話に割って入る。
「二人の世界を作らないでっ」
「いや、そんなつもりはないよ、由奈」
由奈は俺の腕をぎゅっと掴む。
「夕貴は私の一番なんだから!」
「ごめんごめん、そんなつもりはなかったから許してよ由奈ちゃん」
綾さんも軽く謝った。
「……それならいいんだけどさ」
由奈は怒っていても可愛いなぁ。
こんなことを考えているとバレたら余計に怒られてしまいそうだ。
「あ、そろそろ帰らなきゃ」
「綾ちゃん、帰るの?」
「うん、今から仕事があるの。またなんかの撮影で一緒になったらよろしくね!」
「あ、うん」
やはり人気女優は忙しいんだな。
最近まで由奈も毎日のように仕事だったからな。人気のある女優は大変そうだ。
「あ、そうだ」
綾さんはそう言うと、俺の近くまで寄ってきて紙切れを渡してきた。
中を確認すると、そこには電話番号だと思われるものが書かれていた。
「えっ!?」
俺が困惑していると、綾さんは俺に向けてウィンクをしてから仕事へと向かって行った。
これって、絶対に綾さんの電話番号だよね。
これを渡してきたってことは後から掛けないとダメだよな?
初対面の俺に電話番号を渡してくるなんて正気なのか?
由奈の幼馴染だからってことで信頼してくれているのかもしれないが……。
「なんか渡されてなかった?」
「え、いや、何でもないよ」
「そう? それならいいけど」
別に隠す必要はないはずだけど、何故か俺はその紙切れをポケットの中に隠してしまった。
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