第7話 一緒に住んでます

 ドアを開けると、そこには予想通り翔也がいた。

 急な呼び出しにもかかわらず来てくれて助かった。


「悪いな、急に呼び出しちゃって」

「いや、ベッド運ぶだけだろ? そんくらいなら別にいいよ。それに、夕貴の家には行きたいと思ってたからな」

「本当に助かる」


 俺は翔也を連れて早速、由奈の部屋と向かおうと思ったが、その前に由奈に合わせた方が良いと思い、リビングへと向かった。


 リビングに着くと、当たり前だが由奈がいる。

 由奈は俺が翔也を連れてきたことに気が付くと、立ち上がり笑顔を見せる。


「え……どういうこと……?」


 翔也は由奈と俺を交互に見て困惑し始める。予想はしていたが、こうなってしまうよな。

 まさか俺と由奈が一緒に住んでいるなんて思いもしなかっただろうしな。


 とりあえず、何も隠さずに真実を話すとしよう。


「俺と由奈は一緒に住んでるんだ」

「そ、そうだったのか!? いやぁ、全く知らなかった」

「まあ、言ってなかったからな」

「ビックリしたけど、よく考えたら学校でも一緒にいたもんな。いや、だとしても一緒に住んでるのは予想外過ぎるけど」

「すまんな。よし、早速だけどベッドの移動するか」

「おう、任せとけ」


 翔也に俺と由奈が一緒に住んでいることを伝えるとすぐに納得してくれた。

 だけど、この後にまた驚くことが待っているんだよな。

 俺と翔也はベッドを移動させるために、由奈の部屋へと向かった。


 由奈の部屋に向かう直前に由奈に小声で「翔也も部屋に入れていいんだよな?」と聞くと、こくり、と頷いてくれた。

 由奈もそこは覚悟をしてくれていたのだろう。


 由奈の部屋に着くと、翔也は不思議そうな顔をしながら俺に聞いてくる。


「ん、ちょっと待て。ここって、由奈さんの部屋か?」

「そうだけど?」

「待て待て待て。もしかして、ベッドって、由奈さんのベッドを運ぶのか?」

「そうだよ」

「どこに?」

「俺の寝室に」

「はあっ!?」


 これが二度目の驚き案件だろう。

 運ぶベッドが由奈のベッドだと思っていなかっただろうし、さらには運び先が俺の寝室なのだ。


 俺も逆の立場だったら同じような反応をしていると思う。

 それに、由奈はただの女子高生ではないのだ。俺からすれば仲の良い幼馴染ではあるが、一般的に見れば有名な大人気女優なのだ。

 そんな人と一緒に暮らしているだけでも驚く話なのに、それに加えて寝室を一緒にしようとしているのだ、そりゃあ翔也の様な反応になる。


 だが、これは由奈の望みなのだ。

 誰が断ることが出来る? 誰もできないだろう。


「その反応になるのも分かるけど頼む」

「いや、別に頼みを断るつもりはないけど……二人は一緒の寝室になるってことだよ、な?」

「まあ、そうなるね」

「いやぁ、学校のみんなが知ったら羨ましがられるぞ」

「言わないでくれよ?」

「分かってるよ」


 翔也はニヤニヤしながら俺のことを肘でつついてくる。

 翔也以外の男子だったら憎悪に満ちた視線で俺のことを見てきそうなものだが、どうやら翔也は違うらしい。憎悪どころか俺をからかうような反応を見せてくる。

 こういうところが友達で良かったなと思えるところなんだよな。


 そんなことを思いながらも俺たちは由奈の部屋に入り、早速ベッドの移動に取り掛かる。

 そこまで大きいベッドではないのですぐに移動させることが出来そうだ。

 それでも大変なことに変わりはないのだが。


「よし、運ぼうか」

「オーケー、俺はこっち側持てばいいよね?」

「うん、頼む」

「よし、それじゃあ、いくよ? せーのっ」


 その後、俺と翔也は壁にぶつけないように慎重に由奈のベッドを俺の寝室へと運び込んだ。

 どういうわけか、翔也は由奈のベッドを俺のベッドの横にくっつけて置いた。少し離した方が良いだろうと思ったが、翔也はこの位置が完璧だと言う。


 俺が毎日寝不足になる未来しか見えないな。


 ♢


「今日はありがとな。今度お礼に何か奢るよ」

「おう、楽しみにしてるぜ」

「また学校でな~」


 ベッドを運び終えると、翔也は帰っていった。

 俺としては、ここにもう少し居て三人で話したりしても良いと思ったのだが、どうやら用事があるらしい。


「由奈~、終わったよ~」

「移動できた?」

「うん。だけど、なぜか翔也がベッドをくっつけちゃったんだけど、よかった?」

「うんっ! むしろ、これが良い!」

「そう? それならいいか」


 どうやら、翔也の計らいは大正解だったようだ。

 由奈も二つのベッドをくっつけるという配置を気に入ってくれたようだ。

 まあ、俺が毎日ドキドキして眠れなくなるかもしれないだけだから、いいか。


「これで毎日寝る直前まで話せるねっ」

「そ、そうだな」


 由奈は本当にうれしそうにはしゃいでいる。


「あ、まだこんな時間か」


 ふと時計を見ると、まだ正午を回ったばかりだった。

 せっかくだし、由奈をどこかに連れて行ってもいいかもしれないな。もし、由奈が望むのなら、だけど。


「まだ昼だけど、どこか行きたい?」

「うん、行きたい!」

「どこ行きたい?」

「うーん、とりあえず何か食べたい!」

「よし、準備したら行こうか」

「やった!」


 こうして俺たちは外に出る準備に取り掛かったのだった。

 いつまで由奈とこうして外で食べに行ったり遊びに行ったりできるか分からないからな。もしかしたら、急にまた仕事が大変になるかもしれないし。

 だから、俺は出来る限り由奈の要望には応えてあげたいと思っている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る